技術資料
歩行者の視認に与える光幕の影響
研究開発本部 技術研究所 照明研究室
研究開発本部 新事業開発部
国立大学法人東京工業大学大学院 中村 芳樹
キーワード
歩行者照明,グレア,等価光幕輝度,視認性,省エネ
4.考察(つづき)
4.2 顔の視認性と照明器具の配光の関係
顔の識別に要する輝度は,照明器具から生じるグレア(等価光幕輝度)の影響を受ける。そこで,照明器具の良好な配光を検討することを目的に,配光の異なる2種類の照明器具による顔の視認性を比較する。
照明器具A(図5)は,グレアを多少制御した例であり,照明器具B(図6)は,グレアをほとんど制御していない例である。これらの照明器具が,表4に示す条件下で設置されているとする。この時の,路面の照度分布および歩行者の目の位置(1.5m)の半円筒面照度分を図7~10に示す。また,道路縦断面中央における歩行者の目の位置の等価光幕輝度を図11に示す。それぞれの照度及び輝度の平均値をまとめ表5に示す。
注記:曲線上の数値は,維持照度を示す。単位:ℓx
注記:曲線上の数値は,維持照度を示し,受光器の向きは右向き。単位:ℓx
道路幅員 | 4.0m |
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照明器具間隔 | 20m(連続照明) |
取付高さ | 5.0m |
ランプ(光束) | コンパクト形蛍光ランプ 32W(2900ℓm) |
照明器具A(図5) | 照明器具B(図6) | |
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路面の平均照度 (幅員4m道路20m区間の平均値) |
6.2 ℓx | 4.0 ℓx |
半円筒面照度 (高さ1.5m,幅員4m道路20m区間の平均値) |
3.1 ℓx | 2.7 ℓx |
等価光幕輝度 (道路縦断面中央20m区間の平均値) |
0.175cd/m² | 0.486cd/m² |
- 注記:各照度値は,保守率0.7として算出した。
次に,道路縦断面中央の20m区間に,4mの間隔を置いて視標(顔)と被験者が対峙している場合を想定し(図12),配光の違いによる視認性の相違を考察する。また,この時の等価な背景輝度を1cd/m²と仮定する。
顔の識別に要する輝度は,等価光幕輝度(図11)と等価な背景輝度(1cd/m²)との和から(1)式を用いて推定する。次に,これを(2)式を用いて半円筒面照度に換算7)する。なお,この照度を顔の識別に要する所要半円筒面照度とする。
図13は,照明器具Aまたは照明器具Bによって得られる半円筒面照度と所要半円筒面照度との比を描いた図である。この図は,この比が1よりも大きければ,顔の識別が可能であることを示す。
顔の識別が可能な区間は,照明器具Aでは20m区間中の12m区間(60%)であり,照明器具Bでは20m区間中の8m区間(40%)である。20m区間の半円筒面照度の平均値は,照明器具Aが照明器具Bよりもわずかに高い。しかしながら,顔の識別が可能な領域は,照明器具Aの方が照明器具Bよりも20%も広い。これは,グレア(等価光幕輝度)の差異によるものと考えられる。照明器具Bは,高い半円筒面照度が遠方まで得られるように,高い鉛直角度(水平方向)に強い光度を有している。しかし,この水平方向の光は,逆にグレア(等価光幕輝度)を増大させ,顔の視認性を悪くしている。
以上より,照明器具の配光は,水平方向の光をコントロールしたものが推奨される。
参考文献
- 川上:顔の輝度と半円筒面照度の関係,照学誌,Vol.74, pp.348-353(1990).
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