技術資料

インターデッキ型 UV-LED照射器

アイグラフィックス株式会社 技術部 印機技術課
光・環境事業本部 光応用部 LED技術課

キーワード

UV-LED,インキ硬化,枚葉印刷,インターデッキUV,UV-LED照射器

3.商品概要

3.1 インターデッキ用LED照射器の使用方法

図3に枚葉印刷機の概略図を示す。
最終デリバリー用高照度のUV-LEDは,枚葉印刷機内で各色インキを印刷した後にデリバリー部でインキを硬化させるために使用され,固定式となっている。
一方,インターデッキ用UV-LEDは,枚葉印刷機内の各色印刷ユニット間でインキを硬化または仮硬化させるために使用される。
照射器の設置可能スペースは狭く限られており,印刷の条件などに応じて色印刷ユニット間で設置場所を移動させるため,コンパクトでかつ移動設置が可能な機能が求められる。

図3 枚葉印刷機の概略図

3.2 商品仕様と各検討内容

3.2.1 インターデッキ用UV-LED照射器の開発

表1にインターデッキ用UV-LED(2列)と先行開発された高照度UV-LED(6列)との仕様比較表を示す。
図4にインターデッキ用UV-LEDを,図5に高照度UV-LEDを示す。
また,図6にインターデッキ用UV-LEDの集光を,図7に高照度UV-LEDの集光を示す。

高照度UV-LEDの技術を応用しながら,インターデッキ用照射器として要求されるサイズ,ピーク照度,積算光量及びワーキングディスタンス(以下,WD)を満足する光学系とし,さらにコネクター数を削減し,ローラーを取り付けて移動設置を容易にした。

表1 照射器仕様比較
  インターデッキ用 高照度 ハイパワー
UV-LED照射器(2列) UV-LED照射器(6列)
照射器型式(仮称) UELF385-1107-TW UELF385-11018-TW-004
外形寸法(mm)
(突起部含まず)
L1497×W120×H98.4 L1532×W302×H114
重量(kg)
(冷却水は含まず)
25 64
消費電力(kW) 約4 約19
ピーク波長(nm) 385±5 385±5
ピーク照度(W/cm²) 10以上 25以上
積算光量(mJ/cm²)
(搬送速度200m/min)
30 100
照射幅(発光長)(mm) 1100 1100
集光点(mm) 60~65 110

図4 インターデッキ用UV-LED照射器

図5 高照度UV-LED照射器

図6 インターデッキ用UV-LED照射器の集光

図7 高照度UV-LED照射器の集光

①光学系の検討

光源モジュールにガラスレンズを搭載することで配光を狭角化し,中央の反射鏡の反射に使う表面積を少なくすることで反射鏡の小形化を図った(図8〜図11)。

また,光源モジュールのマウント位置を工夫することで,被照射面から装置背面までの距離の削減を図った(図12)。全幅方向は,光源モジュールの搭載数を2列とすることで距離の削減を図った。

これにより,枚葉印刷機内の色印刷ユニット間への搭載を可能にしながらも,ピーク照度は10W/cm²,積算光量は搬送速度250m/min時で25mJ/cm²,WD60〜65mmを達成可能なシミュレーション結果を得られた(図13)。

図8 インターデッキ用 光源モジュール展開図
(ガラスレンズ付き)

図9 高照度用 光源モジュール展開図
(ガラスレンズ無し)

図10 インターデッキ用 光源モジュール配光
(ガラスレンズ付き)

図11 高照度用 光源モジュール配光
(ガラスレンズ無し)

図12 インターデッキ用UV-LED照射部

図13 光線追跡の結果

②各色印刷ユニット間の移動設置の容易化の検討

高照度UV-LED照射器では,照射器と電源装置間の動力線が11本,信号線が1本の計12本の配線がそれぞれコネクターで接続されている。インターデッキ用UV-LED照射器では動力線を1つのコネクターにまとめ,信号線1本の計2本とした(図14)。また,照射器側面にローラーを取り付けた(図15)。

図14 インターデッキ照射器のコネクター

図15 照射器側面のローラー

3.2.2 結果
①光学系の検討

図16 インターデッキ用UV-LED照射器の照度分布

作製したインターデッキ用UV-LED照射器の照度分布を図16に示す。ピーク照度は,測定を行った4台ともにWD65mmにて10 W/cm²を上回り,積算光量は搬送速度250m/min時で25mJ/cm²を上回る結果となった。

②枚葉印刷機内の各色印刷ユニット間のスペースへ収めるためのコンパクト化

LEDモジュールの搭載数を2列とすることで全幅を削減した。また,ガラスレンズ付きの光源モジュールの採用と反射鏡の小形化で焦点距離を短くした。これにより,被照射面から装置背面までの距離を削減し,枚葉印刷機内の各色印刷ユニット間への搭載を可能とした。

③枚葉印刷機内の各色印刷ユニット間の移動設置の容易化

動力線のコネクター数を削減することで,移動設置の段取りの作業性を向上させた。また,照射器側面にローラーを取り付けることでUV-LED照射器の印刷機への抜き差しを容易にした。

3.3 性能

①他社との性能比較

インターデッキ型UV-LEDは,ハイパワータイプのような最終的な印刷物の完全硬化を目的としたものではなく,補助硬化が主目的となる。弊社のハイパワータイプ,インターデッキタイプと他社との性能比較を表2に示す。

インターデッキタイプは出力に対して照度が高く,ハイパワータイプで本硬化する前段階でインキへの仮硬化を効率的に行う特長がある。

表2 他社との比較
項目 タイプ 照射距離
(mm)
ピーク波長
(nm)
ピーク照度
(W/cm²)
推定積算光量比
(%)※
消費電力
(kW)
長照射距離タイプ ハイパワー 110 385 25 100 19
短照射距離タイプ インターデッキ 60〜65 385 10 20 4
P社 - 80 385 7.5 40 7.8
K社 - 90 385 9 60 9
A社 - 100 385 5.7 60 8.2
  • ※積算光量は200m/minのときの値。
②硬化性能

インターデッキUV-LEDを実際に印刷機で使用した硬化テストを表3に示す。また,実際の印刷機械へのUV-LED照射器の搭載状況を図17に示す。

表3 硬化比較
項目 内容
1.機器仕様 ・インターデッキUV-LED
・ハイパワーUV-LED
2.設置場所 インターデッキUV-LED 6色-ニスコーター間
3.原反 CRCコートボール
サイズ:1100mm×800mm,270g/m²
4.インキ 高感度インキ 墨・藍・紅・黄
5.印刷速度 13000rph(182m/min)
6.印刷評価 インターデッキUV-LEDのみの使用で,出力100%において表面硬化およびテープ密着は良好。ハイパワーUV-LEDは使用せず。インターデッキUVは本来補助硬化装置ではあるが,本テストでは完全硬化の結果が得られた。

図17 印刷機への搭載状況

図18 ハイパワーUV-LED

図19 インターデッキUV-LED

4.おわりに

4.1 UV-LED商品に今後求められること

枚葉印刷対応のUV-LED照射器として,先行開発したハイパワー UV-LED照射器(6列),スタンダード UV-LED照射器(4列)により,とりわけ広告,ちらしなどの商業印刷分野で販売展開を行ってきた。

今回開発したインターデッキ用UV-LED照射器(2列)を商品化することで,枚葉印刷機内で使用されるUV照射器をすべてLED化したことになった。これにより付加価値印刷に対応した枚葉印刷機へのUV-LED照射器のさらなる拡販が見込める。製造上の今後の課題として,組立方法が複雑で製造の難易度が高くなっているため,構造などを見直し,製造方法を簡素化する必要がある。また,組立方法の見直しや部材を再検討することによりコストダウンを図る必要性も出てきている。

UV-LED印刷は今後,対摩擦性が要求されるパッケージ分野や,光沢を要求されるコーターニスなどの市場にも積極的に展開されることが期待される。この分野は今までUVランプが主として担ってきた市場である。さらなる高出力化や発光波長の異なるLED素子を数種組合せた光源ユニットが必要となる。また,時代の要請である生産性を向上させる省エネルギー商品として,今よりも紫外線変換効率が良い商品を開発しなければならない。

4.2 印刷業界と今後の弊社の展望

印刷業界の裾野は広く,要求は枚葉印刷機だけに留まらない。シール,ラベル,ビジネスフォーム印刷は低価格な高照度,高光量の商品,飲料容器,食品包装や,危険性雰囲気中でのグラビアパッケージ印刷向けの安全で良質な性能を有す商品が求められている。

また,海外ユーザーへの展開も予想される。日本のUV装置メーカーの雄として,市場からの弊社への期待値は常に高く,印刷分野に特化した付加価値商品を開発,販売することを強く要請されている。最終ユーザーのみならず,機械メーカー,インキメーカーからの期待は大きい。

印刷市場の成熟が叫ばれて久しいが,印刷という装飾,表面加工,情報表示,証券,包装などの時代の要求とともに求められる特長を変化させていった巨大な市場がなくなることはない。ここに挙げた新商品の登場とともにさらなる高みを目指すべく,弊社がもつ老舗紫外線メーカーとしての商品開発技術,印刷のお客様のニーズに答える提案活動は他社にはないものとして特筆できるものである。印刷のもつ潜在的な需要にこれからも十分足りていくものであり続けなくてはならない。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第39号掲載記事に基づいて作成しました。
(2018年11月9日入稿)


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