技術資料

光環境評価システム「QUAPIX™」(その1) - 研究開発 -

技術研究所 照明研究室
東京工業大学 大学院総合理工学研究所 人間環境システム専攻 中村 芳樹

キーワード

光環境評価,QUAPIX™,輝度分布,クオリアイメージ,明るさ,目立ち,視認性

3.QUAPIXの測定事例

ここでは,QUAPIXを用いた光環境評価の測定事例を紹介する。

図8~11は,輝度測定およびクオリアイメージの測定事例をそれぞれ示したものである。図に示すように,QUAPIXでは,クオリアイメージとして見え方が表示されるため,「どの箇所がどのように見えているか」といったように,空間に対し,評価対象をより明確にし,かつ定量的に光環境の評価が可能になる。

図12 QUAPIX を用いた光環境評価イメージ

図12は,QUAPIXを用いた光環境の評価イメージを示したものである。QUAPIXでは,輝度,明るさと同時に,目立ち度や視認性の評価が可能であるため,ひとつの環境に対し,多次元的な光環境の評価が可能である。

たとえば,図9,10に示すような店舗照明などの場合には,省エネルギーのため照明の光量を落としたいが,最低限の明るさを確保しつつ,商品の目立ち度・視認性は高くしたいといったようなニーズがある。QUAPIXは,このようなニーズに対し,多次元的な光環境評価を実施することで,効果的な照明提案ができるシステムである。

図8 輝度画像の測定事例

  • ※画像内の数値は破線で囲われた領域の平均値である
路面輝度測定
これまで時間と労力を要した作業が省力化され、現場でリアルタイムに輝度測定、評価が可能である。

図9 明るさ画像の測定事例

  • ※画像内の数値は破線で囲われた領域の平均値である
店舗照明
店舗内および、隣接する店舗間の明るさ評価による過剰照明、暗さの要因分析などが可能である。
この例では、画像右側の店舗が他店舗よりも暗くなっていることが明るさ画像より評価できる。

図10 目立ち画像の測定事例

  • ※画像内の数値は破線で囲われた領域の平均値である
店舗照明
商品の目立ち度の評価。商品へのスポット照明などにより明るくて目立っている場所などの評価が可能である。
この例では、壁・床面に設置された商品の目立ち度が周囲より高くなっていることが目立ち画像より評価できる。

図11 視認性画像の測定事例

夜間屋外の階段照明
視認性画像では、対象物の見えやすさの度合いを評価することが可能である。また、若齢者・高齢者間での見えやすさの違いを比較することも可能である。
この例の場合、階段の踏面先端は高齢者にはよく見えていないことが、視認性画像より評価できる。

4.おわりに

本稿では,輝度情報を解析し人間の感覚量(=クオリア)を可視化する,全く新しい光環境評価システムQUAPIXを紹介した。

人間の視覚特性に基づいた光環境評価は,照明計画において最も重要なテーマである。これまでにも光環境と人間の視覚特性との関係については,多くの研究が行われているが,いまだ解明されていない部分も多く,依然として照度に基づいた照明計画が一般的である。

そこで筆者らは,コントラスト・プロファイル法と呼ばれる画像処理技術を活用し,“明るさ”・“目立ち度”・“視認性”といったクオリアイメージを出力する光環境評価システムQUAPIXを開発した。

その結果,QUAPIXを用いることにより,多次元的な光環境評価が可能となり,場所や目的に応じて,適切な尺度で光環境を評価することができるようになった。

今後は,3次元CGとQUAPIXを用いた,光環境の予測技術について検討を重ねていく。

本システムが,今後の照明計画の際に有用なシステムとして活用されることを期待する。

補遺

本稿に登場する下記各項目に関連する特許または特許出願は次の通りである。

  • コントラスト・プロファイル法:特許第3963299号
  • 明るさ画像:特許第3995201号,特許第4016072号
  • 視認性画像:特許出願中
  • 目立ち画像:特許出願中

なお,コントラスト・プロファイル法,明るさ画像,及び視認性画像については,株式会社ビジュアル・テクノロジー研究所(VTL)が独占実施権を所有しており,当社がVTL社から特許実施許諾を得て開発したものである。目立ち画像は,VTL社と当社との共同出願特許である。

この記事は当社発行「IWASAKI技報」第20号掲載記事に基づいて作成しました。
(2009年5月13日入稿)


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