技術資料

紫外線を利用した水環境中に含まれる医薬品の除去効果について(その2)

光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課
京都大学大学院 工学研究科 金 一昊

キーワード

PPCP(=Pharmaceuticals and Personal Care Product:日常で使用している医薬品や化粧品),物理化学的処理,促進酸化処理,下水二次処理水,紫外線,酸化剤,pH,水温,過酸化水素(H₂O₂)

3.結果および考察

3.1 紫外線単独処理による医薬品の除去特性

試験水を水温20℃,pH7に調製して実験を行なった時,本研究で対象とした30種の医薬品と紫外線との反応は出力波長にかかわらず,反応時間を横軸にし,その時の残存率を対数に取ったものを縦軸にプロットすると傾きがほぼ直線で表されることから,擬一次反応で表現できることが確認された3)

純水を用いて1.5h処理した時,ランプ1は30種類,ランプ2は19種類の医薬品の初期濃度の90%以上を除去することができたのに対して,下水二次処理水を用いた時は,ランプ1が23種類,ランプ2が17種類という結果を得た。

分解速度についても30種類の医薬品の除去効果を総じて比較した場合,ランプ1,ランプ2ともに,下水二次処理水を用いた時は純水に比べ,低くなることが分かった。

また,対象水に純水と下水二次処理水を用いた時,同一UV投入エネルギーで比較すると,今回使用した30種類の医薬品は擬似一次反応と見なせることから,その分解速度定数より,次の6つのカテゴリーに分類された。その条件はUV投入エネルギー0.4kWuv・h/m³の時,分解率90%(対数残存率log(Ct/Co)=-1.0)未満のものを「分解しにくい物質」,分解率99%(対数残存率log(Ct/Co)=-2.0)以上のものを「分解しやすい物質」,その間のものは「分解可能な物質」とした。

6つのカテゴリーに分類したものを次に示す。

  1. ランプ1,ランプ2のどちらによっても同一UV投入エネルギーに対して分解速度が純水>下水二次処理水の順序となる物質
    (Oxytetracycline,Sulfadimethoxine)
  2. 純水,下水二次処理水に関係なくランプ1,ランプ2のどちらによっても分解されやすい物質
    (Antipyrineなどの鎮痛剤,Sulfamethoxazoleなどの抗菌剤,Ceftiofur)
  3. 純水を用いた時,ランプ1によってのみ分解可能,または分解しやすい物質
    (Acetaminophenなどの解熱鎮痛剤,Metoprololなどの不整脈用剤,Carbamazepine ⇒ 図2に示す)
  4. 純水,下水二次処理水の両方とも同一UV投入エネルギーに対して分解速度が ランプ1>ランプ2 の順序となる物質
    (Mefenamic acid,Indomethacin ⇒ 図3に示す)
  5. 純水,下水二次処理水の両方ともランプ1,ランプ2のどちらによっても分解しにくい物質
    (Cyclophosphamide,Theophylline,2-Quinoxaline carboxylic acid,N,N-diethyl-m-toluamide,Clarithromycin)
  6. ランプ1,ランプ2の出力波長と純水,下水二次処理水の対象水を変えても分解速度に変化のない物質
    (Disopyramide,Tetracycline)

下水二次処理水のDOC濃度が純水に比べ高いことより,医薬品以外に水中に存在する物質に紫外線(UV)エネルギーを吸収されるために除去効率が下がると考えられる。

特に,ランプ1を用いた時,下水二次処理水では純水よりも除去率が低下する物質が多かった。これはランプ1が出力する185nmの波長が共存物質によって吸収されるか,185nmの波長により生成するOHラジカルが共存物質により消費されることが考えられる。

図2 各条件によるCarbamazepineの除去率の比較

図3 各条件によるIndomethacinの除去率の比較

3.2 促進酸化処理(UV+H₂O₂)の効果

上記3.1の結果よりラジカルを発生させるランプ1の処理効果が高いことから,酸化剤の添加が除去効率を改善するのに有効と考え,純水,下水二次処理水に過酸化水素水(H₂O₂)をそれぞれ約5mg/ℓになる様に添加し,促進酸化処理実験を行なった。ランプは,ランプ1とランプ2の両方を検討した。

(a)対象水が純水の場合

今回用いたほとんどの物質において促進酸化による除去効果の向上が確認された。特に図4に示す様に,紫外線単独では分解し難かったCyclophosphamideも促進酸化処理により分解を加速させることができた。しかし,UVランプの出力波長の差はほとんど見られなかった。

図4 各条件によるCyclophosphamideの除去率の比較

(b)対象水が下水二次処理水の場合

純水の場合と同様に促進酸化による除去効果の向上が得られた。また,紫外線単独処理の時,波長による除去効率は「185nm>254nm」という傾向が得られたが,促進酸化処理ではその逆の「185nm<254nm」という傾向が見られた。その例を図5に示す。

図5 各条件によるNaproxenの除去率の比較

(c)促進酸化処理における対象水の影響

促進酸化処理の時,対象水による除去率は「純水>下水二次処理水」という傾向が得られたが,図6に示すKetoprofenの様に純水と下水二次処理水で分解速度差がない場合や,促進酸化によっても分解速度の増大が見られないものもあった。促進酸化処理においても対象水が下水二次処理水の場合,医薬品以外の有機物の存在が分解反応に影響を与えていると考えられる。

図6 各条件によるKetoprofenの除去率の比較

3.3 医薬品の含有水の水質の影響

試験水に純水を用いて,pHや水温を変化させた時の医薬品の除去特性についての検討を行なった。

今回,試験水に純水を用いることから,医薬品以外に紫外線を吸収する有機物が少ないので,生物線量の大腸菌ファージQβで値付けした試験水が受ける紫外線量(照射量)で評価を行なった。

(a)水温の影響

試験水を1h処理した時(照射量1400mJ/cm²),ランプ1では全ての物質が,ランプ2では30物質中24物質が分解率30%以上に分解できた。図7および図8に示すように,対数残存率log(Ct/Co)と照射量をプロットすると直線になることから,物質の濃度は照射量に対して擬一次的に減少することがわかった。

そこで,これら物質の分解特性に及ぼす水温の影響について,反応速度定数による比較を行なった。なお,同一物質において水温による反応速度定数の相互が0.0002[cm²/mJ](照射量1400mJ/cm²時,対数残存率log(Ct/Co)変化が0.25)以内の場合は違いが無いと見なした。

ランプ1では,30物質中9物質において反応速度が変化し,Chlorotetracyclineなど8物質は水温が高いと反応速度が大きくなる傾向が見られたが,Disopyramideのみ水温が低いと反応速度が大きくなった。

ランプ2では,30物質中 Chlorotetracyclineなど10物質において反応速度が変化し,水温が高いと反応速度が大きくなる傾向が見られた(図7)。

水温の影響を受ける物質は水温を高くすることで,熱エネルギーを与えられ,その結果,反応が促進すると考えられる。

以上のことから,紫外線による水中の医薬品除去において,水温が高いと反応速度が大きくなる傾向が見られることがわかった。また波長特性にも変化が見られなかったが,今回はランプ出力の水温特性の検討を含まなかったので,この点については再度検討を行なう必要がある。

図7 Chlorotetracyclineの照射量と分解率の関係(温度変化)

(b)pHの影響

上記(a)と同様に,ランプ2を用いて試験水の温度を20℃とした時の反応速度定数に対するpHの影響の検討を行なった。30物質中,13物質の反応速度がpHの影響を受けた。

13物質中Oxytetracyclineなど11物質において,pHが高い(アルカリ性)と反応速度が大きくなる傾向が見られた。しかし,Sulfamonomethoxine,Sulfamethoxazoleの2物質はpHが低い(酸性)と反応速度が大きくなる傾向が見られた(図8)。

紫外線による水中の医薬品除去において,pHの影響を受ける物質があることがわかったが,それらの挙動と物質の特性について不明な点も多いので,物性や反応経路について今後詳しく調査を行なう必要がある。

図8 Sulfamethoxazoleの照射量と分解率の関係(pH変化)

4.まとめ

本研究では,30種類の医薬品を純水及び下水二次処理水に添加し,回分式で紫外線処理による医薬品の分解実験を行なった。

この結果,紫外線単独処理の場合,純水を用いた時は185nmの出力波長の効果が得られるが,下水二次処理水を用いた場合は純水ほどの効果が得られなかった。促進酸化の場合も同様に下水二次処理水を用いると純水ほどの分解速度は得られないことから,下水二次処理水に含まれる医薬品以外の物質の存在が紫外線による分解反応に影響を与えていると考えられる。

またpHや水温の影響では,水温が高く,pHが高い(アルカリ性)と反応が促進されることがわかったが,その挙動について不明な点も多いので今後検討する必要がある。

さらに,分解反応のメカニズムの解析を行なうとともに,この処理システムを水処理施設に設置することを想定し,連続処理についての検討を行なう予定である。

この内容は第43回環境工学研究フォーラム,第41回日本水環境学会年会にて発表を行なったものである。

なお本研究は,環境省環境技術開発等推進費「水環境に見出される医薬品の排出段階における物理化学的処理に関する研究」の助成を受けて行なった。

参考文献

  1. 田久保剛,吉野 潔,岩崎達行,金 一昊,小林義和,奥田 隆,山下尚之,田中宏明:紫外線を利用した水環境中に含まれる医薬品の除去効果について(1),IWASAKI技報,No.15,pp.15-18(2006).

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第16号掲載記事に基づいて作成しました。
(2007年4月12日入稿)

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