創造人×話

ダンスとテクノロジーを融合させた新たな表現の世界を切り拓いていきたい。

藤本 実さんmplusplus株式会社 代表取締役社長兼CEO・Lighting Choreographer

ステージでパフォーマンスをすることに特化した「Robotic Choreographer(ロボティック・コレオグラファー)」もそうした発想の中から生まれたのでしょうか。

Robotic Choreographer [Last Note ( full ver.)

よく最後列からライブを観るのですが、ドームなど大きな会場では100m先の人でも楽しめる演出が必要となってくることを実感します。人間のサイズには限界があるのだから、人間にこだわらずにロボットを使ってもいいのではないか、と思うようになりました。

世界初のパフォーマンス専用ロボット「Robotic Choreographer」は、身長約3mで1秒間に最大5回転できるアームを持ちます。これもIPAの別の公募で採択され、助成金によって実現したプロジェクトの一つで、1年間に5台の試作機を作りデモ機を完成させました。実際には、その3年位前からロボットの機構開発をされている企業と一緒に実験を繰り返していました。

何もないところから新しい何かを生み出すということは、楽しさと同時に大変さもあるのではないでしょうか。

Robotic Choreographer

光るダンスの時もそうでしたが、単にLEDが点滅する衣装を作っているのではなく新しい表現をする手段として捉え、たとえば手が動くときにこちら側から光が流れた方がよいのかなど、細かく考えながらつくっています。
とはいえ動きに対して、どのような光をつけるかという基準がないため、自分でも想像しながらつくるしかなく、何度も映像にしては再生し、全てが完璧に嵌まるまで微調整を繰り返す作業を続けていきます。
普通の振り付けの5倍以上の労力がかかるので大変ですが、だからこそ、やりがいがあるとも言えます。

パフォーマンス専用ロボットについても、つくろうと思ってから実現するまで時間はかかりましたが、出来上がったものを見た時には想像以上で、自分が見たい未来をつくっていくという喜びを感じる瞬間でもありました。

藤本さんの作品の特徴についてお教えください。

Quantified Dancer

高校生の時に初めて生のダンスバトルを見て感動したように、やはり映像ではなく実際に生で見て感動出来るものをつくりたいと考えています。面白いことに、私がやっていたブレイクダンスは他のダンスに比べて、一人ひとりのオリジナリティを追求するスタイルだったので、新しい何かをつくりたいという今の発想に通じるところがあるように思います。見たことのない表現を生み出すためには誰も見たことのない仕組みからつくらなければならないし、そこに面白さを感じています。

会社としては、プログラミング、ハードウェアの回路設計から試作製造、演出、振付、デザイン、音楽、映像、衣装デザインまで個性豊かなスタッフが揃っているので、一貫制作体制によって堅牢なシステムを提供出来ることが私たちの強みです。たとえばドームでのコンサートでも一度音楽と同期すれば、100m以上離れたとしてもダンサー100人単位の無線同期を実現させ、安定して動かせるシステムを構築しています。

LEDを使った光の表現方法も変化してきているのでしょうか。今後の抱負と合わせてお聞かせください。

現代美術家・宮島達男さんの7セグLEDを使用した作品との出会いがきっかけとなって、デジタルの数字で人の動きを構成するQuantified Dancer(クオンティファイドダンサー)というプロジェクトに取り組み、オリジナルのLEDパネルを製作しました。
450個(LEDの数でいうと9,000個)のデジタル数字によって身体が構成されています。このプロジェクトも最初は既存の7セグメントディスプレイではサイズが合わず、2年間程アイデアを寝かせておいた後にLEDパネル自体からつくることで実現しました。

Quantified Dancer

今後も自分にしか出来ない、新しい何かを生み出すことに挑戦し続けたいし、将来的にはストリートダンスとテクノロジーを融合させたライブ舞台をつくりたいと思っています。また、「Robotic Choreographer」の発表用にプロモーションビデオを作り、音楽配信サービスでそのオリジナル楽曲の配信もはじめました。これも今までのモノづくりではあまりやっていない方法だと思います。これからもパフォーマンスに特化したシステムを開発し、新しい表現の形を提案していきたいと考えています。

藤本 実(ふじもと みのる)

神戸大学大学院工学研究科 塚本研究室で研究に従事し、2012年3月博士(工学)を取得。同年より東京工科大学教員となるが1年半で辞職しmplusplus(エム プラス プラス)株式会社を設立。
高校時代よりブレイクダンスを始める。自らがダンサーである特長をいかし、ライブパフォーマンスにおいて新しい表現を可能とするシステムを開発。

主な受賞歴

2010
アジアデジタルアート大賞2010インタラクティブアート部門大賞
2010
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)よりスーパークリエーターとして認定
2010
文化庁メディア芸術祭協賛事業 第16回学生CGコンテスト エンターテインメント賞
2011
NHK教育 デジスタ・ティーンズ「ダンスムービー選手権」優勝
2015
一般社団法人デジタルメディア協会主催 第20回記念AMD Award 江並直美賞(新人賞)

など多数受賞