技術資料
UVフィールドエミッションランプ
技術本部 研究開発部 光技術基礎研究課
キーワード
光源,電子源,フィールドエミッションランプ,FEL,蛍光体,紫外
3.要素技術(つづき)
3.2 蛍光体(つづき)
3.2.6 蛍光体サスペンジョンの最適化検討
スクリーン印刷法における蛍光体塗布の最適条件を検討する為,蛍光体サスペンジョン中の蛍光体配合量を6~64wt%(スクリーン印刷可能な粘度の下限と上限)までの様々な割合で混合した試料を作製した(表1)。蛍光板の基材には,深紫外域で透明な合成石英板を用いた。
蛍光体サスペンジョン | ||
---|---|---|
ビヒクル(94~36wt%) | 蛍光体(6~64wt%) | |
増粘剤 | 溶媒 | ZnAl₂O₄粉末 |
エチルセルロース | テルピネオール ブチルカルビトールアセテート |
3.2.7 マイクロスコープによる視感評価
作製した試料の蛍光体膜の状態をマイクロスコープで観察した(図6)。
図6 試料表面のマイクロスコープ像(500倍)
3.2.8 フォトルミネッセンス法による発光強度の評価
次に,フォトルミネッセンス法(Photoluminescence, PL)により,蛍光体配合量と発光強度の相関を調べた。励起光源は172nmをピーク波長とするXeエキシマランプを用い,透過光を瞬時分光器により検出し,評価した。結果を図7に示す。評価の結果,蛍光体膜の状態と発光強度に相関関係が認められた。今回の実験では蛍光体サスペンジョン中の蛍光体配合量が40wt%のとき,最も強い発光を示した。
3.2.9 カソードルミネッセンス法による発光強度の評価
PL法にて当たりを付けた試料を真空チャンバー内に導入し,CL法にて蛍光体配合量と発光強度の相関を調べた。測定には重水素ランプにより照度を値付けした瞬時分光器を用い,実際に測定された照度から次の条件に基づき発光部直上の照度を概算した。
- 光源は均一に発光している
- 光源の各点の発光はcos則に従う
- 全光束Φ=Eπ(R²+h²)[W]
このとき,E:測定照度,R:光源半径,h:光源距離とする。
なお,実験中の真空度は2.1×10⁻⁵Pa以下を維持した。測定系を図8に,CL評価結果を図9及び表2に,デバイスの発光の様子を図10に示す。
励起電圧 | ランプ電流 | 消費電力 | 概算管壁照度 |
---|---|---|---|
6.796[kV] | 0.058[mA] | 0.42[W] | 27.8[mW/cm²] |
評価の結果,蛍光体配合量を最適化した試料の概算管壁照度は27.8mW/cm²であった。一般的に殺菌灯としての実用照度は20mW/cm²以上と言われているので,ZnAl₂O₄粉末を用いたFELが殺菌灯として機能する可能性を見出せた。
3.2.10 寿命特性評価
試料の寿命特性を調べるため,CL発光強度の経時変化を測定した。励起電圧は6.8kV,ランプ電流は0.06mA,真空度は2.1×10⁻⁵Paを維持した。サンプル数はn=2とし,サンプル2については,途中で連続点灯を10分間中断し,発光強度への影響を調べた。結果を図11に示す。
連続点灯試験の結果,点灯開始から約10時間で発光強度が5mW/cm²程度まで急激に低下し,その後はやや安定するものの,依然減少傾向であることがわかった。発光強度が低下した試料の点灯を一時中断し,10分後に再び点灯すると,発光強度がある程度回復することから,発光強度低下の原因は蛍光体のチャージアップあるいは温度消光と考えられる。
4.まとめ
環境に配慮した水銀灯代替光源の開発が急務とされ,実用化に向けた多くの試みがなされている。しかし,出力・効率・コストの全てを満足する代替光源は未だ見当たらない。そのような中,安価なアルミン酸亜鉛粉末(ZnAl₂O₄)を用いた深紫外FELを試作し,チャンバー実験ながらも殺菌灯としての実用照度である27.8mW/cm²の出力が得られた。一方で,寿命特性に関しては現行の殺菌灯にはほど遠く,課題の残る結果となった。
深紫外FELの実用化には,材料レベルでの取り組みが必要であり,今後も関連分野の研究・開発が期待される。
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第27号掲載記事に基づいて作成しました。
(2012年12月7日入稿)
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