施設報告
札幌市LED街路灯導入実証実験報告
岩崎電気株式会社 国内営業部 札幌営業所
国立大学法人北海道大学 大学院教授 実証研究委員会 委員長 萩原 亨
北海道電力株式会社 実証研究委員会 副幹事 西尾 将興
キーワード
札幌市,LED,街路灯,実証実験,夜間,安全,安心
5.静止印象評価実験
5.1 評価刺激
評価刺激(人物)は,静止印象評価実験として反射率30%程度の上下灰色スウェツトを着用した対向する歩行者とする。
5.2 被験者の観測距離
被験者と評価刺激の観測距離は,日本防犯設備協会の防犯灯照度基準に準拠しL=4mとする。
5.3 評価刺激の提示位置
評価刺激の提示位置は,灯具直下,スパン:S/2及びスパン:S/4地点の歩道中央に提示する。
5.4 静止印象評価環境
静止印象評価実験は,被験者が前方4mに提示される評価刺激に対する静止印象評価を行う。
5.5 被験者
被験者は,原則,道路照明に関係ない一般民間人と地域住民を主体に募り,両眼視力0.7以上(矯正視力可)とする。
なお,被験者は,評価の個人差や性別差の影響(男女)が少なくなるように20名以上とする。この被験者の構成を表5-1に示す。
20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70代以上 | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
男性 | 15 | 3 | 8 | 5 | 5 | 3 | 39 |
女性 | 1 | 2 | 2 | 5 | |||
合計 | 15 | 3 | 9 | 7 | 7 | 3 | 44 |
5.6 インストラクション
被験者全員に,静止印象評価実験の始まる前に「日常の家路に向かう気持ちで,視環境と評価刺激を評価する」ようにお願いする。(表5-2参照)
表5-2 LED街路灯導入 静止印象評価実験<インストラクション>
- 印象評価は,「日常生活で家路に向かうリラックスした気持ちにて」,視環境/評価刺激(人物)の評価をお願いします。
- 印象評価は実験区間のみで評価を行い,その他外部環境は評価しないでください。
- 他被験者に,印象評価についての意見や同意を求めないでください。
- 印象評価に正解はありませんので,感じるままに評価をしてください。
- 印象評価は,自分自身が決めた評価判断基準で全て通し,ぶれないでください。
- なお,評価値の間隔は,等間隔尺度です。
- 印象評価実験中は,他人の評価に影響を与える私語は慎んでください。
- 走行自動車のヘッドライト等が評価エリアに入射した時は評価の中断をお願いします。
- 現道における実験ですので,走行車に気をつけ,地域住民最優先にてお願いします。
- 実験中に地域住民から質問を受けた時は,事務局まで取次ぎをお願いします。
5.7 実験手順
静止印象評価実験は,下記に示す手順により,グループ交互に同一の実験環境を評価する。なお,静止印象評価用紙は,表5-3を参照とする。
- 被験者は,下記の3とおりの実験環境に対する静止印象評価実験をする。
- 被験者には,評価刺激(図5-1参照)を4m離れた位置に提示し,その提示した評価刺激に対する静止印象評価をする。
- 次に被験者は,定点位置から見た道路環境をA地点のみ(明るさ感/色合い/まぶしさ)の評価を行い,最後に,「歩行し易さ」を総合評価する。
- 2、3の静止印象評価実験を,特定した実験街路環境エリア(4-3.照度測定個所)別に繰り返し実験する。
- 注記)
- a) 評価者は,被験者の(A地点→C地点に)移動につれて,4m間隔を常に維持した地点より,被験者の評価を行う。
- b) LED/HF街路灯は,明るさ,色合い,まぶしさ,総合評価を行う。
- c) NH街路灯は,色合い,まぶしさ,総合評価を行う。
- d) 静止印象評価実験は,A地点~C地点間にて実施。
- e) 画像処理実験と光学測定は,A地点~D地点間にて実施。
図5-1 実験手順図
表5-3 静止印象評価用紙
6.実験背景
6.1 静止印象評価
静止印象評価の検証は,LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯(白色系)に関しては「歩行者への視認性」,「明るさ印象」,「色合い印象」,「まぶしさ印象」,及び「歩行のし易さを総合評価」を主体とした検証を行った。
他方,高圧ナトリウムランプ街路灯(暖色系)は,LEDや高圧水銀ランプ街路灯(白色系)間での「色合い印象」を主体とした検証を行った。3),4)
6.2 結果
6.2.1 静止印象(A地点)評価結果
比較対象とした街路灯間において統計学的に差異は有るか否かを,①から⑤の静止印象評価(図6-1~図6-5)の元データを基に,有意差の有無の検定を行った。
2つの母集団LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯間の「対向する歩行者の顔の見え方静止印象評価」(図6-1)の分散に有意差(有意水準5%)があるかどうかF検定を行い,2つの母集団の分散に有意差(0.84≧0.05)が無いことが判った。次に,2つの母集団の「対向する歩行者の顔の見え方静止印象評価」の平均に有意差があるか否かt検定を行い,LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯間に有意差のあることが判った。
同様に,「明るさ静止印象評価」(図6-2)の分散に有意差(有意水準5%)があるかどうかF検定を行い2つの母集団の分散に有意差のあることが判り,2つの母集団の「明るさ静止印象評価」の平均に有意差の有無に関してWelch検定を行い,LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯間に有意差のあることが判った。
2つの母集団LED・高圧水銀街路灯(白色系)と高圧ナトリウムランプ街路灯(暖色系)間の「色合い静止印象評価」(図6-3)の分散に有意差(有意水準5%)があるか否かF検定を行い,2つの母集団の分散に有意差(0.81≧0.05)の無いことが判った。
2つの母集団の「色合い静止印象評価」の平均に有意差の有無に関してt検定を行い,LED・高圧水銀街路灯(白色系)と高圧ナトリウムランプ街路灯(暖色系)間に有意差のないことが判った。
2つの母集団(LED街路灯と既存街路灯間)の「まぶしさ静止印象評価」(図6-4)の分散に有意差(有意水準5%)があるか否かF検定を行い,2つの母集団の分散に有意差のあることが判った。2つの母集団の「まぶしさ静止印象評価」の平均に有意差の有無に関してWelch検定を行い,LED街路灯と既存街路灯間に有意差のあることが判った。
同様に,2つの母集団(LED街路灯と既存街路灯間)の「歩行のし易さ静止印象評価」(図6-5)の分散に有意差(有意水準5%)があるか否かF検定を行い,2つの母集団の分散に有意差のあることが判った。次に2つの母集団の「歩行のし易さ静止印象評価」の平均に有意差の有無に関してWelch検定を行い,LED街路灯と既存街路灯間に有意差のあることが判った。
6.2.2 男女間での静止印象評価結果
LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯間での静止印象評価について,男女別の印象評価結果を図6-6~図6-7に示す。
男女別の静止印象評価結果は,「対向する歩行者の見え方(顔の向き/挙動姿勢)の印象評価」,「明るさ印象評価」,「色合い印象評価」,「まぶしさ印象評価」及び「歩行し易さの総合評価」の結果は,LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯間にて,有意差検定の結果,原則的に有意差のないことが判った。なお,男女間にて一部街路灯間で静止印象評価結果に,差異が(図6-7の青色○印内)認められるが,これは男性被験者(39人)と比較して,女性の被験者5人と絶対数が少ないこと(表5-1参照)に起因するものと推測される。
6.2.3 年代間での静止印象評価結果
LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯間の静止印象評価について,年代別の印象評価結果を図6-8~図6-9に示す。年代別の静止印象評価結果は,「対向する歩行者の見え方(顔の向き/挙動姿勢)の印象評価」,「明るさ印象評価」,「色合い印象評価」,「まぶしさ印象評価」及び「歩行し易さの総合評価」の結果は,LED街路灯と高圧水銀ランプ街路灯間で,有意差検定の結果,基本的に有意差のないことが判った。なお,30代男性と70代男性の静止印象評価結果は,他の年代間と相違する印象評価傾向が認められるが,この原因は母集団の絶対数3人と少ないこと(表5-1参照)に起因するものと推測される。
6.2.4 色合い静止印象評価結果
高圧ナトリウム街路灯(暖色系)とLEDや高圧水銀ランプ街路灯(白色系)間の「色合い静止印象評価」に関する有意差の有無の検定結果(図6-3)では,高圧ナトリウム街路灯(暖色系)とLEDや高圧水銀ランプ街路灯(白色系)間には,有意差のないことが判った。
ここで,高圧水銀ランプ街路灯は,実験考察より寿命末期の光源であることが判明した為に,色合い等の光源としての照明特性・性能が維持されていない事が推測される。
そこで本項では,高圧ナトリウム街路灯(暖色系)とLED街路灯(白色系)間での「色合い静止印象評価」に関する有意差の有無の検定を行った。検定の結果,高圧ナトリウム街路灯(暖色系)とLED街路灯(白色系)間には有意差のあることが判った。
色合い静止印象評価時の照明実験環境の代表例(写真6-1~写真6-3)を示すが,視環境の対象として評価刺激(人物)を観測時に光源間の色合いは,歩行上まったく支障のないことが判る。なお,他の実験対象照明施設の照明実験環境は,表7-1を参照のこと。
参考文献
- 五味文彦:自然科学の統計学,東京大学教養学部 統計学教室,東京大学出版会(2004).
- 五味文彦:人文社会科学の統計学,東京大学教養学部 統計学教室,東京大学出版会(2004).
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