創造人×話
光の陰翳を表現することで、自然と共存する世界を作品の中につくりだしています。
柴田 あゆみさん切り絵作家
柴田さんの作品は、手のひらに載るくらいの小さなサイズから、人が実際に入ることもできるほど大きなインスタレーションのような作品まで多彩ですが、これらの作風はその頃から培われていらしたのでしょうか。
最初は小さな切り絵作品を制作していたのですが、この作品の中に入りたいという思いがあり、先生のアドバイスもヒントとなって、紙を数十枚重ねて奥行のある作品やスケール感のある巨大な作品をつくるようになりました。
ミクロからマクロまでの作品づくりが私の作品の特長と言えます。
ニューヨークで活動されていらした柴田さんがパリにいらしたのは何かきっかけがおありだったのでしょうか。
学校を卒業する前に美術館でインターンをしていたこともあり、仕事があって友人もいるニューヨークでこのまま生活をしていけると思った反面、私にとって表現手法のひとつとしてアートがあるのだから、どうありたいかという目的に近づくためには何をすべきか、ぬるま湯に浸かっているのではなく信念をもって先に進むべきではないかという思いを抱きました。
不思議なことに、そう思った数日後に、フランスのギャラリーからお話をいただき、その後2015年にパリに移り、3年ほど滞在しました。
住み慣れたニューヨークの生活を飛び出して新たにパリに行かれるなんて、柴田さんは本当にエネルギーに溢れていらっしゃいますね。
もちろん、またフランス語を学ばなくてはならないなど、大変ではありましたが、英語ができれば大体どこの国に行っても生活には困りません。
パリではルーブル美術館の近くを散歩中に偶然見つけた、外壁にある変わったオブジェが目を引く建物のアトリエでいろいろな人との出会いがありました。実はそこは現代美術家たちが集まる伝説のアトリエとして有名な「59 Rivoli」で、現在はパリ市が運営している公的な施設となっているのです。
私は、その共同アトリエを拠点として2年間、展示と制作活動を行うことができました。
2018年に日本へ戻っていらしてからは、東京と神戸のアトリエを行き来しながら精力的に制作活動をされ、個展や大規模な展覧会を開催されていらっしゃいますが、久しぶりの日本の印象はいかがでしたか?
もともとは、あまり日本の印象が良くなかったのですが、それは自分の柱がまだできていなかったからだということに気づきました。
今の自分をそのまま見せることができ、自然体でいられる現在はとても暮らしやすい環境となり、日本文化の素晴らしさ、技術力の高さや開発能力のスピード感、また繊細なサービスなど、良いところをたくさん再認識しています。
海外で暮らしてみて初めて分かる日本の良さに気づくことができたように思います。
光と影が織りなす独特の美しさを特長とされる柴田さんの作品の数々は観る人を魅了し、光が重要なファクターになっているように思いますが、それは柴田さんの作品テーマにも通じるものなのでしょうか。
私の作品に光は欠かせない存在で、ステンドグラスのように光を当てることによって陰翳ができ、輝く存在になるのだと信じています。
作品のテーマは一貫していて、それは「調和のある社会を目指すこと」であり、人間や動物や自然が調和している持続可能な世界をつくりたい、という想いを強く持っています。そのために自分ができることを考えながら、たとえば小さな瓶の中に理想の街や家をつくったり、動物たちと自然が共存している森をつくったりと、将来への希望の姿を作品に込めているのです。闇の中で灯した光が道標となるように、楽しい時や喜びを持って何かをしている時、人は思いやる心が生まれ、それぞれの心に光が灯るのではないかと考えています。
切り絵を幾層も重ねて光を当て、奥行きと立体感を出していく私の作品づくりには、温もりのある灯りが欠かせませんので、白熱電球など従来の光源だけではなく、小さく発熱も少ないLEDを使うことができる技術の進歩にも感謝しています。また、作品や展示する場所に応じて、自然の光と一体化した作品がつくり出す表情を楽しんでいただけると有難く、作品をご覧になった方の心にも光が灯るような作品づくりに取り組んでいます。
大型作品以外は通常、作品をつくる時は、下書きはせずに切り絵の紙自体を“陰”と“陽”に分けることから始めます。紙が“陰”で、紙を切り取り、そこに空間をつくることが“陽”なのです。切り出した部分に光が入ってきて、光と闇が交わり、作品に命が宿る。私はそう考えています。
これからますますのご活躍が楽しみな柴田さんですが、今後の予定や抱負についてお聞かせください。
2020年は、東京銀座・和光で個展を開催したり、山梨県にある富士川・切り絵の森美術館でアーティスト活動10周年の集大成となる展覧会を開催したり、また年末には、歌手の森山良子さんのコンサート舞台美術を担当させていただいたりと、おかげさまで多忙な1年となりましたが、2021年も六甲山で予定されている個展などに向けて作品づくりを続けていくつもりです。
将来の夢はたくさんありますが、大きな夢としては、街づくりに何らかのかたちで関わっていけたら嬉しいです。
建築家や街のシステムをつくる人たちと共に、アーティストとして新しいコミュニティをつくっていくお手伝いができて、それがどんどん広がっていったら、私が求め続けてきた「調和のある社会」に近づいていくのではないかと思い、ワクワクしています。
柴田 あゆみ(しばた あゆみ)
神奈川県横浜市出身、2007年にニューヨークに移り、国立アカデミーにて版画とマルチメディアを習得。
2015年よりパリに移り、パリ市運営のアトリエ59 Rivoliにて2年間の展示と制作活動を行う。
パリ滞在中、フランス最大のペーパーアーキテクト会社より後援を受け、4メートル四方の大型作品の展示やフランス老舗ブランド、repetto本店にて特別展示や、その他多数展示を行う。
2018年より東京・神戸を拠点として活動中。
同年、イタリア、ミラノマルペンサ空港での大型作品の展示や、ドイツ国際ペーパーアートトリエンナーレにて入選。