技術資料
紫外線を利用した水環境中に含まれる医薬品の除去効果について(その1)
光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課
京都大学大学院 工学研究科 金 一昊
キーワード
PPCP,物理化学的処理,下水二次処理水,紫外線
2.実験方法 (続き)
2.4 医薬品
今回実験に用いた対象医薬品としては,日本,アメリカおよびヨーロッパで検出されている物質を中心に,分析可能な30物質を選定した。その対象医薬品とその用途を表2に示す。
No. | 物質名 | 用途 |
---|---|---|
1 | Acetaminophen | 解熱鎮痛剤 |
2 | Antipyrine | 解熱鎮痛剤 |
3 | Carbamazepine | 抗てんかん剤 |
4 | Clarithromycin | 抗生物質 |
5 | Clenbuterol | 気管支拡張剤 |
6 | Crotamiton | 鎮痛,消炎剤 |
7 | Cyclophosphamide | アルキル化剤 |
8 | Diclofenac | 解熱鎮痛剤 |
9 | N,N-diethyl-m-toluamide | 防虫剤 |
10 | Disopyramide | 不整脈用剤 |
11 | Ethenzamide | 解熱鎮痛剤 |
12 | Fenoprofen | 解熱鎮痛消炎剤 |
13 | Ifenprodil | 鎮暈剤 |
14 | Indomethacin | 解熱鎮痛剤 |
15 | Mefenamic acid | 解熱鎮痛剤 |
16 | Metoprolol | 不整脈用剤 |
17 | Naproxen | 解熱鎮痛剤 |
18 | Theophylline | 気管支拡張剤 |
19 | Propranolol | 不整脈用剤 |
20 | Ceftiofur | 抗生物質 |
21 | Chlorotetracycline | 抗生物質 |
22 | Oxytetracycline | 抗生物質 |
23 | 2-Quinoxaline carboxylic acid | カルバドックスの代謝物 |
24 | Sulfadimidine | 合成抗菌剤 |
25 | Sulfadimethoxine | 合成抗菌剤 |
26 | Sulfamethoxazole | 合成抗菌剤 |
27 | Sulfamonomethoxine | 合成抗菌剤 |
28 | Tetracycline | 抗生物質 |
29 | Isopropylantipyrine | 解熱鎮痛消炎剤 |
30 | Ketoprofen | 鎮痛,消炎剤 |
2.5 分析方法
対象医薬品の濃度は反応槽の下部にあるサンプリング口から採水し,その後直ちに固相抽出した後,LC/MS/MS(Waters)で30種の対象物質を一斉に分析した3)。
ここでLCとは高速液体クロマトグラフのことで,試験水中の医薬品を分離する。MSとは質量分析計のことで,試験水中の医薬品を同定,定量する。今回用いた計測器はMSが2つ存在することでより精密な測定が可能となる。
溶存有機炭素(DOC)濃度の分析は,医薬品などの有機物を燃焼触媒により二酸化炭素(CO₂)まで完全酸化し,その発生した二酸化炭素を赤外線で分析する「燃焼-赤外線吸収分析法」で行った。装置はTOC分析装置TOC-5000A(島津製作所製)を用いた。
3.結果および考察
3.1 純水に含まれる医薬品の紫外線処理
本研究で対象とした30種の医薬品と紫外線との反応は出力波長にかかわらず,反応時間を横軸にし,その時の残存率を対数に取ったものを縦軸にプロットすると傾きがほぼ直線で表されることから,擬一次反応で表現できることが確認された3)。
それぞれ違う波長を持つランプ(Lamp1:254nmの波長を中心に185nmの波長も持つ低圧ランプ,Lamp2:254nmの波長を持つ低圧ランプ,Lamp3:250nm~450nmの波長を持つ高圧ランプ)ごとの紫外線照射エネルギー量による医薬品の残存率を検討した結果を示す(図2-1,図2-2)。
各ランプ別の比較をするため,同程度の紫外線照射エネルギー量(0.25±0.3kW・h/m³)に必要な照射時間はLamp1で30分,Lamp2は40分,そしてLamp3は20分であった。その条件下で,対象医薬品の初期濃度に対する残存率は,254nmおよび185nmの波長を持つLamp1の場合が最も低いことが分かる。
また,殆どの医薬品は254nmだけの波長を持つLamp2よりLamp1による除去効果の方が大きい傾向が見られた。
185nm波長による影響では,185nm波長の対象物質の直接的な分解作用があるとも考えられるが,185nm波長は空気中の酸素との反応によりオゾンを生成させたり,水中ではOHラジカルを生成させることが知られている4)。
したがって,185nm波長による直接的な分解の他,オゾンやラジカルの発生による間接的な分解作用の可能性もあることから,今後185nm波長によるオゾンやラジカルの生成および医薬品の酸化反応などの検討が必要である。
参考文献
- 金 一昊,田中宏明,山下尚之,小林義和,奥田 隆,岩崎達行・吉野 潔・田久保剛:紫外線処理による30種類医薬品の除去特性に関する回分実験,第43回環境工学研究フォーラム,印刷中.
- Wenya Han, Wanpeng Zhu, Pengyi Zhang, Ying Zhang, Laisheng Li : Photocatalytic degradation of phenols in aqueous solution under irradiation of 254 and 185nm UV light, Catalysis Today 90, pp.319-324(2004).
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