技術資料
歩行者の視認に与える光幕の影響
研究開発本部 技術研究所 照明研究室
研究開発本部 新事業開発部
国立大学法人東京工業大学大学院 中村 芳樹
キーワード
歩行者照明,グレア,等価光幕輝度,視認性,省エネ
4.考察(つづき)
4.3 グレアによるエネルギー損失の検討
グレアによる顔の視認性の低下を,電気エネルギー損失への換算を試みる。ここでは,道路20m区間の半円筒面照度及び等価光幕輝度の平均値で考察する。また,4.2節と同様の条件下(表4)に照明器具Aと照明器具Bが設置されているものとする。
まず,グレア(等価光幕輝度)の相違による照明器具Aと照明器具Bとの所要半円筒面照度の差異を求める。
道路20m区間の等価光幕輝度の平均値と等価な背景輝度(1cd/m²と仮定)から,(2)式より所要半円筒面照度の平均値を求める。結果は,表6に示す通りであり,照明器具Aと照明器具Bとの差異は,半円筒面照度0.84ℓxである。
照明器具Bで照明器具Aとは同じレベルの顔の視認性を得るには,少なくとも,照明器具Bでは,半円筒面照度を0.84ℓx以上高く設計する必要がある。すなわち,照明器具Bでは,道路20m区間の平均の半円筒面照度を3.54ℓx(=2.7ℓx+0.84ℓx)にする必要がある。したがって,照明器具Bのランプ光束は約900ℓm 多い3800ℓmを必要とし,これをコンパクト形蛍光ランプのワットに換算すれば,約10Wになる。
以上より,照明器具Bは,グレアがあるために,照明器具Aより約10Wの電気エネルギーを浪費していると言える。
照明器具A(図5) | 照明器具B(図6) | |
---|---|---|
コンパクト形蛍光ランプ32Wの光束(ℓm) | 2900 | |
半円筒面照度(ℓx) (高さ1.5m平均値) |
3.1 | 2.7 |
等価光幕輝度(cd/m²) (高さ1.5m道路中央,20m間の平均値) |
0.175 | 0.486 |
上記の等価光幕輝度がある場合の 顔の識別に要する半円筒面照度(ℓx) (等価な背景輝度1cd/m²と仮定) |
3.80 | 4.64 |
上記半円筒面照度の差(ℓx) | 0.84 | |
同等の顔の視認性を得る照度(ℓx) | 3.80 | 2.7+0.84 |
所要ランプ光束(ℓm) | 2900 | 3800 |
所要ランプ電力(W) | 32 | 42 |
上記所要ランプ電力の差(W) | 10 |
5.まとめ
筆者らは,CaminadaとVan Bommelが示したThreshold Increment(TI)の値により顔の識別に要する照度が異なることに着目し,グレアによって顔の識別に要する輝度がどの程度損なわれるかを定量的に把握することを試みた。
本実験から以下の知見を得た。
- 顔の識別に要する輝度(照度)は,"等価な背景輝度+等価光幕輝度"により決まる。
- 照明器具からのグレア(等価光幕輝度)を抑制すれば,顔の識別に要する輝度(照度)を低く抑えることができる。
本研究からは,例えば,等価な背景輝度を1cd/m²と仮定した場合に,等価光幕輝度を0.1cd/m²削減すると所要顔面輝度が0.028cd/m²(0.28ℓx)抑えられる。 - グレアによる顔の視認性の低下を電気エネルギーの損失に換算した例では,コンパクト形蛍光ランプ32Wを用いた場合には,グレアの多い照明器具Bは,照明器具Aより約10Wの電気エネルギーを浪費している。
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第17号掲載記事に基づいて作成しました。
(2007年9月14日入稿)
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