創造人×話

野菜の新しい食べ方を提案することで、日本の農業を元気にするお手伝いをしていきたいと考えています。

柿沢 安耶さん「パティスリー ポタジエ」オーナーパティシエール

今回は、東京・中目黒にあるローカーボ&ベジスイーツ専門店「パティスリー ポタジエ」のオーナーパティシエール、柿沢安耶さんをご紹介します。
世界初の野菜スイーツ専門店を2006年にオープンした柿沢さんは、野菜の新しい食べ方や可能性を提案するパティシエの第一人者として注目を集め続けていらっしゃいます。
また、農業支援活動や講演会、食育セミナー、商品開発など、スイーツに限らず幅広いフィールドで活躍されています。

旬の野菜を使ったヘルシーなポタジエのスイーツ各種。

女の子が将来なりたい職業ランキングで上位に入るほど人気の高いパティシエールとして第一線で活躍されている柿沢さんですが、小さな頃からパティシエールを目指していらしたのですか。

私は子どもの頃から動物好きで、特に可愛い豚が主人公の絵本に影響を受けて豚が大好きになり、将来は豚と暮らせる生活がしたいと思っていました。そして、南仏ではトリュフ探しに豚が活躍することを知って、フランスに興味を持ち始め、黒いダイヤモンドと言われるトリュフについて調べているうちにフランス料理に惹かれ、フランスに行ってみたいと思うようになりました。

大学ではフランス語を勉強しながら料理教室にも通い、飲食店でのアルバイトで貯金をして、2度フランスに短期留学をしました。ところが、実際にフランスで料理を学んでみると、もちろん非常に勉強にはなったのですが動物の下処理をするのがつらく、命をいただく尊さを実感できたものの、もともと動物好きで始めたことなのに何か違う、と考えるようになりました。そこで、デザートのジャンルなら無理なく続けられる上に、人に喜んでいただけるのではないかと興味を強くもつようになりました。フランス料理を学ぶ中でケーキづくりも学んでいたので、帰国後はケーキ店でもアルバイトを始め、パティシエールの道を目指しました。

契約農家から運ばれてくる新鮮な野菜。

豚と暮らすことを夢見ていた女の子が、好きなことを求め続けていく内にお菓子づくりの道へとつながっていったのですね。とても興味深いです。そんな柿沢さんが、世界初の野菜スイーツ専門店「パティスリー ポタジエ」を開くまでのストーリーを少しお聞かせください。

フランス留学中は、毎日フランス料理やケーキ、パンを食べていたせいか帰国後に体調を崩してしまいました。子どもの頃から体が弱く、アトピーや喘息を抱えていたのですが、アレルギー症状も悪化したりして、食べ物が体に与える影響を真剣に考えるようになりました。

そんな時にマクロビオティックという食事法に出会い、その考え方を学ぶ学校にも通って自分でも実践してみたところ、肉・魚・乳製品・卵・砂糖を食べないにもかかわらず、痩せるかと予想していたら体重が増えました。そして風邪もひかなくなり健康な体になっていったのです。マクロビオティックの原点には「身土不二」という考え方があって、これは「人間も自然の一部であり、その土地のものや旬のものを食べることが最も体に良い」という考え方です。私はこの考えに共感し、日本人が昔から食べてきたもの、つまり玄米や野菜を中心に肉や魚を少々食べるという日本古来の食事方法の大切さを実感しました。

今は世界中の様々なものが食べられるようになりましたが、一方では日本人の野菜摂取量は減少傾向にあって1日に必要な350gに届かず、20代、30代の若い人は平均250g位だと言われています。毎日マクロビオティックの食事を意識して食べるのは難しいのですが、レストランで食べられるなら生活に取り入れやすのではないか?そこで新鮮で美味しい野菜の魅力に気づけるような食事を提供できたら、もっと野菜の摂取量も増えるのではないかと考えるようになりました。

オープン以来人気の高い「グリーンショート・トマト」。

2003年に栃木県でオープンされたベジタリアンレストランも「身土不二」の考え方を取り入れたとお聞きしました。

結婚を機に宇都宮市で「オーガニックベジカフェ・イヌイ」をオープンしたのですが、「身土不二」は、地元で栽培された旬のものをその土地で食べるという「地産地消」の考え方にも通じるものがあると思います。有機野菜を栽培している農家がたくさんある栃木県で、野菜の生産者を訪ねる内に、東京で生まれ育った私は畑のことを何も知らないことを改めて実感し、いろいろ教えていただきました。そんなある日、畑の隅に間引きニンジンが山積みになっているのを見て、もったいないからお菓子にしようと思いつきました。間引きニンジンは育てる過程でニンジン同士の間隔をあけて大きく育てるために間引かれたニンジンのことで、小さく、痛みやすいので市場には出せないけれど、葉も食べられるくらい甘くて美味しいのです。丸ごとのニンジンにパイ生地を巻き付け、まるでソーセージパイのような見た目で、食べると甘いお菓子はお客様にとても喜ばれ、楽しくコミュニケーションをとりながら畑の話をすることが出来ました。その時に、お菓子を通して野菜のことを知ってもらえて、棄てられる野菜を活用出来るので農家の方にも喜んでいただけるというプラスの循環が生まれることに気づいた経験が、野菜スイーツづくりの原点となったように思います。