創造人×話
私にとって金魚は単なるモチーフではなく、自分自身の内面を表現し、人間の本質を追求する言葉だと考えています。
深堀 隆介さん金魚絵師・美術作家
国内はもちろん、ロンドンやニューヨーク、香港、台湾など海外での個展開催も多い深堀さんは、2018年7月から9月まで、公立美術館で初となる本格的な個展を平塚市美術館で開催されました。どのような個展だったのでしょうか。
今回の個展では、初期の立体作品から新作インスタレーション《平成しんちう屋》を含む作品約200点を展示し、期間中にはライブペインティングや講演会、公開制作、また小学生から参加出来るワークショップも行いました。《平成しんちう屋》のしんちう屋とは、江戸時代に上野・不忍池にあったという日本で最初の金魚屋の名前です。当時の活気溢れるしんちう屋に想いを馳せ、私なりのしんちう屋をつくる試みに挑戦しました。おかげさまで期間中、連日多くの方々にご来場いただき感謝しています。平塚市美術館での開催後は愛知県の刈谷市美術館に巡回し、11月4日まで開催しています。
深堀さんの作品は大人だけではなく、小学生くらいのお子さんにも非常に人気が高く、個展会場にはたくさんの子供達の姿がありましたね。
以前は私の作品を見てくださるのは、主に30代以上の方々が多かったのですが、最近になって若い人も増えてきて、今回の展覧会でも、小学生のお子さんが自発的に「行きたい」と言って親と一緒に来たという話を耳にし、とても嬉しく思います。小さな頃からコンピュータやVRの世界に慣れ親しんでいる現代の子供達にとっては、昔からの手法で描いている生の絵が新鮮に感じられるのかも知れません。
どんなに著名な画家の作品であっても、それがレプリカだとわかると感動が半減してしまうように、やはり画家の息遣いが感じられる本物の絵に人々は惹かれるのだと思います。私も透明の樹脂という比較的新しい素材は使用していますが、特に新しいテクノロジーを駆使してつくっているわけではなく、最初から最後まで手作業で絵を描いています。平面であり立体でもある積層絵画をつくるために、金魚を少しずつ描いていくのですが、脳で感じながら自分自身の感覚で微妙にぼかしたりして調整する必要があり、これだけはコンピュータ上の計算では不可能な、人間ならではの感覚が求められる技で、それが私にとっては非常に重要なことだと考えています。今の子供達には、想像する、想いを馳せるという人間にしか出来ない能力を大切にして欲しいと願っています。
海外での個展も控え、ますますお忙しいと思いますが、最後に今後の展望についてお聞かせください。
私はこれまで自分で「金魚絵師」と名乗ったことはなく、メディアでそう呼ばれるうちに、いつの間にかその呼び名が浸透していましたが、今回の平塚市美術館での個展からあえて自らを「金魚絵師」と名乗ることにしました。そう名乗ることで、逆に金魚というかたちに捉われないで、また何か新しいものを生み出せないかと考えています。
ライブペインティングやインスタレーションなどにも力を入れ、表現の幅を広げていきたいと思います。この冬にはニューヨークのギャラリーでの個展も予定していて、なかなか休む暇はありませんが、これからも自分にしか出来ない作品づくりを続けていきますので、世界中の多くの方々に楽しんでいただけたら嬉しいです。
深堀 隆介(ふかほり りゅうすけ)
- 1973
- 愛知県生まれ。幼少期に弥富市の金魚を見て育つ。
- 1995
- 愛知県立芸術大学美術学部デザイン・工芸専攻学科 卒業。
- 1999
- 退職後、制作活動を始める。
- 2000
- 制作に行き詰まりアーティストを辞めようとした時、部屋で7年間粗末に飼っていた一匹の金魚に初めて魅了される。以後この体験を「金魚救い」と呼び、金魚を描きはじめる。
- 2002
- 器の中に樹脂を流し込み、絵具で金魚を描く技法をあみだす。2.5Dペインティング 代表作品“金魚酒”が誕生。
- 2007
- 横浜にアトリエ「金魚養画場」を開設。
横浜美術大学客員教授、弥富市広報大使