皇居外苑のあかり

照明プラン

低炭素社会の実現に向けた取り組みの一環として、皇居外苑の屋外照明をLED化するという今回のプロジェクトの設計にあたっては、皇居の静謐な空間と変化を続ける周辺の街並みのバッファーゾーンとしての役割に配慮しつつ、夜間の来苑者やランナーに安全・安心な通行を確保する照明計画となっています。

皇居前広場「灯具をそのまま生かしLED光源に」


桜田門

二重橋や桜田門などがあり、松と芝生、砂利の広場に代表される皇居前広場は、皇居の前庭として特に象徴性や静謐性が高い空間です。

ここでは、全体の明るさや印象、昼間の景観を変えないよう、長く皇居前広場の景観の一部として親しまれてきたガス灯タイプの既存灯具をそのまま生かして、光源のみをLED化することとしました。ガラス面を均一に照らしながら、路面の明るさを十分に確保するために、試作品を用いて照射角度、輝度、グレア、演色性や色温度など様々な条件についての実験を重ね、26Wの高出力形LEDモジュール6個を正六角形に組み合わせたLEDユニットの開発に至りました。

整備前→整備後

上方向への無駄な配光がカットされ眩しさが抑えられ、落ち着いた皇居前広場環境を創出している。

質の高い照明環境をつくるために

既存灯具の光源は、2光色発光形HIDランプ(水銀ランプ400Wと高圧ナトリウムランプ220W)で、近年は年間を通して高圧ナトリウムランプが点灯され、下方向以外にも上方や横方向に光が照射されていたため、眩しさが目立つとともに照明効率も悪くなっていました。
LED照明の特長を生かし配光を下方向にすることで、眩しさを抑えながら効率良く路面を照らし低ワット化を実現。必要な明るさの確保と消費電力・CO₂排出量の削減を両立させました。

光色については、現地にて3000K・3500K・4000Kのそれぞれの色温度※1のLEDを照明器具に入れ込んで点灯・比較実験を行い、皇居外苑の雰囲気、周囲環境に調和する3000K(電球色)を選択。演色性の大幅な改善により、芝生や樹木などの色が自然に見えるようになり、安心感と落ち着きのある照明環境となりました。

また、調光機能を備えているので、使用状態や社会情勢に応じて適切な明るさに調整できます。
比較的都市公園的な利用の多い内堀通り東側は、安全・安心の明るさを確保するため、既存街路灯のLED化とともに、一部街路灯の移設や新設を行うなど配灯計画の見直しも実施しました。

※1 色温度:光源の光色を数値で表したもの。赤みがかった光ほど色温度の数値が低く、青みがかった光ほど高い数値で表される

性能にこだわり、モジュールの組み合わせで最適な配光を実現する

既設灯具という限られたスペースの中にLEDユニットを入れ込むことは決して容易ではなく、ガラス面に影が出ないよう何度も試作品による実験・検証を繰り返しました。
そして、ガラス面全体を均一に照らし、光の表情が自然な器具の見え方にこだわりを持ってユニットの配光や角度、位置など詳細に仕様を決定していきました。

LEDの使用周囲温度は一般的には35℃ですが、器具内に入れ込むことから60℃まで耐えられる仕様とし、器具内蔵のための新光源としてノイズや高調波など様々な角度から安全性を確認し、PSE(電気用品安全法)も取得、ハイスペック化を実現しています。

LEDユニット


調光器付電源装置

試作LEDユニットを上部に取り付けた状態

防雨・高出力26W LEDモジュール6個を灯具上部に組込み、下方向配光とした皇居前広場の街路灯。

26W LEDモジュールは灯数を変えて他の街路灯にも使用可能。
写真の灯具は3灯内蔵器具


試作品による検証実験状況

整備前後の見え方と灯具の輝度分布

高圧ナトリウムランプとLEDの比較

LEDの光束※2 は高圧ナトリウムランプの半分程度(表1)であるが、上方光束を抑え照射効率の良い下向きの配光としたことにより、照度はほぼ同等を確保。同時に灯具の輝度も下がり、眩しさも改善された。

(表1) 整備前後の光源仕様
  高圧ナトリウムランプ LED
ランプW数(W) 220 156
(26W×6モジュール)
光束数(ℓm) ※2 20,000 10,800
色温度(K) 2100 3000
平均演色評価数(Ra) 25 85
定格寿命(h) 9,000 40,000

※2 光束:ランプから放射される光の量を表わす

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和田倉噴水公園「変わらないものを未来に引き継ぐ」


高さ8.5mに吹き上げる大噴水。

節電のため噴水照明は点灯されておりません。(2011年8月現在)

和田倉噴水公園は、今上天皇のご成婚を記念して整備され、皇太子殿下のご成婚時に再整備された噴水公園です。水と緑で構成された表情豊かで風格ある空間として、公園全体が一つの完成された作品となっているため、竣工時の照明デザインを踏襲し、光環境はそのままに光源をLEDに置き換えるという考え方で整備を行いました。

噴水照明、水中ライン照明、路面埋め込みインジケータ、足元灯など、様々な光源が使われていた照明を、光の色や具合を変えずにLED化するには、多くの課題を解決する必要があり、「変わらないものを未来に引き継ぐ」ための高い技術力が細部にわたり発揮されました。

水のきらめき、ゆらぎや粒の見え方までLEDで忠実に再現

大容量の噴水を水中から照らす照明を、整備前のハロゲンランプからLEDにすることは技術的に難しく、国内初の試みとなりました。光の強さや色味を合わせるだけではなく、水の演出、特にきらめきやゆらぎ、粒の見え方までを忠実に再現するため、現地で10回以上に及んだ試作実験を繰り返し、仕様についての検討を重ねました。そして、拡散フィルターの利用や灯具内に用いる光源数を工夫するなど、LEDの配置、光の広がりを重視した上で、全く新しい高出力形LED水中照明器具を開発しました。

水中の既設の限られたスペースに設置するためコンパクト化を図り、電源を一体化。安全性、耐久性にも万全の対策を講じ、高純度アルミダイカスト・フッ素樹脂加工の器具は二重絶縁構造、結露防止のため前面ガラスを二重構造としています。


設置された高出力形LED水中照明器具

省エネと光の質の向上を実現

せせらぎの縁取りに仕込んでいる水中ライン照明も、試作品による点灯実験を行い、水面に光源が映り込まないよう細心の注意を払いました。また、足元を安全に照らす路面埋め込みインジケータは、太陽エネルギーを蓄えるソーラーLEDブロックを使用するなど、環境と安全に十分配慮した照明環境となっています。

完成されたコンセプトを継承するという考え方に基づき、全ての照明がLED化された和田倉噴水公園は、以前と変わらぬ幻想的な夜間景観を実現し、質の高い光環境をつくり出すとともに、電力使用量・CO₂排出量を約1/3程度まで削減しました。皇居前広場も合わせると、LED化により全体で約50%の省エネとなっています。

整備前後のエネルギー消費量


噴水照明終了後の暗い光環境でも噴水池周囲の足元を安全に照らすソーラー式LEDインジケータ

噴水池の周囲に設置されたソーラーLEDブロック。電源配線工事、ランニングコストが不要。

大噴水と落水施設の整備前後の見え方と輝度分布

水のきらめきやゆらぎの表現は、見え方や輝度分布を比較しても整備前後で大きな差はなく、竣工当時の照明演出効果を新技術で再現している

大噴水

ハロゲンランプ→LED

落水施設

ハロゲンランプ→LED

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チーム一丸となってLED化を実現

設計/(株)日建設計

今回のプロジェクトでは、皇居外苑という特別な場所にふさわしいあかり、歴史性、静謐性を大切にしたあかりをLEDでつくるために、それぞれの場所に応じた照明設計を行いました。数々の実験、検証を重ねながら光をつくり込んでいくことで、多様性に富んだLED照明のかたちを具現化することができたのではないかと考えています。

照明をLED化するということは、ただ単に光源をLEDに替えるということではなく、自由度の高いLEDをいかに使い、人と環境に則した、自然で質の高い光環境をつくるかが重要で、空間に対しての細やかな照明作法が問われます。今回の取り組みで新しく開発された技術は、屋外・屋内空間を含め、今後、様々な場所に展開していけるものと期待しています。


設備設計部門
技師長
海宝 幸一


設備設計部門
設備設計部長
滝澤 総


設備設計部門
環境・設備技術部
篠原 奈緒子

2光色発光形HIDランプ→高出力形LEDユニット

上方や横方向に照射されていた光を下方向配光にすることで、眩しさが抑えられ、効率よく路面を照らし低ワット・省エネ化がはかれた。

電気工事/中央電気工事(株)

皇居外苑という特別な場所での工事で、照明が消えている昼間に器具を更新し、夜には点灯させる必要があったため、既存器具を事前に調査し、施工方法を十分検討した上での作業スケジュール・施工時間の調整、周囲環境に対する配慮及び安全対策に重点を置き作業を行いました。

試作段階で、施工上の問題点を解決しながらLED照明器具を製作したことにより、より良い仕事ができました。


汎用事業部 係長 堀 和徳

照明器具/岩崎電気(株)、(株)アイ・ライティング・システム

コンペによる企業選定から実施まで半年、再整備事業が完了するまで約1年半というタイトなスケジュールの中で、LED器具の開発に取り組み、配光、見え方などについて逐次確認しながら輝度は抑えて明るさはそのままにという要求にお応えしました。

実験と検討を重ね、様々な課題をひとつひとつ解決していきながら、皇居外苑という特別な場所にふさわしい光環境をつくりました。プロジェクトチーム全体のバックアップにより器具製造スタッフも現地にて直接、設計の意図を把握し、よりスピーディに対応できる態勢を整え、チーム一丸となり熱い想いで取り組みました。


岩崎電気(株)


(株)アイ・ライティング・システム

※掲載されている内容は、取材時現在の情報です。ご覧になった時点では内容が変更されている場合がありますので、あらかじめご了承ください。