技術資料
パルスドキセノン殺菌装置
光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課
キーワード
キセノンフラッシュランプ,パルス,殺菌装置,微生物
パルスドキセノン殺菌/滅菌装置のご案内
高殺菌能力を持つキセノンランプの光を、パルス発光により瞬時に効率よく照射する「パルスドキセノン殺菌/滅菌装置」の詳細は以下よりご覧いただけます。
- パルスドキセノン殺菌/滅菌装置
5.パルスドキセノン殺菌装置
表1にキセノンフラッシュランプの特徴を紹介したが,次にそのランプを搭載した装置について紹介する。装置は,光源・照射器・電源から構成されている。光源は,蛍光灯と同じように電極と石英管などのガラス風袋にキセノンガスを封入したものである。照射器は,光を有効に処理物に照射できるように調製され,殺菌に有効なUVを反射させる反射板と,光源を冷却するために水冷,空冷式などの冷却機器を設けている。電源は,コンデンサで電荷を溜め,それを瞬間的に高電圧をかけて放出させるようになっている。装置の入力からパルスドキセノンから放出されるエネルギーを表現すると次の通りである。
E=1/2CV² ・・・(2)式
ここで
- E
- 入力エネルギー(J<ジュール>)
- C
- コンデンサ容量(F<ファラッド>)
- V
- 電圧(V<ボルト>)
例えば,コンデンサ容量:60μF,電圧:2,000Vでフラッシュした場合,(2)式からエネルギーは
1/2×60×60⁻⁶(2000)²=120(J<ジュール>)
となる。
実際の効果を与える光の量は,(1)式の通りUV(殺菌に作用する光)の照度と照射時間との積であるので,入力エネルギーは殺菌対象物が受けたエネルギーではないので注意してほしい。
実際には,受光センサーを設け実際の光量をモニターする必要がある。ただし,その光量は殺菌効果のある光を受光する必要がある。なぜなら,キセノンフラッシュランプは,UVから可視光,赤外線まで発光しているので,UVが減光しても全体を測定してしまうと,その減光量は小さく見積もられ,実際の殺菌効果は落ちているのに,モニターの光量は低下していないということになるためである。そのことも考慮し光劣化もしないことが必要不可欠なモニターについても開発を進めている。
パルスドキセノン実験装置(500Jタイプ)
実際に滅菌装置をライン導入するにも,必要入力エネルギー,パルス回数,反射板形状などの仕様を決めていかなければ,実際の装置の大きさやコストも決まってこない。そこで,実験装置を用意した(図3)。本実験機は2002年7月に開催された医薬品・化粧品・洗剤業界対象の第15回インターフェックスジャパンに展示されたもので,現在弊社内にあり見学と試験が可能であるので是非一見してほしい。
6.パルスドキセノン殺菌装置の殺菌効果
瞬間的に従来の低圧水銀ランプタイプより1,000倍以上の放射照度が得られるので,短時間で高殺菌効果が得られ,さらに254nmの光が透過しなくても,殺菌効果のある300nm以下の波長の光が発光しているので利用範囲が拡大され包材を通して中身の殺菌にも有効である。表3に代表的な指標菌である枯草菌の芽胞(Bac. subtilis(spores))<培地上>に対する入力エネルギーとパルス数の違いによる殺菌効果を紹介した。
エネルギー\パルス数 | 1パルス | 2パルス | 3パルス |
---|---|---|---|
300J | 1.1×10⁴ | 8.7×10² | 1.2×10² |
93.5% | 99.5% | 99.93% | |
500J | 1.4×10² | 6.7 | 0 |
99.92% | 99.996% | 99.999%以上 | |
1000J | 0 | 0 | 0 |
99.999%以上 | 99.999%以上 | 99.999%以上 |
対象菌:枯草菌(芽胞)(初発菌数:1.7×10⁵CFU) (上段:残存菌数,下段:殺菌率)
入力エネルギーを500Jとして2パルス照射によりトータル1,000Jとした場合と1,000Jで1パルスの照射をした場合では,入力エネルギーは同じでも,後者の方が殺菌効果の高いことが分かった。菌数が多い場合には,1パルス当たりの照度を上げることが有効であると推測されるが,実際には殺菌に有効な光として変換される効率性が上がっていることも考えられる。
また,光殺菌で光感受性の弱い黒麹カビ(Asper-gillusniger)に対しても効果確認を実施した。ランプへの入力エネルギーを500Jとし乾燥状態で2パルス照射を6乗オーダのカビに行ったところ,生カビ数は0となった。しかし,湿潤状態では,その効果は激減したことから,パルスドキセノン殺菌装置の殺菌では,可視光や赤外線(熱)の作用もあることが示唆される結果も得られた。
また,先に紹介したピュアパルス社の装置が製薬メーカーで,ブロー・フィル・シールシステムにより製造されるポリエチレンボトル注射液の最終滅菌に使用されており,ここで確認された滅菌効果によると,12菌株を日局20%ブドウ糖注射液ポリエチレンボトル品に,10⁶個負荷し,パルス回数1回で全ての菌が殺滅され無菌保証レベル(SAL)として10⁻⁶が達成されることを確認し,熱と比較しブドウ糖の品質に損傷を与えることもなかったのである9)。
7.おわりに
パルスドキセノン殺菌装置の概略とその特徴を知って頂けたと思うが,是非,今までの低圧水銀ランプとは異なるその効果を実際に確認して頂きたい。その確認のために先に紹介した実験機は弊社に常設して用意しており,装置自体の市販もしているので検討してほしい。今後,本装置が滅菌技術の一つと認識されるように,筆者も努力していくが,使用者側の理解と協力がなければ達成できるものではないので,今後も,読者の方と共にさらに検討を進めていくことで,一般的な装置として活用していくことに期待したい。
参考文献
- 川俣知己,古川雅弘:防菌防黴,28,pp.113-115(2000).
注)本稿は隔週刊「食品工業」第45巻第22号(2002年11月30日号)p.34〜39((株)光琳発行)に掲載された記事を転載したものである。
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第7号掲載記事に基づいて作成しました。
(2002年11月20日入稿)
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