技術資料

照明環境シミュレーションシステム「iVR-360™」

新技術開発部 照明技術開発課

キーワード

照明環境シミュレーションシステム,iVR-360™,VR,輝度,照度

1.はじめに

弊社は,これまでに光環境評価技術として3DCGを用いた照明設計手法を確立し,さまざまな照明施設の設計,提案に活用してきた。図1に異なる視点からシミュレートした照明環境を示す。

従来の3DCGを用いた技術では,あらかじめ設定された視点と視線方向の照明環境のシミュレーションしか行えなかった。また,近年注目されている技術としてバーチャルリアリティ(以下,VR)があるが,VRは仮想空間を自由に動き回ることができるものの,照度や輝度といった物理的な測光量を定量的に評価することはハードウェアの計算処理上の問題で困難である。

そこで,3DCGを用いて,光学的に算出した照度,輝度の数値情報を有する360°パノラマハイダイナミックレンジ(以下,HDR)画像を作成し,それを用いた照明環境シミュレーションシステム「iVR-360」を開発した。

本稿では,iVR-360の機能概要とシステムの基本原理について述べる。

図1 異なる視点のシミュレーション結果

2.機能概要

2.1 照明環境評価システム「iVR-360」の機能概要

iVR-360の起動画面を図2に示す。

iVR-360は,操作画面と出力画面で構成されており,PCを用いて操作する。操作画面上のパラメータを設定することで,あらかじめ設定した視点位置から360°任意の視線方向で照度や輝度などの定量的な照明環境のシミュレーションが可能である。

なお,シミュレーションの制作には,施設の3Dモデル(BIM等),材質データ(反射率データ),照明設計データが必要となる。

図2 iVR-360の起動画面

2.2 各機能と活用例

iVR-360に搭載されている主な機能と活用例を以下に示す。本システムを利用することで,さまざまな評価,検証を行うことができる。

図3 照度,輝度の表示

①照度,輝度の表示

図3のように,任意の位置での照度,輝度を表示することができる。

②明るさの検証

図4は一定以下の照度を青く,図5は一定以下の輝度を赤く表示している。例えば,フィールドの明るさ(照度,輝度)の評価,検証が可能である。

図4 照度分布画像

図5 輝度分布画像

③グレア評価

図6は一定以上の照明器具の輝度を赤く表示している。例えば,プレーの妨げになるグレアの評価,検証が可能である。

図6 照明器具の発光面輝度のグレア解析結果の表示

④視認性評価

図7は順応輝度(背景輝度)に対する各画素の輝度対比を可視化したものである。これにより例えば,ボールの見やすさの検証が可能である。

図7 視認性評価結果

3.基本原理

3.1 360°パノラマHDR画像の作成

図8はエクイレクタングラー形式の3DCG画像である。この画像を射影変換し,全天球オブジェクトにマッピングした360°パノラマ画像をモニターに出力する。

図8 エクイレクタングラー形式3DCG画像

図9 正距円筒図法の世界地図

エクイレクタングラー(equirectangular)とは,投影法の一種であり,正距円筒図法のことを指す。VRパノラマではよく使われる投影方式である。例えば,この方式で投影した世界地図は図9のようになる。

3.2 HDR画像のトーンマッピング

HDR画像は,RGB値を32bitの浮動小数点で記録するため,照度や輝度などの物理量を数値として記録することが可能である。従って,HDR画像を360°パノラマ画像形式で出力することにより,任意の視点での照度,輝度データを保持することが可能となる。さらに読み込んだ画像から得られた数値をモニターに出力する際に,その明るさに応じてトーンマッピング(階調値化)することで,測光値に忠実な画像表示が可能となる。HDR画像に保存されたsRGB値と,モニターに出力する際のRGB8bit(256階調)へのトーンマッピングは以下の手順である。

①HDR画像に保存された,sR,sG,sB値をXYZ三刺激値に変換する。

式

②XYZ三刺激値をモニターの最大表示輝度Ymoni(cd/m²)でトーンマッピングする。

式

③sRGBmoniをガンマ補正する。

(a)sRmoni,sGmoni,sBmoni ≦ 0.0031308のとき

式

(b)sRmoni,sGmoni,sBmoni > 0.0031308のとき

④sR'moni,sG'moni,sB'moniを8bitに変換する。

式

4.おわりに

本稿では,弊社の照明環境シミュレーションシステム「iVR-360」の機能概要と基本原理について述べた。本システムは,任意の視点から360°自由な視線方向に照度や輝度などの定量的な照明環境の評価,検証が可能である。本システムを活用することで,施主様や運営者様と照明設備施工前にイメージが共有でき,照明設計上の指標値も確認できるため,検討にかかる時間を短縮することができる。

補遺

1)特許出願中:『光環境評価装置,及びプログラム』,特願2018-32988
2)商標出願中:『iVR-360』,商願2018-058706

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第38号掲載記事に基づいて作成しました。
(2018年5月28日入稿)


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