技術資料
薄明視環境下で光源のS/P比が不快グレアに及ぼす影響
国内営業本部 営業技術部 照明研究課
キーワード
薄明視,S/P比,不快グレア,相関色温度
3.S/P比に応じた測光量の補正方法(つづき)
3.2 実験手順
図8に主観評価実験の実験手順を示す。実験を行う際は,背景輝度を1.0cd/m²から順に0.1cd/m²,0.03cd/m²となるように設定し,実験を通して被験者が低輝度まで完全に順応できるように配慮した。図8(a)の9段階グレア評価では,固視点から目線を外さないように被験者に教示した後,基準光のみを5秒間呈示した。その後,被験者は図2に示す評価スケールを用いて不快グレアを評価した。回答は1~9の整数のみ許可した。
図8(b)のテスト光の調光でも,固視点から目線を外さないように被験者に教示した後,基準光とテスト光を同時に呈示した。その後,被験者は基準光から感じる不快グレアとテスト光から感じる不快グレアが同程度となるように,テスト光の輝度を手元の調光器で調整した。調整後,輝度計でテスト光の輝度を測定した。
3.3 実験結果
図9に基準光の9段階グレア評価の結果を示す。結果は回答した被験者の相加平均値を示している。順応輝度(≒背景輝度)を3段階に変えた環境下で,照射する基準光は常に輝度3.0×10⁵cd/m²一定だったため,順応輝度が低くなるにつれてグレア評価値は大きく(まぶしく)なっている。このとき,最も順応輝度が高い条件(1.0cd/m²)でグレア評価値は4.5,最も順応輝度が低い条件(0.03cd/m²)でグレア評価値は7.9だったことから,後述する基準光とテスト光の不快グレア評価を等しく調整する実験の際,被験者は十分に不快グレアを感じる環境下に置かれていたことが確認できた。
図10に基準光と同程度の不快グレアとなるように調整したテスト光の輝度(等グレア感輝度)の結果,およびその近似曲線を示す。等グレア感輝度は被験者間のばらつきが大きかったことを考慮し,全被験者の相乗平均値とした。また,近似曲線は二次の多項式で,決定係数R²は順応輝度の高い順に,0.91,0.93,0.86となった。
図10より,一部を除き,基準光よりもS/P比の高いテスト光は基準光に比べて等グレア感輝度が小さい結果となり,基準光よりもS/P比の低いテスト光は基準光に比べて等グレア感輝度が大きい結果となった。この結果は,S/P比の高い光は不快グレアを感じやすいことを意味し,S/P比の低い光は不快グレアを感じにくいことを意味する。したがって,これは前章の不快グレア評価実験の結果を肯定する結果となった。
また,図10の近似曲線から,順応輝度によってS/P比と不快グレア評価との関係が変化する傾向があることが分かった。順応輝度が高い条件(1.0cd/m²)では,S/P比の低いテスト光ほど等グレア感輝度がより大きく(不快グレアをより感じにくく)なっているが,順応輝度が低い条件(0.03cd/m²)では,S/P比の低いテスト光の等グレア感輝度の変化は少なく,S/P比の高いテスト光ほど等グレア感輝度がより小さく(不快グレアをより感じやすく)なっている。つまり,順応輝度が高いときはS/P比の低い光に対する感度が相対的に高く,順応輝度が低いときはS/P比の高い光に対する感度が相対的に高くなったといえる。この結果から,不快グレア評価に錐体だけではなく,桿体の応答も影響を及ぼしている可能性が示唆された。
3.4 測光量の補正方法と検証
図11に,テスト光の輝度に対する基準光の輝度を示す。グラフは基準光のS/P比(2.07)で1.0となるように調整を行っている。この輝度比の大きさは,任意のS/P比のテスト光から感じる不快グレアを,基準光から感じる不快グレアを基準とする比率で表しており,不快グレアに対する感度の高さを表しているといえる。そこで,この輝度比を,不快グレア評価を行う対象光源のS/P比に応じて,各種測光量を重み付けする補正係数とした。そして,この補正係数と各種測光量の積を不快グレア評価と対応する値とみなすことができるか検証を行った。
補正係数がテスト光の輝度から得られたことから,図5の光学測定結果に対して補正を行った。具体的には,図11から防犯灯Ⅰ・ⅡのS/P比に応じた補正係数を求め,その値を器具発光面最大輝度の1/10以上の平均値にそれぞれ乗じた。順応輝度0.1cd/m²のグラフを参照し,防犯灯Ⅰ・Ⅱの補正係数はそれぞれ0.96と0.87だった。図12に補正後の光学測定結果と不快グレア評価との関係を示す。図5の補正前と比較すると,相関関係の強さを示す決定係数R²が0.73から0.86と上昇していることから,補正係数と測光量(輝度に関連する値)の積が不快グレア評価と対応する値として適切であることが確認できた。
4.おわりに
薄明視測光システムの理解と普及が進み,S/P比の高い(高色温度の)光源を採用した屋外照明器具が増え,夜間屋外の安全性の向上につながることが大いに期待されている。しかし一方で,短波長の放射エネルギーが多い光源は不快グレアを感じやすいことが報告されている。本報告でも,各種光学測定結果が概ね同じにも関わらず,S/P比の高い防犯灯の方が不快グレアを感じやすいことを確認した。測光量と不快グレア評価が対応しない場合,屋外グレア制限値GR10)や,器具発光面の輝度・光度制限値11) 12) 13)などでグレアを十分に抑制できない可能性もある。そこで,評価対象光源のS/P比に応じて測光量を重み付けし,不快グレア評価と対応する値に補正する方法を提案した。その結果,補正測光量と不快グレア評価が十分に対応することが確認できた。
また,今回は防犯灯に対する補正方法を述べたが,その他の道路灯や街路灯等に応用する場合は,補正係数を求めた実験条件から逸脱しない範囲としなければならない。例えば,目線の高さより下に発光面がある照明器具や,発光面を“見せる”ことを意図した照明器具には適用できない。また,順応輝度が5cd/m²を超えるような明るさに設置された照明器具にも適用できない。そして,実験条件の範囲内の照明器具において,設置される環境の明るさを把握し,図11から適切な順応輝度のグラフを採用する必要がある。
いずれにしても,これまで以上にS/P比の高い(高色温度の)光源を採用した屋外照明器具は,従来よりもグレアが悪化する可能性が高い。色温度のバリエーションを増やす際には,光源のS/P比に応じてグレア抑制のための対策を施す必要がある。
参考文献
- CIE 112:Glare Evaluation System for Use within Outdoor Sports and Area Lighting (1994).
- JIEC-006:歩行者のための屋外公共照明基準;照明学会 (1994).
- JIS C 8131:道路照明器具 (2013).
- CIE 136:Guide to the Lighting of Urban Areas (2000).
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第32号掲載記事に基づいて作成しました。
(2016年5月31日入稿)
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