技術資料
写真測光による等価光幕輝度測定
- 魚眼レンズを用いた等価光幕輝度の算出方法(その2) -
国内営業本部 営業技術部 照明研究課
キーワード
光環境評価,等価光幕輝度,グレア,魚眼レンズ,立体角,射影
3.視線軸変換
本章では,視線軸変換の方法について説明する。3.1節では,視線軸変換の原理について述べる。具体的な計算方法については,3.2節で水平・垂直方向,続く3.3節で任意方向への視線軸変換の方法を述べる。
3.1 視線軸変換の原理
図4に魚眼レンズの入射光と透過光の幾何学的な関係を示す。図中右から光が入射するものとし,入射側は空間座標(グローバル座標系),透過側は受光素子上の平面座標(ローカル座標系)を用いて表す。また,グローバル座標系の原点Oはレンズの焦点位置,ローカル座標系の原点oは受光素子の中央とする。
図に示すように,魚眼レンズへ角度θinで入射した光はレンズの特性にそって屈折し角度θoutで透過し受光素子へ入射する。本報告では,以降図中の記号を用いて各値を表す。レンズへの入射光はinを,レンズからの透過光はoutを下付き添え字として用いる。
図5に視線軸変換の概略を示す。(a)は,撮影画像の光路,(b)は視線軸変換後の光路のイメージを示す。図は,図4のX-Z平面で,水平方向への視線軸変換を行う場合を表す。
(a)のように,単位球上の水平方向にVPinなる新たに画像の中心とする視線軸(以降,新視線軸と記す)を設定する。(b)に示すように新視線軸VPinが画像の中心となるように回転させVP’inとする。回転させた時の任意の点AP’inを求めることで視線軸の変換を行う。
また,回転を行うことで,図中の青扇型部分のように本来の撮影画像と比べると不足する部分や,赤扇型部分のように余分となる部分が生じる。
以下に,視線軸変換の流れを示す。
- 新視線軸と単位球との交点VPinの決定
- 新視線軸と視線軸のなす角θvpinの算出
- 受光素子上の任意の点APoutへ照射する光の単位球上の入射点APinの算出
- APinと視線軸のなす角度θinの算出
- APinの視点変換後の点AP’inの算出
- 視点変換後の鉛直角θ’inから視線軸変換後の照射点AP’outの算出
図6に体育館の撮影画像を示す。(a)は仰角30°方向の撮影画像(図2-(b)),(b)は水平方向の撮影画像(図2-(a))から仰角30°方向へ視線軸変換した画像を示す。
図5-(b)でも示したように,視線軸変換により作成された画像は一部に欠損が存在するが同等の画像が得られることが確認できる。
この画像の欠損が等価光幕輝度値に与える影響について考える。図7に等価光幕輝度への鉛直角の累積寄与率を示す。横軸は,グレア光源と視線軸がなす鉛直角,縦軸は等価光幕輝度への累積寄与率を示す。累積寄与率は,視野内の輝度分布が一様なものとして式(1)をもちいて算出し,等価光幕輝度の累計を,1.5°から90°までの合計を100%として表した。
図より鉛直角の小さい箇所での寄与率が非常に高いことが分かる。累積寄与率は,鉛直角15°までで90%,50°までで99%超となる。つまり,極端な高輝度が存在する場合を除けば,鉛直角1.5°から50°までの輝度分布により等価光幕輝度は決定されると言える。
以上より,撮影に用いられる魚眼レンズの画角が180°の場合,画像中心から40°以内の視線軸変換であれば,画像の欠損が等価光幕輝度に与える影響は微小と考えられる。
よって,視線軸変換を用いたグレア評価は有効と考える。
3.2 視線軸変換方法(水平・垂直方向)
本節では,従来の視線軸から水平または垂直方向への視線軸変換を行う方法について説明する。例として水平方向へ角度θvpinの方向を新視線軸とした場合について述べる。図8に従来の視線軸と新視線軸の画像上の位置関係を示す。
まず,式(3),(4)により撮影画像上の任意の画素(x,y)から受光素子上のローカル座標系の直交座標(xout, yout)を求める。
ここで,Δdはカメラの受光素子一画素当たりの大きさを表す。次に,式(5),(6)を用いて直交座標(xout, yout)をローカル座標系の極座標(r2d,φ2d)で表わす。
次に,この受光素子上の座標へ照射する入射光の単位球上の座標を求める。
入射光と視線軸のなす鉛直角θinは,受光素子中心からの距離rとレンズの焦点距離fを用いて関数g(r, f)で表わされる。関数g(r, f)は,レンズの射影方式によって異なる。式(7)から(11)に射影方式ごとの関係式を示す。写真測光に用いるレンズの種類により以下の式を選択する。
上記で算出されるθinを用いて,入射光の単位球上のグローバル座標系の球座標(rin,θin,φin)を求める。
球座標は,極座標表示の1つで詳細は補足1に示す。
ここでは,単位球上の座標を考えるため動径rinは常に1となる。また,偏角φinは,ローカル座標系の偏角φ2dと等しい。よって,入射光の球座標(rin,θin,φin)は式(12)で表される。
補足1 球座標
以上で,任意の画素(x,y)へ照射する入射光の単位球上の座標が算出された。次に,この入射光の座標(rin,θin,φin)から視線軸変換を行った後の球座標(r’in,θ’in,φ’in)を求める。
いま,新視線軸は従来の視線軸から水平方向へ角度θvpinの位置である。そこで,入射光の座標を水平方向へθvpin回転させる。
まず,回転後の座標を算出しやすいよう入射光の球座標(rin,θin,φin)を,グローバル座標系の直交座標(xin, yin, zin)へ変換する。式(13),(14),(15)に球座標から直交座標への変換式を示す。
式(16)により直交座標(xin, yin, zin)を水平方向へθvpin回転した変換座標(x’in, y’in, z’in)を求める。
ここまでで,視線軸変換を行った後の入射光の単位球上の座標を求めた。この座標から視線軸変換後の画素(x’,y’)を特定する。
変換後の画素の算出は式(3)から式(15)の計算を逆順に解くことで求められる。
式(17)により視線軸変換後の入射光の直交座標(x’in, y’in, z’in)から球座標(r’in, θ’in, φ’in)を求める。入射光は,単位球上の座標とし,r’inは1とする。(式(13),(14),(15)に相当)
ただし,式(17)が適用できるのは下記範囲とする。
次に球座標(r’in, θ’in, φ’in)より,透過光が照射する受光素子上の極座標(r’2d, φ’out)を求める。(式(12)に相当)
ここで,関数g’(θ, f)は,レンズの射影方式によって異なり,焦点距離f,入射光と視線軸のなす鉛直角θと像高rの関係式を表す。関数g’(θ, f)は射影方式ごとの関係式(7)から(11)を像高rについて解くことにより以下となる。
次に,式(27),(28)により極座標(r’2d, φ’out)を直交座標(x’out, y’out)へ変換する。(式(5),(6)に相当)
最後に,式(29),(30)に示すよう受光素子一画素あたりの大きさで除することで画素(x’,y’)を求める。(式(3),(4)に相当)
以上で,撮影画像の任意の画素(x,y)へ照射する光が水平方向への視線軸変換により照射する画素(x’,y’)を算出することができる。
ただし,視線軸変換画像を作成する場合は,変換後の画素(x’,y’)に対応する変換前の画素(x,y)を求める。そのため,ここまで行った計算を逆順に解く必要がある。
また,x座標とy座標を入れ替えて計算を行うことにより垂直方向への視線軸変換を行うことができる。
3.3 視線軸変換方法(任意方向)
図9に画像と新視線軸の位置関係を示す。(a)は任意方向,(b)は(a)の画像を回転させ新視線軸を水平方向とした場合を示す。
(a)のように新視線軸が水平方向でない場合,3.2節で述べた計算方法を用いることができない。そこで,(b)に示すように新視線軸VPoutが水平方向となるよう画像を回転する。こうすることで先に説明した計算方法が適用できる。
ここで,新視線軸VPinと単位球との交点のグローバル座標系の球座標を(rvpin,θvpin,φvpin)とする。
まず,任意の画素(x,y)を-φvpin回転する。回転後の座標(xr, yr)は式(31),(32)のように表される。
算出された画素(xr, yr)を,3.2節の任意の画素(x,y)に代入し計算を行うことで,新視線軸が回転した画像(図9-(b))の視線軸変換の画素(x’r, y’r)が求められる。
最後に,式(33),(34)を用いて座標をφvpin回転することで視線軸変換を行った画像上の画素(x’,y’)が得られる。
以上で,任意方向の視線軸変換を行うことができる。
図10に撮影画像と視線軸変換画像を示す。(a)は撮影画像,(b)は新視線軸を(a)から水平方向へ120°,垂直方向へ30°として視線軸変換を行った画像,(c)は(b)の新視線軸を中心とした撮影画像を示す。
新視線軸が,画像中心から大きく外れているため欠損部分が多いが,(b)の視線軸変換画像と(c)の撮影画像は近似していることが確認できる。
4.まとめ
本報告では,一方向の撮影画像から複数の視線方向のグレア評価を行う方法として,視線軸変換について検討した。その結果,撮影画像に含まれる光の情報を任意の視線方向の画像へ近似できることが確認された。
今後は,視線軸変換による画像の欠損部分を補う方法や変換による画素のつぶれ・拡大がグレア評価に与える影響について検討を行う。
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第26号掲載記事に基づいて作成しました。
(2012年5月25日入稿)
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