技術資料

酸素ガス滅菌技術の開発 - 次世代滅菌器 -

製造本部 光デバイス部 光プロセス技術開発課
技術開発本部 技術研究所

キーワード

活性酸素,励起酸素,オゾン,酸素ガス,紫外線,滅菌,殺菌,滅菌器

3.結果と考察

3.1 活性酸素による生残曲線

試験紙型BIを用いた処理時間と生残菌数との関係を図5に示す。条件として200W紫外線ランプ灯数を3灯,4灯,5灯で実施した。3灯では実施した80分間で2桁程度の減少しか見られず滅菌所要時間は計測できなかったが,4灯及び5灯の場合では菌の不検出が確認され,それぞれ70分,50分で滅菌に至った。

図5 活性酸素による生残曲線

3.2 繰り返し処理による生残曲線

次に試験紙型BIを用いて,同じ操作を繰り返し行なった場合での処理回数と生残菌数との関係を図6及び図7に示す。図6は1回15分間処理の繰り返し,図7は1回30分処理の繰り返しである。グラフは双方とも肩のある曲線形状を示し,ランプ灯数が増えるに従って傾きは下がり殺菌効果が高くなり最終的には滅菌に至ることが分かった。ただし,3灯から4灯では大きな違いがあるのに対して,4灯と5灯については大きな差は見られなかった。

図6及び図7から滅菌に至るまでの処理回数,所要時間およびD値を表2に示す。表2中のD値の記載については,初発菌数から1桁減少(90%殺菌)に至るまで所要時間をD1とし,対数減数時の1桁減少(90%殺菌)に要する時間をD2とした。15分処理の繰り返しでは3灯の場合は8回(所要時間120分),4灯及び5灯の場合は,5回(所要時間75分)で滅菌に至った。また30分処理の繰り返しでは,3灯では5回(所要時間150分),4灯では3回(所要時間90分),5灯では2回(所要時間60分)で滅菌できることが分かった。コンディショニングに要する時間を考慮しても,4灯又は5灯では2時間程度で滅菌可能であることが分かった。

次に,ランプ灯数を変えた場合の1回15分処理,30分処理,60分処理の3段階の繰り返し処理結果を表3に示す。3灯の場合,15分処理の繰り返しで6回(所要時間90分),30分処理で3回(所要時間90分),60分処理で3回(所要時間180分)であった。4灯の場合,15分処理の繰り返しで3回(所要時間45分),30分処理で3回(所要時間90分),60分処理で3回(所要時間180分)となった。5灯の場合,15分処理の繰り返しで3回(所要時間45分),30分処理で2回(所要時間60分),60分処理で1回(所要時間60分)となった。最短処理時間は,4灯又は5灯で15分処理の繰り返しの時で,3回(所要時間45分)であった。表2と表3を見比べると,試験紙型BIの方がセルフコンテインド型BIより滅菌所要時間が比較的短かったのは,試験紙型BIは滅菌袋が二重になっていて,活性酸素をより消費しやすくなっていた為と考えられる。

表2 繰り返し処理の滅菌所要時間とD値のまとめ
実施条件 ランプ本数(200W×) 滅菌(6D)に至る回数 滅菌所要時間 D値
D1 D2
15分処理の繰り返し 3灯 8回 120分 60分 11分
4灯 5回 75分 35分 7分
5灯 5回 75分 25分 6分
30分処理の繰り返し 3灯 5回 150分 45分 16分
4灯 3回 90分 15分 9分
5灯 2回 60分 15分 6分
  • 備考)試験紙型BIを使用。
表3 ランプ数・1回処理時間・処理回の関係
    処理回数(ターン数) 滅菌所要時間(分)
ランプ数(W) 処理時間 1 2 3 4 5 6
3灯(600W) 15分 × × × × × 90
30分 × 90
60分 × 180
4灯(800W) 15分 × × 45
30分 90
60分 180
5灯(1kW) 15分 × × 45
30分 × 60
60分 60
  • 備考)セルフコンテインド型BI(J&J製)使用。
    ●はBI陰性(滅菌),×は陽性,-は未実施。

図6 繰り返し処理試験-1回15分間

図7 繰り返し処理試験-1回30分間

3.3 空気を用いた場合の効果

原ガスとして空気を使用した場合の滅菌効果について調べた結果を表4に示す。表4は,紫外線ランプ4灯で1回処理15分間,および30分間を繰り返し行なった時の結果である。原ガスとしての空気は実験室内の空気を除塵フィルターを通してチャンバー内に取り込むことで行った。15分処理の繰り返しでは12回(所要時間180分),30分処理の繰り返しでは8回(所要時間240分)で滅菌に至った。純酸素に比べ約2.5倍程度の時間を要することが分かった。

表4 原ガスを空気とした場合の滅菌効果
実施条件 結果 滅菌所要時間(hr)
処理時間(分/回) 温度範囲(℃) 湿度範囲(%) 処理回数(ターン数)
2 4 6 8 10 12
15分 34-45 7-12 × × 3hr
30分 41-48 9-12 × × 4hr
  • 備考)セルフコンテインド型BI(J&J製)使用。
    ●はBI陰性(滅菌),×は陽性、-は未実施。

3.4 活性酸素の分解試験

活性酸素を分解する方法として,殺菌用ランプとして知られる200低圧水銀ランプ紫外線ランプ(オゾンレスランプ)によるオゾンの分解実験を行なった。活性酸素種の濃度を計測するバロメーターとして,活性酸素種の一つであるオゾン濃度を計測するオゾンモニターを代用した。活性酸素発生用の紫外線ランプ4灯点灯後10分後に消灯し30分後にオゾン分解用のオゾンレスランプ1灯を点灯して,オゾン濃度モニターで濃度を計測した。活性酸素発生用の紫外線ランプを消灯後,オゾン濃度は少しづつ下がったが,オゾンレスランプを点灯後急激に下がり,ランプ点灯後6分程度で検出限界以下に分解された。

図8 オゾンの分解試験

3.5 眼科用医療器具に対する滅菌試験

眼科用医療器具を用いた試験結果を表5に示す。表5は1回15分処理を繰り返し処理の結果で,滅菌評価にはセルフコンテインド型と試験紙型の2種類のBIを同時に使用した。試験に用いた医療器具の中では,プラスチック洗瓶,10枚ガーゼ以外については1回15分処理×6回(所要時間90分)で滅菌評価に至った。プラスチック洗瓶については1回15分処理8回(所要時間120分),10枚重ねガーゼについては1回15分処理10回(所要時間150分)が滅菌評価に至った。プラスチック洗瓶の滅菌に時間を要したのは,外気との接触が細管を通じてしかできない構造であったため,内部のBIまで活性酸素種が入り込み難かったためと考えられる。また,10枚重ねガーゼが滅菌に時間を要したのは重ねたガーゼの中央にBIを入れたため,活性酸素種がガーゼに吸収されBIまで到達し難かった為と考えられる。

表5 眼科用医療器具に対する滅菌試験結果
No 供試サンプル 処理時間(上:回/下:分)
5 6 8 10
種類 材質 90 100 130 160
1 滅菌用容器 プラスチック Tyvek ×  
2 点眼容器 プラスチック  
3 眼帯 プラスチック  
4 ピンセット 金属  
5 セッシ 金属  
6 カンシ 金属  
7 洗瓶 プラスチック × ×
8 シリコンサック プラスチック  
9 ガーゼ10枚重   × × ×
10 綿   ×
  • 備考)●は2種のBI共に陰性、×は両方共に陽性。

4.まとめ

活性酸素種による滅菌技術の検討を行なった結果,同一空間では活性酸素発生用の紫外線ランプを多く,即ち単位体積当りの紫外線照射量を多くすると,殺菌効果が上がり,1回60分処理でも滅菌に至ることが分かった。1回の処理時間を一定にして処理の回数を重ねることで殺菌効果が上がることが確認された。2種類のバイオインジケータ(セルフコンテインド型,試験紙型)を用いてD値が求められ,滅菌(6D)が確認された。また,オゾンレスランプでオゾンが顕著に分解できること,原ガスとして空気を用いた場合は,酸素より2.5倍以上の時間を要することが分かった。

眼科用医療器具について市販のBIを用いて滅菌評価試験をしたところ,1回15分×6回処理(所要時間100分)でプラスチック洗瓶,ガーゼ以外の対象医療用具は全て滅菌に至った。プラスチック洗瓶とガーゼは8回(所要時間130分),10回(所要時間160分)と時間を要したが最終的に滅菌が確認された。

謝辞

実験にした眼科用医療器具については,医療法人社団アイクリニック菊川眼科殿にご提供いただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。

参考文献

  • ※吉野潔,木下忍:紫外線と酸素ガスにより発生させた活性酸素種による滅菌技術の検討,日本防菌防黴学会第32回年次大会要旨,II A-15(2005).
  • ※吉野潔,木下忍:紫外線により励起された活性酸素種による滅菌技術の検討(その2),日本防菌防黴学会第35回年次大会要旨,11Pp-10(2008).

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第19号掲載記事に基づいて作成しました。
(2008年12月3日入稿)


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