技術資料
黒かび(Aspergillus niger)を光照射の指標微生物として使用する際の条件の検討
技術研究所 光応用研究室
キーワード
黒かび,指標微生物,光照射,紫外線,滅菌,殺菌,不活化
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3.結果と考察
3.1 分散剤の違いによる不活化効果
2種の分散剤(0.05%スルホ琥珀酸ジオクチルナトリウム添加生理食塩水,0.1%Tween80溶液)を用いて胞子を回収した液体評価用の試験インジケータを用いて実施した紫外線照射の結果を図3および図4に示す。図3はNBRC105649,図4はNBRC9455での生残曲線である。どちらの菌株においても,分散剤を変えても生残曲線の傾きは違いが見られず,2種の分散剤の違いによる不活化効果の影響は見られなかった。
3.2 菌株の違いによる不活化効果
黒かびの2つの菌株(NBRC105649,NBRC9455)の紫外線感受性が異なるか否かを調べるため,初発胞子数10⁴~10⁶cfu/mℓの範囲で試験インジケータを作製して紫外線照射試験を実施した。それぞれの株の生残曲線を図5(NBRC105649)及び図6(NBRC9455)に示した。初発胞子数を変化させてもそれぞれの菌株での生残曲線の傾きに大きな違いは見られなかった。しかし,2つの菌株の紫外線感受性は大きく異なり,3Logに要する紫外線照射量は,全てのプロットを合算して求めると,NBRC105649が261(mJ/cm²)であるのに対して,NBRC9455では417(mJ/cm²)となった。
3.3 表面評価用に作製したインジケータの顕微鏡観察
作製した表面評価用の試験インジケータ(担体5種)の顕微鏡観察の結果を図7~図11に示した。図7はスライドグラスを坦体とした試験インジケータで,担体上に胞子の他に食塩と推測される結晶体が見られた。スポットのエッジ部分には胞子が多く集まる傾向が見られたが,10⁶胞子サンプルではエッジ部分でも特にクランプ形成は見られなかった。10⁸胞子サンプルでは胞子の多重積層が随所に確認された。図8はアルミ箔を坦体としたもので,スライドグラスの場合と同様,10⁶胞子サンプルでは食塩の再結晶と推測されるものは見られたが,エッジ部分でも特にクランプが形成される様子はなかった。10⁸胞子サンプルでは胞子の多重積層箇所がスライドグラスの場合より多く見られた。図9はメンブレンフィルタを坦体としたもので,10⁶胞子サンプルでは食塩の再結晶らしきものは見られず,またエッジ部分でも特にクランプが形成される様子はなかった。10⁸胞子サンプルでは胞子の多重積層箇所が見られた。図10および図11はそれぞれ吸収パッドおよびガラス繊維ろ紙を担体に使用したものである。どちらも繊維に胞子が付着した状態で観察され,スポットのエッジ部らしき箇所には胞子が密集して観察された。
3.4 表面評価用インジケータの回収率と不活化率
表面評価用インジケータの未照射および紫外線照射時の平均回収数と不活化率を表1に示す。使用した菌株はNBRC105649,投入胞子数108,000個,回収液には0.05%スルホ琥珀酸ナトリウム添加生理食塩水,紫外線照射量135mJ/cm²の条件で行った。未照射での平均回収率はメンブレンフィルタが100%と一番良く,続いてスライドグラス,アルミ箔,ガラス繊維ろ紙,吸収パッドの順となった。回収率と不活化率の結果から,調査した坦体の中でメンブランフィルタが最適であったが,ガラス繊維ろ紙,アルミ箔,スライドグラスも回収率は下がるものの使用可能であると考えられる。吸収パッドについては,回収率が低く,不活化率レベルも他に比べ大きく異なることから使用は難しいと考えられる。
インジケータ坦体 | 平均回収数(cfu/BI) | 回収率 | 不活化率 | 評価 | |
---|---|---|---|---|---|
未照射 | 照射後 | % | % | ||
アルミ箔 | 39,500 | 1,650 | 36 | 95.8 | ○ |
スライドグラス | 51,000 | 150 | 46 | 99.7 | ○ |
吸収パッド | 12,500 | 7,000 | 11 | 44.0 | × |
ガラス繊維ろ紙 | 31,500 | 50 | 29 | 99.8 | ○ |
メンブレンフィルタ | 110,000 | 400 | 100 | 99.6 | ◎ |
- 備考)使用菌株:NBRC105649,投入数:1.08×10⁵/BI,照射量:135mJ/cm²
3.5 表面評価用インジケータを用いた不活化効果
担体としてメンブレンフィルタおよびアルミ箔を使用した表面評価用のインジケータで生残曲線を描いた結果を図12に示す。菌株(NBRC105649),初発胞子数(1.0×10⁵cfu/BI),回収液(0.05%スルホ琥珀酸ジオクチルナトリウム添加生理食塩水)など坦体以外の条件は同一で実施した。同じ菌株の黒かびでありながら生残曲線に違いが見られた。これは担体の違いが起因しているものと考えられる。
4.まとめ
黒かびを光照射のインジケータとして使用するには,胞子液の調製方法,試験インジケータの作製方法を確認することが大変重要であることが認識された。同じ黒かび(Aspergillus niger)でも菌株によって紫外線感受性大きく異なり,3Logに要する紫外線照射量がNBRC105649で261(mJ/cm²),NBRC9455で417(mJ/cm²)となることが分かった。また表面殺菌を評価する試験インジケータとしてはクランプ形成を無くす坦体を選択することが,正確な評価をするのに重要であることが分かった。
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第21号掲載記事に基づいて作成しました。
(2009年12月1日入稿)
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