創造人×話

段ボール愛からはじまった活動が、結果的にアップサイクルという概念にもつながっていることにやりがいを感じています。

島津 冬樹さん段ボールピッカー

今回は、国内のみならず世界各国を巡り、集めてきた段ボールで財布をはじめとした作品をつくる段ボールピッカーの島津冬樹さんをご紹介します。2018年には、ご自身の活動を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』が全国劇場公開されるなど注目度も高く、国内外で高く評価されていらっしゃいます。

※「アップサイクル」とは、サスティナブル(持続可能)なものづくりの新たな方法論のひとつ。従来から行なわれてきたリサイクル(再循環)とは異なり、単なる素材の原料化、その再利用ではなく、元の製品よりも次元・価値の高いものを生み出すことを、最終的な目的とする。
出典:現代美術用語辞典ver.2.0 – artscape

世界各国の段ボールから生まれた個性豊かな段ボール財布

島津さんは、段ボールアーティストとしてご自身の作品を制作・販売されるだけではなく、著名な企業やブランドとのコラボレーションを展開され、また、多くのメディアで取り上げられるなど、幅広くご活躍されていらっしゃいますが、やはり幼少の頃から、ものづくりがお好きだったのでしょうか。

私は湘南出身で、子どもの頃からよく海辺を散歩していたのですが、貝殻を拾って集めることが大好きだったことを覚えています。他にも植物、キノコなどを集めて写真に撮り、図鑑や標本を作って先生に見せたりしていました。思い起こせば、幼い頃から何かを集めるだけでなく、その年なりの工夫をしてまとめたり飾ったりして人に見てもらうことが好きだったようです。ものづくりやデザインにも興味があったので、将来はアートディレクターになりたいと思い、美術大学に進学しました。

島津さんが段ボールアーティストの道に進まれたきっかけをお教えください。

段ボール作品の原点となった左側の初代段ボール財布は、時の流れとともに味わいを増している

大学2年の時に財布が壊れてしまい、その頃は買い替えるお金もなかったので、自宅にあった段ボールで財布を作ってみたことがきっかけと言えます。最初は短い期間だけでも使えればいいと思っていたのですが、意外に頑丈で気がついたら1年以上使っていました。そこで、これは面白いと思い、当時通っていた多摩美術大学で芸術祭が開催された時に、1個500円で売ってみたら思いのほか反響があり、売り切れてしまったのです。

その頃から段ボールの持つ魅力にすっかり虜になってしまい、段ボールアーティストを生業としていきたいと思うようになりました。先生にも相談したところ、3年位は企業に努めて社会経験を積んだ方が良いというアドバイスをいただき、自分自身も元々アートディレクターを目指していたこともあり、卒業後は広告代理店に就職しました。

財布以外のアイテムも制作している。写真はハンドバッグ
オーストラリア・シドニーにて

広告代理店に就職された島津さんが、段ボールアーティストとして独立されるまでの経緯をお聞かせください。

使い勝手も工夫され完成度の高い段ボール財布

アートディレクターという仕事は、自分で手を動かすというより、ディレクションに重きがあるので、やはり“段ボールで何かをつくりたい”という気持ちが募り、会社の近くにあった市場に行って集めてみたり、家に帰ってから作品をつくったりして、つくづく段ボールが好きだということに改めて気がつきました。3年半ほど勤めた会社を辞める時には悩みましたが、やらない後悔よりもやった後悔の方が良いと思えたのです。とは言え、いざ独立してもすぐに段ボールアーティストとして生計を立てることは難しく、しばらくはフリーでデザインの仕事をしながら二足のわらじで活動していました。

島津さんにとってのターニングポイントがありましたら教えてください。

イギリス・ロンドンにて段ボールを採集中の様子

映画制作がターニングポイントのひとつになったと思います。最初はセルフプロデュースで、段ボールをテーマにした映画をつくりたいと思っていたのですが、勤めていた会社を辞めるタイミングで知り合った映画のプロデューサーとグラフィックの仕事をしていた関係で、その企画を相談したところ、客観的に撮った方が良いということになり、自分が段ボールを求めて旅をするドキュメンタリー映画をつくることになったのです。映画は2018年に公開となり、おかげさまで大きな反響をいただきました。

段ボールの魅力とは何でしょうか?

大学時代に初めての海外旅行でニューヨークに行った時に、街で見かけた段ボールが日本のものと全然違うことに気づきました。デザインや色や素材が国によって異なり、バラエティーに富んでいるという段ボールの持つ魅力にとても惹かれたのです。それから世界の段ボールを拾ってみようと思うようになり、今に至っています。これまで35か国を巡り、段ボールを収集してきましたが、アメリカやオーストラリア、南アフリカなどの農業大国には段ボールが多いことがわかったり、アジアは柔らかい質感であるのに対し、アメリカは木材由来の素材を使っていて硬い質感であることがわかったりと、同じ段ボールでもさまざまな違いがあって非常に興味深いです。

また、その国々の言語が印刷されているところも、それぞれの段ボールの個性が感じられて、たとえばヘブライ語など全く読めないのに、その箱のデザインが面白いと思ったりしています。段ボールを通じて、お国柄や人柄が見えてきたりするのも大きな魅力ですし、何よりも、段ボールに込められた人々の想いも一緒にのせて国内や世界中を旅するということを想像するだけでワクワクして、そこに温もりやストーリーを感じることができるのです。