創造人×話
色や素材の魅力を引出し効果的に活用することでデザインの可能性を広げていきたいと考えています。
秋山 かおりさんSTUDIO BYCOLOR代表/デザイナー
今回は、東京を拠点に、色や素材の持つ魅力を引き出すアプローチで、家具や日用品など、たくさんの魅力的な作品を発表されているプロダクトデザイナー、秋山かおりさんをご紹介します。国内外の展示会への出展も多く、グッドデザイン賞(日本)、DESIGN PLUS賞(ドイツ)、Design Intelligence Award Top 100(中国)など数々の賞を受賞し、多方面で活躍されている注目のデザイナーです。
木やガラス、紙、新素材など様々な素材を活用し、その背景への理解と共にディテールを追求する姿勢でクリエイティブワークに取り組み、デザイナーとして高い評価を受けていらっしゃる秋山さんは、オフィス家具メーカー勤務を経て、2013年に独立されたと伺いました。やはり幼少時代からものづくりに興味をお持ちだったのでしょうか。
今思うと、何か楽しいことを家族や友達と企画するのが好きな子どもだったように思います。父が様々なゲームやクイズが大好きで家族が集まるといつも真剣に遊びました。週末は山でのキャンプで自然の中にいるのが当たり前で、多くの体験が興味の発端になっていると思います。また小さな頃から絵を描いたり、ものを作ったりすることが好きな子どもでした。アルミホイルで靴を作って妹と一緒に家の中で滑って遊んでみたり、小学校でも学校の新聞やポスターを作ったりしていました。ただ、中学・高校は進学校に進んだのですが、美術の授業がなく、改めて自分がものづくりが好きなことを再認識しました。
父がエンジニアだったこともあり工学の視点からデザインを学べることに魅力を感じ、千葉大学工学部デザイン工学科に進学しました。大学に入ってから家族旅行でニューヨークに行ったのですが、美術がとても好きな母とメトロポリタン美術館やニューヨーク近代美術館などを訪ね、とても刺激を受けたことを覚えています。その頃から建築や家具への興味が増してきたのだと思います。
大学時代のエピソードがありましたらお教えください。
当時の授業はビジネスモデルやコンセプト立案に重きを置いた課題が多く、実際に手を動かすことが少なかったように思います。
もともとは建築に興味があったのですが、家具の世界にも面白さを見出し、自分で椅子を作ってみたくなり、大学4年の時にイギリスまでウィンザーチェアを作りに行きました。
1週間で作ることが出来るコースを見つけて行ってみたら、生徒は私の他は英国のおじさまが2人で少し驚きましたが、とても楽しい経験でした。カンナの使い方も日本とは逆の方向に削るので手が疲れながらも何とか完成させ、日本に持ち帰りました。この頃から、今の仕事で重視している“現場で体感する主義”は培われていたのかもしれません。
大学卒業後に就職されたオフィス家具メーカーではどんなお仕事をされていたのですか。
株式会社イトーキに入社当時は、社内にまだデザイン部署がなかったので商品企画部に配属され、オフィスや病院、空港向け家具など様々な商品開発に携わっていました。その後、新設されたデザイン室に異動となって、女性に配慮したオフィスチェア「cassico(カシコ)」の商品開発から販売戦略までのプロジェクトを担当させていただきました。研究段階から販売まで長い時間がかかりましたが、慶應義塾大学の協力を得て人間工学的な観点から男女の体質や体格の差などを追求し、当時当たり前とされていた機能の見直しや生地などの素材開発、オフィスであまり使用されてこなかった色の提案など全てにこだわった製品をつくることが出来ました。固定概念に捉われないアプローチや伝えることの大切さを学ぶことが出来たこの時の経験は、その後の私のものづくりの原点になっていると思います。
また、人が集うガーデンのような居心地の良さをオフィスに取り入れた「FlowLounge」シリーズは、プロダクトデザイナーとして世界的に活躍されている安積伸氏との協働製品で、英国から拠点を移され現在法政大学の教授でもある安積氏とのご縁で、後に私自身も法政大学デザイン工学部で非常勤講師を務めることになりました。2018年の秋からは母校の千葉大学でも講師をさせていただくことになっています。
秋山さんがデザイナーとして独立されるまでの道のりをお聞かせください。
2012年に10年間勤めたイトーキを退職した後、少し外国に行ってみようと思い、叔父・叔母が在住していたこともあり、オランダ・アムステルダムに行きました。オランダでは日本にいた頃からの知り合いだったSTUDIO Samira Boonのプロダクト・テキスタイルデザインスタジオに席を置かせてもらい、実験的なものづくりに積極的に取り組むダッチデザインの奥深さを目の当たりにすることが出来ました。また、終電間際まで仕事をしていた日本での働き方と比較して、プライベートな時間を大切にする働き方も新鮮に感じました。その後日本に帰国して2013年にデザインスタジオ「STUDIO BYCOLOR」を始め、現在に至ります。