技術資料
霧環境下における照明シミュレーションソフトの開発(その1)
技術開発室 技術部 技術開発グループ
中央大学 理工学部 牧野 光則,笹田 真也
キーワード
安全,安心,霧,視線誘導灯,照明,シミュレーション
3.シミュレーション手法
現在の照明計算では,霧の影響を考慮しない条件で計算し,所定の位置に必要な明るさ(照度・輝度)が出ているかを確認している。しかし,霧が発生することで,光は霧の粒子に当たり,散乱する。これによって,求める地点の照度や輝度が変化し,見え方が低下する恐れがある。
本開発では,光の霧粒子での散乱モデルとして,Mie散乱用語1,レイリー散乱用語2,幾何光学的散乱用語3の内,可視光の波長が380nm~780nmであり,霧の半径が10μm~100μmであることを考えると,霧の粒子の大きさは光の波長の100~1000倍となる為,幾何光学的散乱における,屈折,反射,吸収の考え方を用いることにした。
また,計算時間を短くする為に,光源(太陽)からの光線を追跡するのではなく,視点から逆追跡する手法(画像の1ピクセル用語4毎の輝度計算)を採用した。
図3に散乱モデルの考え方を示す。このモデルでは,各視線について,視程用語5から導いた確率分布と,屈折・反射・吸収の確率分布から,その視線の最終的な到着点を決め,その到着点の輝度(光源/太陽/誘導灯/障害物/空間/路面等)と確率分布から,1ピクセル毎の輝度を求める。
仮に,ある視線が,50%の確率で誘導灯,残り50%が路面などの背景であれば,その輝度は加重平均となる。
4.開発目標
霧が発生した状態での対象物(視線誘導灯や障害物)の輝度を,散乱モデルで正確に計算し計算値を得ると同時に,画像で分かり易く視覚的に確認できるようにする。このため,霧散乱モデルと画像表示モデルを開発する事にする。
霧散乱モデルの作成上は,霧が均一に浮遊し霧粒子は全て同じとするが,これらは変数で与え,更に,霧の厚さや視程,時刻(太陽位置の算出)が考慮できるようにする。また,画像表示の観点から,人間の視線位置,方向と高さを任意に入力出来るようにする。
4.1 視線誘導灯の解析モデル
視線誘導灯は急カーブ,分岐箇所及び,車線減少箇所などの路側帯に一定間隔で設置し,視線誘導効果と共に道路線形の視認性を高める目的で設置されている。しかし,霧環境下での視認性については,十分検討されているとは言えない。解析モデルでは,視線誘導灯(複数可能)の発光面の大きさ,面輝度(配光),高さが変数で入力できるようにする。更に,太陽光がある状態でもシミュレーションが出来るようにする。
この解析モデルにより,視線誘導灯の面輝度と霧の濃度による,視線誘導灯の有効性や設置位置の検討に役立て,更に,視線誘導灯の面輝度,大きさ等の仕様決定に役立てる。
4.2 照明灯による解析モデル
関越道沼田地区での実験によると,霧が薄い場合はポール式での照明は有効であるが,霧が濃い環境では,照明光が霧の粒子に遮られ(光減衰),その霧の粒子によって反射(光の散乱)する現象が起こり,障害物が見づらくなった。このような濃霧発生地区での照明は,光の減衰を極力少なくし,路面近くで斜め追い光線の照射方式で配光を狭くする事が有効であると報告されている。(文献3,文献4)
今回開発する解析モデルでは,障害物の位置(複数可能),大きさ,反射率,照明灯の位置(複数可能),配光,光束が変数で与えられるようにする。これによって,様々な条件を想定した,幅広い机上検討が可能となる。また,昼間の太陽光下で,霧が発生した場合でも,シミュレーションが出来るようにする。
この解析モデルにより,霧環境下での照明灯の有効性の検討と共に,照明手法,配光形状や配置の検討,更には新商品の開発支援に役立てることを目標とする。
[補足資料]用語解説
- 用語1:Mie(ミー)散乱
- 入射してくる電磁波の波長とそれを散乱させる粒子の半径が同じ大きさである場合の散乱。この散乱は,あまり波長に依存しない。空気が汚れた日には空が白っぽく見えるし,晴れた日に青空を背景にして,積雲や入道雲は白く見える。これは,太陽光線が大気中のエアロゾルや雲粒によってミー散乱され,散乱光は入射した太陽光と同じように白色光に近いからである。
- 用語2:レイリー散乱
- 入射してくる電磁波の波長が粒子の半径より非常に大きい場合の散乱。この散乱では,散乱光の強度は電磁波の波長の4乗に反比例する。可視光線の波長は気体分子の半径よりはるかに大きいので,波長の短い光線ほど空気分子によってより強く散乱される。空が青く見えるのは,青い光(波長:0.45μm)の方が赤い光(波長:0.71μm)に比べて波長が短いため,気体分子によって約6.2倍も強く散乱されるためである。
- 用語3:幾何光学的散乱
- 電磁波の波長が粒子の半径よりずっと小さい場合には,幾何学的に電磁波の進行方向を計算して差し支えない。雨粒の半径はmm程度であり,可視光線の波長よりずっと大きい。虹の見え方については,幾何光学的に太陽光線が雨粒で2回の屈折と1回の反射を行うことで起こる現象と説明されている。
- 用語4:ピクセル
- 画像を構成する単位要素。一般にはピクセルとドットが同義に使われているが,ドットと言った場合,本来は色や色深度の情報は含まない「点」を意味する。したがってカラー画像の最小単位はドットではなくピクセルと称するのが正確である。
- 用語5:視程
- 対象物が肉眼で認められる最大距離で,光学的には,光がある空間を通過して5%(0.05)になったときの距離である。視程が1km以下のものを霧といい,それ以上のものは霞と扱われている。視程が40m~50m以下になると,通行止めなどの交通規制がかかる。
参考文献
- 高速道路技術センター:関越自動車道 沼田地区霧に対する照明設備等の効果検討報告書,平成2(1990)年3月.
- 高速道路技術センター:関越自動車道 沼田地区霧に対する照明設備等の効果検討報告書その2,平成3(1991)年3月.
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