技術資料

カメラ監視のための見え方事前予測の研究 - その1 モデリングとモニター映像の関係 -

技術開発室 技術部 技術開発グループ

キーワード

CCDカメラ,セキュリティー,監視,事前予測,照度,モデリング

4.実験結果

CRTモニターおよびTFT液晶モニター各124カットのデータについて,各刺激に対して被験者27名のデータがほぼ正規分布をしていることを確認した。その結果,2名の被験者データが不良であると判断し,以降の実験結果はこれを除外して整理した。

4.1 評価カテゴリー間の距離

評価カテゴリー(表1)を系列範疇法4)5)にて距離尺度に換算した。表3は「陰影が強すぎて,顔の輪郭・目鼻立ちが,ほとんど分からない」を1.00,「陰影が適度で,顔の輪郭・目鼻立ちが,明瞭に分かる」を3.00とした時の距離尺度を示したものである。

表3 評価カテゴリー間の距離
距離尺度 顔の識別の程度
1.00 陰影が強すぎて,顔の輪郭・目鼻立ちが,ほとんど分からない
2.34 陰影が強いが,顔の輪郭・目鼻立ちが,やっと分かる
3.00 陰影が適度で,顔の輪郭・目鼻立ちが,明瞭に分かる
4.81 陰影が弱いが,顔の輪郭・目鼻立ちが,やっと分かる
8.61 陰影が弱すぎて,顔の輪郭・目鼻立ちが,ほとんど分からない

4.2 モニターによる評価の相違

系列範疇方にて求めた距離尺度を基に各刺激の平均値を求め,CRTモニターと液晶モニターの各評価結果の相違を調べた結果,図4に示すように相関を示す決定係数は0.97であった。次に,2つのモニター間に有意な差が存在するのか母平均の差を用いて検定した結果,有意な差は存在しないことが分かった。

ゆえに,CRTモニターと液晶モニターの評価結果に有意な差がないことから,以下の分析は,これらを統合して行なうことにした。

図4 CRTモニターと液晶モニターの各評価結果の平均値

4.3 ベクトル高度と照明ベクトル・スカラー照度比による表示

既往研究として,Cuttle1)が照明ベクトルとスカラー照度の比を用いて顔のモデリング評価を行なっている。そこで,評価刺激124カットの評価結果を,これにならって図示した。図5~図19は,横軸に照明ベクトルの高度を,縦軸に照明ベクトル・スカラー照度比をとり,照明ベクトルの方位とカメラの露出をパラメータに,評価画像とその平均点を布置したものである。

5.考察

5.1 Cuttleの研究との比較

Cuttleの研究と同様に,照明ベクトルの方位(ø)と高度(α)ならびに照明ベクトル・スカラー照度比を用いると,顔の識別が可能な評価刺激とそうでない刺激が異なった位置関係に布置された(図5~図19)。このことは,モニター映像における顔のモデリング効果も,この3つのパラメータで記述できることを示唆している。

しかし,Cuttleの研究では,照明ベクトル・スカラー照度比が大きな値を持つとき「too harsh(陰影が強い)」と評価されるのに対し,我々の評価結果では照明ベクトルの方位が120度の時に「陰影が弱い」と評価されることがある。これらは,逆光状態の評価刺激で目・鼻・口などに陰影が生じていないために「陰影が弱い」と評価されたと考えられ,我々の評価刺激がモニター映像を想定していること,および撮影時の露出に原因していると考えられる。

図5~図19 評価刺激124カットの評価結果図
  • 注記:
  • 青の実線:「陰影が適度で,顔の輪郭・目鼻立ちが,明瞭に分かる」と評価された評価刺激
  • 緑の点線:「陰影が強いが,顔の輪郭・目鼻立ちが,やっと分かる」と評価された評価刺激
  • 橙の二点差線:「陰影が弱いが,顔の輪郭・目鼻立ちが,やっと分かる」と評価された評価刺激

図5 水平角0度(適正露出)

図6 水平角30度(適正露出)

図7 水平角60度(適正露出)

図8 水平角90度(適正露出)

図9 水平角120度(適正露出)

図10 水平角0度(露出 EV-1)

図11 水平角30度(露出 EV-1)

図12 水平角60度(露出 EV-1)

図13 水平角90度(露出 EV-1)

図14 水平角120度(露出 EV-1)

図15 水平角0度(露出 EV+1)

図16 水平角30度(露出 EV+1)

図17 水平角60度(露出 EV+1)

図18 水平角90度(露出 EV+1)

図19 水平角120度(露出 EV+1)

5.2 撮影露出の相違

露出(アンダー:EV-1,適正,オーバー:EV+1)と評価結果との関係について考察する。

図20~図23は,同一の照明ベクトル(方位(ø)と高度(α))ならびに同一の照明ベクトル・スカラー照度比で撮影された評価刺激について,露出の相違による評価得点の変化を水平角ごとにまとめたものである。

これらより,「EV-1→適正→EV+1」の露出変化に対して,評価があまり変らなかった評価刺激(図20,図21)と大きく変化した評価刺激(図22,図23)があり,変化に2面性があることが分かる。

それぞれ評価刺激との関係を分析すると,変化の大きいものはいずれもEV-1において顔が暗いため「陰影が弱い」と評価され,露出が適正,オーバーと変化すると,顔面が徐々に明るく撮影されるため評価が良くなったものであると考えられる。すなわち,これらは顔面の明るさが主な評価要因であったと推定できる。一方,変化の小さかったものは,主に陰影について評価された評価刺激であると考えられる。すなわち,陰影による評価は,露出にほとんど影響されないと推定できる。

図20 水平角0度のとき

図21 水平角30度,60度のとき

図22 水平角90度のとき

図23 水平角120度のとき

参考文献

  • 1.C.Cuttle, et al.:Light. Res. Technol., 3 (3), pp.171-189 (1971).
  • 4.J.P.ギルホード:精神測定法,培風館,pp.276-301 (1959).
  • 5.田中良久:心理的測定法,東京大学出版会, pp.119-130 (1961).

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