技術資料

光害問題と光放射による作用効果

技術開発室 技術部

キーワード

光害,障害光,傷害光,生体リズム,光放射

3.動植物に対する光放射の作用効果15)16)

人工光は,生態系に種々の作用効果を及ぼすが,それは動植物などの種類,その環境条件,季節等によって千差万別である。生態系への影響で重要なことは,あるエリアで生息・繁茂している多様な動植物の間には極めて複雑な交絡関係があるので,例えば,人工光に誘引されて飛来する昆虫などの分布が変化すると,それを餌として集まる小動物の分布が変化し,その結果植物の分布にも影響を及ぼすなど,そのエリア全体の生態系が損なわれてしまうことである。

人工光の影響の多くは,地球上の生物がその日周(昼夜)や年周(日長)の変化に適応するように進化してきたので,通常ならば光放射がほとんどなくなる時間帯に,動植物が反応するレベル以上の刺激があった結果と考えられる。

3.1 植物への作用効果

(1)波長域と植物の生育17)18)

図9 植物の生育に有効な波長の分類

植物の生育に有効な光放射は,5波長域(図9)に区分される。光合成に有効に作用するものは400~700nmであるが,生理的に有効な放射は,これに近紫外光(300~400nm)と遠赤色光(700~800nm)が加わった波長域である。

植物が生育するには,光合成で吸収するCO₂が,植物の呼吸によって放出するCO₂より大きいことが第一の条件となる。CO₂の放出と吸収が等しい点を光補償点と呼ぶ。

植物の種子の発芽,茎や葉の伸長成長,花や果実の着色などの形態形成には,5波長域の光放射が作用する。一般的には,遠赤色光が多いと,茎が伸張し花成が促進されて開花が早まり,青色光(B)が多いと,茎が伸びないで矮(わい)化し葉が厚くなるとされる。茎や葉の伸長成長には,赤色光(R)・遠赤色光(FR)も関与し,R/FR比が小さいと伸長傾向を示し,大きいと矮(わい)化傾向になる。また,花や果実の着色には近紫外光(300~400nm)が関与するとされる。

(2)日長と花芽の形成・落葉や休眠誘導

花芽の形成は,日長時間が制御しており,これを光周性と言う。日長とは,太陽光の年周期の変動であり,12時間以下で花芽を分化するものを短日植物,それ以上を長日植物,特定の日長に依存するものを中日植物と言う。

光周性は,2種類のフィトクロムと呼ばれる活性色素によって調整されており,赤色光を吸収するものと遠赤色光を吸収するものとの比が,太陽の照射パターンの変動によって変化することにより起こる。この特性は,数ℓx程度の低照度で反応を進行させることができるので,菊,イチゴ,カーネーションなどの栽培技術として活用されている。

一方,落葉や休眠誘導も日長が関与しており,通常,短日を感知することよってもたらされる。

(3)人工光による影響

人工光による影響の多くは,日長リズムが乱されたことによるものが多いが,その影響は,光放射量,温度や水分条件などが複合して起こる。光放射の影響を受け易い植物の例19)20)21)として,水稲やホウレンソウがある。

図10 水銀灯の照度と出穂遅延日数の関係(終夜照明)(川村)

水稲は,日長が短日になった時期を感知して,花芽形成が促進され,出穂する短日植物である。水稲への影響は,播種後60日から刈り入れ前70日の間の「感光性期間」に,あるレベル(照度換算で約5ℓx)以上の人工光があると出穂が遅延(図10)する点にある。出穂が遅延すると,その後の温度変化などの要因と複合して,寒冷地域などでは登熟に影響が生じ,収穫が減少するという問題が生じる。夜間照明(高圧ナトリウムランプ)による収量(玄米重)の低下は2~20ℓxで顕著であり,約20ℓxで0gとなったとの報告もある22)

ホウレンソウの伸長は長日条件下で始まる。したがって,あるレベル以上の人工光があると,長日条件が満たされ,その伸長が進むことによって,はやばやと「薹(とう)」がたってしまい,商品にならなくなってしまうと言う問題が生じる。この条件は,品種や温度によっても異なるが,弱いものでは長日期に5ℓx程度(照度換算)でも影響を受けるとされる。

一方,街路樹などは,街路灯の光がもたらす人工的な長日環境の影響で落葉が遅延するものがある(表2)。落葉の遅延(不必要に着葉期が伸びること)は,樹木に生理的負担をかけることになり,やがては活力低下につながる恐れがあるとされる23)

表2 夜間照明による街路樹の落葉期への影響(三沢・高倉)
区別 樹種
樹冠の葉が一様に影響を受け,晩冬まで多くの葉を残すもの スズカケ・ニセアカシア・ユリノキ
樹冠の葉が多く影響を受けるが,やがて周囲から落葉していくもの アオギリ
枝の先端部分にのみ葉を残すもの トウカエデ
落葉遅延に影響の見られないもの ケヤキ・イチョウ

注)300Wセルフバラスト水銀ランプ2基による夜間照明実験による。

3.2 動物への作用効果15)16)24)

動物の多くも,色々なリズムの組合せで,生命活動を維持している。これらの生体リズムも,昼夜の変化や日長の変化に適応するように進化し,獲得したものである。しかし,それぞれの動物が生息している地域・光環境や生活様式などが異なると,光放射による反応も千差万別である。光を好むものもあれば忌避するものもあり,時刻やその強さなどによっても異なる。

(1)走光性と明順応

光放射の刺激に反応して,動物が方向性のある運動をすることを走光性と言う。光放射に誘引されるものを正の走行性,忌避するものを負の走行性と呼ぶ。昆虫や魚類については,この特性が良く知られており,農業・牧畜や漁業で活用されている。

図11 昆虫の視感度の一例

一般に昆虫の視感度(図11)は紫外域にあるので,この領域への放射の多い光源を用いれば,正の走行性を示す害虫を誘引・捕虫することができる。また,光を忌避する夜間活動性の夜蛾類は,暗い環境下で活発な状態(暗適応状態)になり,明るい環境下では静止状態(明適応状態)になる。明適応させる時間は,青色光(ピーク波長470nm)と黄色光(ピーク波長580nm)とが比較的短いことが知られており,このことを利用すれば,夜蛾類による農作物への加害を直接的に抑制することができる。特に黄色光は,正の走行性を示す昆虫の誘引を抑えながら,夜蛾類の防除に有効に働く25)ので,農作物の減農薬や無農薬化への貢献が期待されている。

図12 海洋に入射する太陽光
(海藻資源養殖学緑書房,徳田・大野,小河,1992)

また,魚類の視覚は,種類によっても異なるが,可視域から紫外域まで認知することができ,人の50倍以上の感度を持つと言われている。イワシ,アジ,サバ,サンマ,イカなどは正の走光性を示し,光放射によって魚群が誘引されるので,集魚灯漁法が活用されている。用いられる光源は,多くの海産魚の最大感度が480~510nm付近にあることから,可視域に効率よく発光するHIDランプなどが適する。効果が得られる照度(水中)は,魚種によって異なるが,アジで約0.2~2ℓx,ゴマサバで約0.3~3ℓx,スルメイカで約2.2×10⁻⁵ℓxとされる。参考として,海洋に入射する太陽光を図12に示す。

一方,アカウミガメの稚ガメを海側に誘引する刺激は,海側からのUVである可能性が高いとの報告もある26)

(2)人工光による影響

光放射が動物の繁殖や種々の生理作用に影響を及ぼすが,その影響の程度,範囲及び作用メカニズムに関しては,不明な点が多い。

家禽・家畜・多くの野生動物などの季節繁殖動物は,繁殖や代謝機能に日長の影響を受ける。日照時間が長くなる時期に繁殖期を持つ動物を長日動物(ウマ,多くの野生動物),その逆のものを短日動物(ヒツジ,ヤギなど)と言う。家禽・家畜などの生産現場では,この日長の変化(明期/暗期比)を適切にコントロールすることによって,乳・肉・卵などの生産活動の最適化が図られている24)。特に鶏舎では無窓化が普及し,色々な光環境が設定できる照明システムも導入されている。また,マスやアユなどは,日照時間が短くなる秋から冬にかけて産卵するので,養殖場などでは日長時間を調整し,産卵期をコントロールすることが行なわれている15)16)

いずれにせよ,人工光による動物への影響の多くは,植物と同様に,通常ならば光放射がほとんどなくなる時間帯に,動物が反応するレベル以上の刺激があった結果,日長リズムが乱されたことによるものであると考えられる。しかし,家禽・家畜や魚類の養殖などでは,光環境を制御することでその作用効果を明確にすることができるが,自由に移動できる動物については,その影響がほとんど分かっていない。

いずれにせよ,光害として動物への影響を低減するには,照明を設置しようとする地域の生態系を調査し,そこに生息する個々の種について個別対策を講じる方法が最も現実的であると考えられる。

4.おわりに

光放射が人間や動植物などに及ぼす作用効果を概観した。光害対策は,光放射に対する反応・作用効果が,それぞれ異なっているので,一般解を定量的に示すことは困難である。地域・地区に応じた最適解を考えるためには,被害を及ぼす個々の作用効果のメカニズムをよく理解することが重要であり,本資料がその一助となれば幸いである。なお,更に深い事項については,参考文献を参照願いたい。

参考文献

  1. (社)照明学会:光バイオインダストリー,オーム社 (1992.4).
  2. (社)照明学会:UVと生物産業,(株)養賢堂 (1998).
  3. 田沢信二:各種人工光源と植物育成効果,IWASAKI技報,No.2, pp.27-39(2000.8).
  4. 後藤英司:光質と植物育成,照明学会誌,Vol.88, No.6, pp.330-335(2004).
  5. 蓑原善和:農林水産業の光環境・人工光源の利用-現状と将来,農業電化,Vol.50, No.4, pp.22-28(1997).
  6. 蓑原善和:植物の照明影響,照明学会誌,Vol.80, No.10, pp.741-745(1996).
  7. 高尾保之:夜間照明による野菜への影響,照明学会誌,Vol.88, No.6, pp.330-335(2004).
  8. 岩谷,山本,古賀:水稲の収量と生育に及ぼす夜間照明の影響,農業環境工学関連5学会2003年合同大会 C510(2003).
  9. 三沢,高倉:夜間照明による街路樹の落葉期への影響,造園雑誌,Vol.53, No.5, pp.127-132(1990).
  10. 山田眞裕:動物と照明,照明学会誌,Vol.80, No.10, pp.336-340(1996).
  11. 農業害虫の光による物理的防除,生態工学シンポジウム論文集,(2004.10).
  12. 川村軍蔵,他:ふ出アカウミガメは紫外線に誘導されて向海する,2004年度日本水産学会全国大会講演要旨集601(2004).

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第12号掲載記事に基づいて作成しました。
(2005年4月14日入稿)

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