技術資料
交差点における照明要件(その1) - 照度設定と灯具配置の考え方 -
技術開発室 技術部 技術開発グループ
キーワード
交差点,交通事故,照明要件,視認性,安全安心
4.研究事例の紹介
以下に,交差点に必要な具体的な明るさや,灯具の配置方法について研究した事例に着目して,交差点における照明要件について考察する。
4.1 交差点専用照明器具による歩行者の見え方評価11)
設置基準に示されている灯具の配置(図4参照)は,背景に連続照明が存在することを前提としているが,実際には局部照明となっている事例が多く,明るさが不足し,歩行者が認識できない恐れがある。この為,当社では,交差点の視環境向上を目的とした交差点専用照明器具(図5参照:以下,クロス・パズー™と言う。)を開発した。
なお,クロス・パズー™は,交差点のコーナ部に配置した時に,交差点の中央部,横断歩道部,歩道部を効率よく照明する配光形状(図6参照)を特徴とする。また,歩行者を直接照明するので,局部照明としても十分機能するよう設計されている。
そこで当社では,クロス・パズー™の配光性能および照明効果を確認するため,社内の実験道路の交差点に表1に示す照明環境を局部照明で作成して,光学測定と横断歩行者の見え方評価を実施した。なお,被験者は運転免許を所持する20~50歳の男女19名から構成され,歩行者は反射率13%と28%の無彩色の衣服を着ている。
照明器具 | クロス・パズー™ | KSC-4 |
---|---|---|
配置 | コーナ部に配置 (運転者から見て横断歩道部の手前) |
設置基準の配置 (運転者から見て横断歩道部の背後) |
照明方式 | 直接照明方式 | シルエット |
光源 | 高圧ナトリウムランプ180W | |
照明ポール | 10m ポール4基 | |
道路幅員 | 16m:片側2車線・対向4車線相当 |
評価の結果,コーナ部に配置したクロス・パズー™と設置基準に従って配置した従来型道路灯(KSC-4)の光学測定の結果を比較すると,同じランプ灯数,同じワット数にも関わらず,クロス・パズー™の方が交差点内の平均水平面照度と平均路面輝度が約2倍,横断歩道上の平均鉛直面照度が約3.4倍(8ℓx→27ℓx)高いという結果になった。この時,5段階で評価させた歩行者の見え方は,直進・右折時においてクロス・パズー™では「よく見える」,KSC-4では「まあまあ見える」となり,クロス・パズー™を使用した場合の見え方が1水準高いという結果を得た。これにより,交差点の中央部,横断歩道部および歩道部を高照度化することによって,歩行者の被視認性が向上することが明らかになった。
4.2 交差点照明の照明要件に関する研究12)13)
国土技術政策総合研究所は,近年の車道部拡幅による交差点面積の増大,右折レーンの付加などによる交差点構造の複雑化を勘案すると,視環境の改善により確実に事故削減効果を得るためには,具体的な明るさの規定,灯具配置の考え方を明確に示す必要があると指摘している。そして,国内外の基準や既往研究を基に設定した表2に示す照明環境を作成して,車両運転者から見た「歩行者の被視認性」と交差点通過時の「車両運転者に走行時の印象」を評価させている。なお,被験者は非高齢者15名,高齢者5名であり,歩行者は反射率の低い黒色の衣服を着ている。
灯具配置 | 配置A | 配置B | 配置C | 照明なし | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
設定照度* | 15ℓx | 10ℓx | 5ℓx | 15ℓx | 10ℓx | 5ℓx | 15ℓx | 10ℓx | 5ℓx | 照明なし |
備考 | 設置基準の配置 | コーナ配置 | 配置A+配置B | 実測値0.2ℓx |
*交差点内の平均水平面照度
その結果,交差点内で必要となる平均路面照度は,交差点の周囲にノイズとなる明かりが全く存在しない非常に暗い交差点であっても,10ℓx確保することが望ましいとしている。この値は,表3に示すCIEの技術報告と一致する14)。なお,表中の照明区分のC0とC1は主要幹線道路(バイパス),C1とC2は主要幹線道路,C3とC4は幹線・補助幹線道路を示す。
照明区分 | 平均照度E[ℓx] 最小維持値 |
照度均斉度Uo (最小/平均) |
---|---|---|
C0 | 50 | 0.4 |
C1 | 30 | 0.4 |
C2 | 20 | 0.4 |
C3 | 15 | 0.4 |
C4 | 10 | 0.4 |
注)CIE115-1995による。
また灯具の配置は,設置基準の配置とコーナ部配置を組み合わせた「配置C」が他の配置方式に比べて,被視認性において高い評価を得たことを明らかにし,この原因を他の配置に比べて照度均斉度が高いことと,横断歩道付近の路面照度が他の部分よりも高いことと推測している。これは,当社での実験結果(交差点の中央部,横断歩道部,歩道部の高照度化により,歩行者の被視認性が向上する)と一致する。さらに,交差点内の平均路面照度を10ℓx程度に設定する場合は,設置基準に示されている配置(配置A)が効率的であり望ましいとし,規模の大きな交差点で照度を高く設定する場合は交差点中心部の照度が周辺部よりも低くなりやすいため,交差点コーナ部に照明を増強し交差点全体の照度均斉度を高めることが望ましいとしている。
4.3 夜間における交差点内の横断歩行者の被視認性を高める道路照明施設の検討15)
照明学会の市街地交差点の交通視環境に関する研究調査委員会は,右折事故が多いことを指摘し,右折車による横断歩行者事故の主な原因が運転者の視認ミスであることから,右折待機中の運転者から見たときの夜間における横断歩行者の被視認性について実験解析を行った。
実験は,茨城県つくば市の国土技術政策総合研究所内に図7に示す環境を整備し実施された。交差点内の明るさは,ND フィルターを用いて平均水平面照度を5.0ℓxに調節している。被験者が視認する歩行者5名は,上下黒の服を着て図7の①から⑤の各位置に,①から⑤を臨む方向に向かせて一列に立たせている。被験者は,若年者6名と60歳以上の高齢者6名から構成している。視認実験は,歩行者位置(5水準),歩行者の鉛直面照度(5ℓx,10ℓx,20ℓx,40ℓxの4水準),停止車両のヘッドライト点灯の有無(2水準)ら3要因をパラメータとして,従属変数を歩行者の見易さとして実施している。
実験の結果,第一に,横断歩道上の歩行者の鉛直面照度を高くすることは,コントラスト感度の低い人(一部の高齢者)を除き,歩行者の被視認性を高めることに有効であることを明らかにしており,当社の実験成果と同様の結果になっている。
第2に,横断歩道進入前の歩行者や進入直後の歩行者の被視認性が低いことと,横断歩道手前の停止車のヘッドライト点灯が,横断歩行者の被視認性を低下させる大きな要因となることを報告している。また,ヘッドライトに近い歩行者は,鉛直面照度を40ℓxまで高めても発見できない場合が多いことを確認している。
参考文献
- 魚住,江湖他:交差点専用照明器具による歩行者の見え方評価,照学全大,pp.143-145,(2004)
- 蓑島,森,河合:交差点照明の照明要件に関する研究,照学全大, p.136(2005).
- 蓑島,池原,他:交差点照明の照明要件に関する研究,ヤングウェーブフォーラム予稿集,pp.35-40(2006).
- 自動車及び歩行者交通のための照明に関する勧告,CIE115-1995.
- 萩原,江湖,斉藤,松本:夜間における交差点内の横断歩行者の被視認性を高める道路照明施設の検討,第25回交通工学研究発表会論文報告集, pp.85-88(2005).
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