施設報告

札幌市LED街路灯導入実証実験報告

岩崎電気株式会社 国内営業部 札幌営業所
国立大学法人北海道大学 大学院教授 実証研究委員会 委員長 萩原 亨
北海道電力株式会社 実証研究委員会 副幹事 西尾 将興

キーワード

札幌市,LED,街路灯,実証実験,夜間,安全,安心

7.実験考察

7.1 照度測定結果に対する考察

照明実験対象の街路灯は,直近でのランプ交換時期の調査結果(表7-1)に示すように,LED街路灯は定格寿命40000時間に対して累積点灯時間〔10(時間/日)にて算出〕400~600時間,既設の高圧水銀ランプ街路灯は定格寿命12000時間に対して22000と18000の累積点灯時間となる。他方,既設の高圧ナトリウムランプ街路灯は,定格寿命9000時間に対して12800累積点灯時間となっていることが判明した。

下記の図7-1と図7-2は,光源の設計光束維持率曲線と照明器具の設計光束維持率曲線を示す5)。維持率曲線図から実験対象街路灯のランプ特性として現状器具光束を推測すると,実験対象となった既設の高圧水銀ランプ街路灯は初期光束に対して概ね50%,既設の高圧ナトリウムランプ街路灯は初期光束に対して概ね60%程度の光束と推測される。

本実験対象の街路灯の各ランプ特性は,調査により,ランプ交換時期のバラつきと照明器具光学系の劣化に起因するランプ光束の減衰があり,同一条件下における静止印象評価実験とは成らないことが判った。

4カ所LED街路灯の照度及び鉛直面照度の測定結果は,既設の高圧水銀ランプ街路灯以外の実験対象街路灯については「日本防犯設備協会の基準であるクラスBの条件」を満足することが示唆される。

しかしながら,本実験は,住宅街に設置された既存街路灯にて実施した実験である為,対象街路灯以外の光(門灯,ヘッドライト,窓明かり等)の入り込み等も考慮する必要がある。

クラスB

平均水平面照度
3ℓx以上
鉛直面照度
0.5ℓx以上(道路面からH=1.5mの道路軸に直角な面の照度)
表7-1 照明実験設備
照明実験設備 ワット数(W)/
光束(ℓm)
街路灯高さ
(m)
設置時期 直近でのランプ交換時期 累積点灯時間(h)
光源種別 街路灯管理No.
LED 1月19日 33/2150 ≒5.1 2009年10月 新設設備 630
LED 11月1日 35/1600 ≒5.6 360
LED 5月1日 26/2176 ≒5.2 530
LED 6月1日 27/2760 ≒5.3 530
HF B 80/3300 ≒5.4 1996年4月 2003年11月 22210
HF D 80/3300 ≒5.6 不明
(10年以上前)
不明
(5年以上前)
18250
NH E 75/6400 ≒6.9 2006年6月 交換なし 12800
  • 注)光束はメーカー申請値。

図7-1 光源の設計光束維持率曲線図

図7-2 照明器具の設計光束維持率曲線図

7.2 静止印象評価結果に対する考察

7.2.1 静止印象評価

LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯間の静止印象評価の結果は,全被験者での静止印象評価,男女間の被験者別の静止印象評価,及び男性被験者の年代間の静止印象評価は,検定の結果,基本的に有意差はないことが判った。

7.2.2 静止印象(A地点→B地点→C地点への移動)評価
a) 対向する歩行者の顔の見え方 静止印象評価結果

実験対象区間内の街路灯1スパン間での移動観測による静止印象評価結果を,LED,高圧水銀ランプ街路灯及び高圧ナトリウムランプ街路灯に関して図7-3に示す。

図7-3 A→C地点へ移動 対向する歩行者の顔の見え方 静止印象評価

A地点からC地点への移動観測による静止印象評価結果の一例(写真7-1:LED街路灯5-1)としては,図5-1の実験手順図より,個人差はあるものの概ね,A地点からB地点への移動で【評価刺激(人物)に直射光があたり(15.1ℓx)逆シルエット視となり見え易くなる領域となり】1ポイント上がり,次にB地点からC地点への移動で【逆シルエット視とシルエット視の狭間にあたり視認しづらい領域となり】1ポイント下がるか,A地点と同等ポイント傾向となり,さらに,C地点からD地点への移動により【評価刺激(人物)に直射光が当たらない(3.5ℓx)シルエット視の領域】と変化する。

A地点からD地点へ移動観測による照明環境変化と静止印象評価結果には,画像処理の解析より,一定の相関関係のあることが判った。実験対象の照明施設の画像処理結果の一例を写真7-1に示す6),7),8),9)

A地点からC地点に移動するにつれて静止評価結果はやや減少傾向を示すが,日本防犯設備協会の基準(クラスBの条件)である対向する歩行者の見え方として,顔の向き/挙動姿勢の判断として,上半身・下半身共に視認出来ることが必要条件となるが,LED街路灯画像処理の結果【写真7-1(黄色○内の評価刺激の視認性表示)参照のこと】から,上半身・下半身共に視認出来ることが判った。

写真7-1 LED街路灯5-1による明るさ感

b) LED街路灯による視認性

写真7-2に一例として,LED街路灯5-1の視認性(若者)画像処理の結果を示すが,静止印象評価の結果と整合して,上半身・下半身共に視認出来ることが判る。

LED街路灯(管理No.11-1,5-1)は,写真7-1(黄色○内表示)に示す明るさ画像の比較で,LED街路灯はA地点からD地点に移動するにつれ逆シルエット視からシルエット視にて視認されることが判る。

なお,4カ所のLED街路灯の視認性は,全ての移動地点(A地点からD地点)にて,日本防犯設備協会の基準(クラスBの条件)である対向する歩行者の見え方,即ち,顔の向きや挙動姿勢が写真7-1~写真7-2の視認性画像に示されるように視認出来ることが確認出来た。その事象の静止印象評価の結果においても,LED街路灯は「5:見える」の評価となった。

写真7-2 LED街路灯5-1による視認性(若者)

7.2.3 輝度計測量と静止印象評価の関係

輝度計測量と静止印象評価の関係を,各街路灯管理No.のA地点にて画像処理した結果より回帰直線を算出し,相関関係の考察を行う。

7測定個所での輝度計測量【①:有効視野内幾何平均輝度,②:顔部2度視野内幾何平均輝度,③:1000cd/m²以上幾何平均輝度,④:輝度比(=③/①)】と静止印象評価の関係を,7カ所の実験対象街路灯A地点にて観測した画像処理により算出し表7-2に示す。

なお,図7-5は,輝度計測量の概念を説明したものである。

図7-5 輝度計測量と静止印象評価の関係図

図7-5 輝度計測量と静止印象評価の関係図

表7-2 計測量と静止印象評価(A地点)の関係表
条件 A B C D 評価値
器具 位置 有効視野内
幾何平均輝度
顔部2度視野内
幾何平均輝度
1000cd/m²以上
幾何平均輝度
輝度比
(=C/A)
顔の見え 明るさ印象 まぶしさ
19 a 0.23 0.54 4761 20324 4.7 4.9 5.0
b 0.14 0.27 4166 30173 5.3    
c 0.16 0.13 4944 31742 4.3    
d 0.18 0.11 3989 21918      
11 a 0.42 0.60 3653 8750 4.5 4.8 4.0
b 0.16 0.72 3356 21261 5.5    
c 0.18 0.13 3435 18995 2.8    
d 0.32 0.27 3215 10194      
5 a 0.34 0.49 2733 8114 5.1 5.3 4.2
b 0.23 0.45 4471 19213 6.0    
c 0.21 0.31 2255 10870 5.0    
d 0.24 0.30 3263 13844      
6 a 0.39 0.42 2987 7626 4.7 5.0 4.4
b 0.25 0.47 3787 14999 5.9    
c 0.32 0.30 3224 10008 4.8    
d 0.31 0.22 3526 11256      
B a 0.07 0.15 2528 36124 3.2 3.3 5.3
b 0.05 0.12 1814 38942 3.5    
c 0.07 0.06 1940 27034 2.7    
d 0.09 0.08 2290 24669      
C a 0.09 0.11 1908 22343 3.8 3.4 5.3
b 0.05 0.04 - - 3.5    
c 0.05 0.06 1543 34244 2.7    
d 0.08 0.06 2433 29036      
E a 0.22 0.26 3034 13632 4.5 4.3 4.9
b 0.12 0.25 1872 15041 4.8    
c 0.14 0.12 1684 11751 3.7    
d 0.21 0.13 2608 12465      

静止印象評価と有効視野内幾何平均輝度の相関一覧表7-2を元に,顔の見え方評価と顔部幾何平均輝度との相関,まぶしさ印象評価と輝度比との相関を,下記a.~c.に示す。

なお,図7-6~7-7に,印象評価と有効視野内幾何平均輝度の回帰図,印象評価と有効視野内幾何平均輝度の回帰図,及び印象評価と有効視野内幾何平均輝度の回帰図を示す。

  1. 「明るさ印象評価と有効視野内幾何平均輝度の相関(図7-6)」は,決定係数:R²=(相関係数)²=0.88となり「強い正の相関」(0.7~1)のあることが判った。
  2. 「顔の見え方評価と顔部幾何平均輝度の相関:A地点(図7-7)」は,決定係数:R²=0.68となり「かなりの正の相関」(0.4~0.7)のあることが判った。
  3. 「顔の見え方評価と顔部幾何平均輝度の相関:B地点/C地点」移動時においても,決定係数:R²=0.8となり「強い正の相関」(0.7~1)のあることが判った。
図7-6 明るさ静止印象評価と有効視野内幾何平均輝度の回帰図
図7-7 顔の見え方静止評価と顔部幾何平均輝度の回帰図

8.まとめ

本報告書では,LED街路灯に対する被験者の静止印象評価と,その裏づけとなる画像処理結果,計測量と静止印象評価との相関結果,及び物理的な光学測定結果と照度基準との整合性などを,精査・照合して街路灯としての採用可否を総合的に判断することとした。

LED街路灯の照明特性は,下記に示す5項目(1.~5.)の検証結果より,既存街路灯(高圧水銀ランプ,高圧ナトリウムランプ)と遜色ない結果を得た。

  1. 水平面/鉛直面照度
    測定結果
    日本防犯設備協会の基準値(防犯灯水平面照度3(ℓx)以上/鉛直面照度(0.5ℓx)以上)を満足していた。
  2. 静止印象評価としての顔の見え方/明るさ感/まぶしさと歩行のし易さ総合印象評価
    評価結果
    LEDのまぶしさ印象評価は「3:ややまぶしい」との評価となったが,歩行のし易さ総合印象評価では,「5~5.3:やや歩き易い」との評価結果になった。
  3. 街路灯としての色合い静止印象評価
    色合い評価結果
    LED街路灯と既存街路灯(高圧ナトリウムランプ)の色合い印象評価はt検定の結果,LED白色系ランプ「ややあざやかに見える」と暖色系ランプ間で,有意差のあることが判った。
  4. 画像処理による視認性の結果(対向する歩行者の顔の見え方/明るさ感/視認性)と防犯灯基準(4m先の歩行者の挙動・姿勢が判る)との整合性検証
    1. 視覚評価の結果:対向する歩行者の姿勢や挙動が視認出来た。
    2. 静止印象評価の結果:「4~5:見える」と印象評価された。
  5. 静止印象評価(顔の見え方,明るさ感,まぶしさ印象評価)と輝度計測量との相関の検証
    相関結果
    静止印象評価と輝度計測量には,相関があることが判った。
    決定係数
    R²=(相関係数)²は,かなりの正の相関(0.4~0.7)/強い正の相関(0.7~1)であった。

したがって,本実験対象のLED街路灯は,既存街路灯(高圧水銀ランプ/高圧ナトリウムランプ)と同様に,「街路灯としての照明特性は支障ないこと」が,本実験条件下における検証結果から示唆された。

9. 総括

LED街路灯導入実証実験の総括としては,次に示す2項目(1.~2.)が挙げられる。

  1. 「街路灯としての照明特性に関しては支障ないこと」が,本実証実験の総合的な検証結果a.~e.より示唆された。
    1. 被験者の視認性に関係する静止印象評価の結果
    2. 街路灯としての色合い静止印象評価の結果
    3. 静止印象評価の裏づけとなる画像処理結果との整合性
    4. 輝度計測値と静止印象評価との相関結果
    5. 物理的な光学測定結果と基準との整合性を精査
  2. 街路灯としての器具特性(電気的,物理的特性及び経年変化による光束減衰)に関しては未決事項である。

10. おわりに

札幌市LED街路灯導入実証実験における現地での静止印象評価は,劣悪なる環境条件下で,西区発寒地区町内会(中央発寒町内会・発寒旭町内会)の方々,北海道工業大学の学生の方々,関連機関の方々の甚大なるご助力の下に遂行することが出来たものである。ここに記して,関係各位に謝意を表するものである。

本報告は実証実験の抜粋であり,報告書の全文は,近々に札幌市役所/照明学会のホームページ上から自由にダウンロード出来る予定である。

参考文献

  1. 田口玄一,横山巽子:実験計画法,日本規格協会(1987.1).
  2. 大村 平:実験計画と分散分析,日科技連出版社(1984.1).
  3. 五味文彦:自然科学の統計学,東京大学教養学部 統計学教室,東京大学出版会(2004).
  4. 五味文彦:人文社会科学の統計学,東京大学教養学部 統計学教室,東京大学出版会(2004).
  5. 照明設計の保守率と保守計画:照明学会・技術指針JIEG-001(2005),平成18年1月26日改正.
  6. 中村芳樹,江川光徳:コントラスト・プロファイルを用いた明るさ知覚の予測,照学誌,89-5(2005).
  7. 中村芳樹:ウェーブレットを用いた輝度画像と明るさ画像の双方向変換,照学誌,90-2(2006).
  8. 森下大輔:ウェーブレット解析を用いた目立ち画像生成システム,IWASAKI 技報,No.19,pp.27-32(2008).
  9. 中村芳樹,江川光徳:均一背景をもつ視対象の明るさ知覚,照学誌,88-5(2004).
  10. 改訂 防犯照明ガイド:社団法人日本防犯設備協会防犯照明委員会(平成17年3月).
  11. 森星豪,松井俊成,岩井彌,茨薫,蓮尾真:空間の明るさ感指標Feuを用いた屋外照明設計法,パナソニック電工技報,57-4(2009).

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第23号掲載記事に基づいて作成しました。
(2010年11月9日入稿)


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