技術資料

カメラ監視のための見え方事前予測の研究 - その1 モデリングとモニター映像の関係 -

技術開発室 技術部 技術開発グループ

キーワード

CCDカメラ,セキュリティー,監視,事前予測,照度,モデリング

5.考察(つづき)

5.3 モデリング効果の記述方法

照明設計において,照明ベクトルの方位(ø)と高度(α)ならびに照明ベクトル・スカラー照度比の3つのパラメータを用いて,良好なモニター映像を得るよう計画すると大変複雑な作業になる。照明設計では,照明設計上の取扱いが容易な照度をパラメータとして,照明条件を記述することが望まれる。

そこで,我々はF.Haegerの6面照度の概念を基に,照明ベクトルをその方位(ø)と高度(α)を基に水平成分と垂直成分に分け,垂直方向の照度として上下方向の水平面照度の差を,水平方向の照度として互いに直行する鉛直面照度の差2方向に分解すると共に,頭部に入射するスカラー照度(総光束)として平均球面照度を,顔の識別に寄与する量として半円筒面照度(カメラ方向)を選定し,モデリング効果の記述を試みた。なお,光が6つの平面に入射する方向を照度の向きと考えると,これらの照度は次式6)のように表すことができる。

これらを基に,評価刺激撮像時の照明条件を,上下方向の水平面照度(Ehu,Ehd),4方向の鉛直面照度(Evf,Evr,Evb,Evl),平均球面照度(Es),半円筒面照度(Esc)などに換算し,モデリング効果の記述方法を検討した。

その結果,表4に示すように,「(Ehd-Ehu)/Es」と「(Evr-Evl)/Esc」あるいは「(Evr-Evl)/Es」を用いれば,顔の識別が可能な評価刺激とそうでない物とが十分区別できる位置関係に布置された。しかし,平均球面照度による「(Evr-Evl)/Es」では,照明ベクトルの大きさが同じ時に,その方位120度と60度の区別がつかないことから,半円筒面照度を用いる方が良いと考えられる。

図24と図25は,「上下の水平面照度の差と平均球面照度の比(Ehd-Ehu)/Es」と「顔左右の鉛直面照度の差と半円筒面照度の比(Evr-Evl)/Esc」を軸に,評価刺激を布置したものである。

図24は,表3に示した評価得点に応じて評価結果を5つに分類して布置したもので,顔の識別が可能な評価刺激とそうでない物とが十分区別できる位置関係に布置されていることが分かる。なお,図中で実線の丸で囲んだ評価刺激は,照明ベクトルの方位が120度のデータで,逆光状態あるため目・鼻・口などに陰影が生じず「陰影が弱い」と評価されたもので,この顔正面が暗い評価刺激もこの図中では外周に布置された。

一方,図25は,評価刺激そのものを布置したもので,この提案する2つのパラメータを用いると,評価刺激が「人の識別の程度」に応じて,良好な位置関係に布置されることが確認できる。

図26は,以上の検討を基に,表5に示す分類で人の識別の程度を区分したものである。

表4 モデリング効果の記述方法の検討結果
  (Evf-Evb)/Es (Evr-Evl)/Es (Evf-Evb)/Esc (Evr-Evl)/Esc
Ehd-Ehu × × × ×
Ehd/Es × × × ×
Ehd/Esc × × × ×
(Ehd-Ehu)/Es × ×
(Ehd-Ehu)/Esc × × × ×

○:ほぼ評価が分離して布置できる ×:評価が分離して布置できない

表5 評価カテゴリー間の距離
区分 顔の識別の程度 距離尺度
1 陰影が適度で,顔の輪郭・目鼻立ちが,明瞭に分かる 2.5~3.8
2 陰影が強い(弱い)が,顔の輪郭・目鼻立ちが,やっと分かる 1.6~2.5,3.8~6.3
3 陰影が強(弱)すぎて,顔の輪郭・目鼻立ちが,ほとんど分からない 1.0~1.6,6.3~8.6

図24 評価結果の布置

図25 評価刺激の布置

図26 モニター映像と顔のモデリング効果の関係

6.まとめ

本研究は,監視カメラなどによって「顔の識別」が可能な映像を得るための照明条件を明らかにすることを目的に,Cuttleのモデリング評価実験を参考に,モデリングの異なる評価刺激を作成し,モニター上で「顔の識別」の程度を評価した。その評価結果を基に,照度をパラメータとしたモデリング効果の記述方法について検討した。

その結果,我々は以下のことを明らかにし,照明計画時に良好な映像を得ることができるか否かの予測を可能にした。

  1. 今回使用したCRTモニターと液晶モニターの各評価結果には,有意な差が見られなかった。
  2. モニター映像上の顔のモデリング効果は,「上下の水平面照度の差と平均球面照度の比(Ehd-Ehu)/Es」と「顔左右の鉛直面照度の差と半円筒面照度の比(Evr-Evl)/Esc」で記述することができる。
  3. 顔の良好な映像を得るための照明条件は,本研究の範囲では図26に示すようであった。概略の範囲は,次の通りである。

(Ehd-Ehu)/Es が1.0~2.0で,かつ(Evr-Evl)/Escが1.3未満
または
(Ehd-Ehu)/Es が1.0未満で,かつ(Evr-Evl)/Escが0.6~1.3

本実験では,2.2項に示したように露出の設定を行って評価刺激を作成した。しかし,実空間においては被写体の明るさのみで露出が決定されることはまれである。従って,カメラ画角内の明るさとモニター映像の関係を検討することが今後の課題となる。

<注>本稿をもとにした研究報告は,J.Light&Vis.Env.,Vol.27,No.2,pp.107-120(2003)(©The Illuminating Engineering Institute of Japan)に掲載されている。

参考文献

  1. F.Haeger, Berlin:LICHTTECHNIK,26.Jahrgang Nr.9,pp385- (1974).

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第10号掲載記事に基づいて作成しました。
(2004年5月7日入稿)


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