技術資料
道路照明の視認性評価に関する研究動向
技術開発室 技術部 技術開発グループ
キーワード
道路照明,ビジビリティ,可視度,視認率,レビーリングパワー
5.可視度(Visibility Level)による視認性の予測評価
障害物の視認性を評価する手法の一つに可視度がある。道路照明の可視度は,ある条件の障害物が路上に存在すると仮定し,その障害物が運転者から視認できるか否かの予測を計算で求めるシミュレーション手法である。可視度は古くから現在までCIE(国際照明委員会)で継続的に審議されてきており,アメリカの道路照明基準では設計要素の一つとして既に採用されている。我が国においても様々な研究が始まっているが,可視度の計算方法に統一性がなく,各研究機関によってまちまちなのが現状だった。そこで(社)照明学会が「道路照明のビジビリティレベルに関する研究調査委員会(2002年終了)」を発足し,可視度の計算方法の統一化3)を行った。以下に可視度の計算方法を紹介する。
5.1 可視度の計算方法
可視度の計算式は式(1)で表され,可視度VLの計算結果が1以上であれば運転者はその地点に存在する障害物を75%の確率で視認できる事を示す。1より小さければ視認できる確率が75%より小さくなるか,視認できないということになる。障害物の条件は前述した20×20cmの正方体で反射率は20%,観測距離は100mである。背景輝度(Lb)は障害物の後方7mの部分輝度とし,障害物の輝度(L0)は障害物の高さ0.1mの鉛直面照度から算出する。輝度差弁別閾(ΔLmin)は図2の曲線から導くことができる。
VL=ΔL/ΔLmin ・・・・式(1)
ΔL=|Lb-L0| ・・・・式(2)
- Lb
- 背景輝度[cd/m²]
- L0
- 障害物の輝度[cd/m²]
- ΔLmin
- 輝度差弁別閾[cd/m²]
5.2 可視度の計算例
従来から普及している道路照明器具であるKSC-4や,最近設置が多く見られるようになったストレートポール形の道路照明器具PAZUを例に,2種類の道路照明器具の可視度を計算した。照明条件を表1と表2に,計算結果を図3と図4に示す。計算結果となる可視度の値は,可視度の分布から1スパン当たりで可視度が1以上と計算された面積の割合で表した。KSC-4の場合(図3)は1スパン当たり71%の範囲で障害物が視認し易く,残り29%の部分で視認しにくいであろうと評価される。PAZUの場合(図4)は74%の範囲で視認が容易で,26%で困難と評価される。このように,可視度を使用することによって,道路照明の視認性,特に障害物が視認しにくいであろう場所を予測評価することができる。
器具 | KSC-4 | 計算条件 |
---|---|---|
ランプ | HF400X | 22000(ℓm) |
設計条件 | 片側2車線 | W=0.7(m) |
オーバーハング | Oh=0(m) | |
取り付け高さ | H=10.0(m) | |
取り付けピッチ | S=35(m) ※3.5H | |
輝度計算結果 | 総合均斉度 | Uo=0.37 |
車線軸均斉度 | Ul=0.74 | |
路面輝度 | Lr=1.18(cd/m²) | |
可視度 | VL≧1の面積率 | 71(%) |
器具 | PAZU | 計算条件 |
---|---|---|
ランプ | NHT180LS | 20000(ℓm) |
設計条件 | 片側2車線 | W=0.7(m) |
オーバーハング | OH=1.0(m) | |
取り付け高さ | H=10.0(m) | |
取り付けピッチ | S=35(m) ※3.5H | |
輝度計算結果 | 総合均斉度 | Uo=0.54 |
車線軸均斉度 | Ul=0.67 | |
路面輝度 | Lr=1.20(cd/m²) | |
可視度 | VL≧1の面積率 | 76(%) |
6.視認率(Revealing Power)による視認性の予測評価
視認性の予測評価方法としては,可視度の他に成定ら4)が研究した視認率による評価がある。視認率による評価は,可視度では評価できていない欠点部分を補うものとして開発されたものである。可視度では基本的に反射率20%の障害物が見える見えないを判断しているに過ぎないが,実際に路上に存在する障害物は反射率の高いものから低いものまで多岐に渡っているのが実態である。また図3,4の可視度分布において2,3,4などの数値に対応する評価カテゴリーがないため,可視度が1以外の値には何の意味もないのが現状である。視認率による評価はこの欠点を補えるように,路面に存在する多種多様な反射率を持つ障害物のうち,どれだけ多くのものが視認できるかを予測し,可視度が1であるポイントだけで評価できるように改良したものである。
6.1 視認率の計算例
視認率の計算方法は基本的には可視度と同じ式(1)で求める。ただしその計算の際に,図1で示した反射率の累積存在確率を用いて,任意の累積存在確率に対する反射率を基準にして可視度が1になる点の分布を求めるものである。
可視度の計算例と同じ表2の条件を用いて,累積存在確率RPを90%に設定し,その視認率を計算した。その計算結果を図5に示す。累積存在確率RPが90%に対応する障害物の反射率は0~20%なので,可視度が1と計算された分布においては,シルエット視であることを条件に反射率0~20%の障害物が全て容易に視認できると評価され,それ以上の高い反射率を持つ障害物は視認しにくいと判断できる。このように視認率による予測評価は,実際の道路事情に合った汎用性の高い評価手法であることがわかる。
7.おわりに
最近の道路照明の視認性評価の動向として,障害物の見え方を予測評価する方法である可視度と視認率を紹介した。道路照明の視認性評価は古くから研究されているが,オーソライズされたものがないのが現状である。本稿では触れなかったが,逆シルエットでの視認性を評価する方法も未だ確立されてはいない。今後とも,道路照明の手法として様々な新しい試みがなされる以上,その動向に対応した視認性評価方法を研究開発していかなければならない。
参考文献
- (社)照明学会:道路照明のビジビリティレベルに関する研究調査報告書(2002).
- 成定康平:道路照明の照明設計と視認性,日本照明委員会大会(2002).
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第7号掲載記事に基づいて作成しました。
(2002年10月31日入稿)
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