創造人×話

これまでの慣習を見直し、何かを刷新することから新しいデザインのかたちが生まれると考えています。

大野 力さん建築家

今回は、(株)シナト代表の大野力さんをご紹介します。2009年にアメリカの雑誌「I.D.Magazine」で世界の注目新人40人のうちの1人に選ばれ、国内外で多くの賞を受賞するなど、早くからその才能が国際的に評価されていた大野さんは、住宅から大型商業施設まで様々な規模の設計を手がけ、またインスタレーションアート作品を発表されるなど、多岐に渡る活躍で注目を集めている気鋭の建築家です。

多くのプロジェクトを同時に進行し、多忙な日々を送っていらっしゃる大野さんですが、もともと建築家という道を選ばれたのは自然な流れだったのでしょうか。

私は子どもの頃から建築家になりたいと思っていたわけではありませんし、ごく普通の子ども時代を送っていました。ただ、父の仕事の都合で小学校高学年から中学にかけての数年間をアメリカで過ごしたのですが、その時に日本とアメリカの生活スタイルや都市構造の違いを子どもながらに感じたことをきっかけに、何となく街づくり、都市計画というものに興味を持ち始めたように記憶しています。そして大学は金沢大学に進み、都市工学を専攻しました。

大学時代にセルフビルドの店をつくられ、その店が流行って周辺の賑わいづくりに一役買ったという逸話を伺いましたが、どんなお店だったのですか。

大学2年の終わりに、私同様音楽好きの友人達と、金沢市の中心街から少し離れた場所にあったボロボロの長屋を借り、音楽をかけてお酒を出すだけの店をつくりました。その店が思いがけず若い人の間で人気を集め、その辺りはほとんど人が来ないようなエリアだったのですが、徐々に他の店や美容室などが出店し始め、人の流れが変わってきました。

大学で都市に関わる計画、デザインの理論や技術などを学ぶかたわら、この人の流れが変わるという事象をリアルに実感できたことは、とても良い経験になったと思います。面白い点をつくって、そこから街を変えていくという建築の持つ魅力に改めて気づいた体験でした。

大野さんは大学卒業後に上京しフリーランスとして活動を始められ、2004年には(株)シナトを設立されています。最初はどのようなかたちで仕事を始められたのですか。

最初の数年間はフリーランスの立場でプロジェクトベースの仕事をさせていただき、店舗や住宅などの設計を手がけていました。デザインイベントにも積極的に参加し、そこで知り合った方々から声をかけていただくなど、人に恵まれ、徐々に仕事が増えていったので2004年に会社組織にしました。おかげさまで、とても順調なスタートを切ることができたと思います。

新宿駅線路上に広がる約2000m²の広場

2016年春に竣工し、大きな話題を呼んだJR新宿新南エリアの商業施設「NEWoMan(ニュウマン)」の全体環境デザインを担当されるなど、活躍の場がますます広がっていらっしゃる大野さんですが、このプロジェクトについて少しお聞かせください。

「NEWoMan」は、JR新宿駅の新南エリアに誕生した商業施設です。2013年に行われたJR東日本とルミネ2社合同開催による指名コンペで私が提案した案を選んでいただき、新駅舎の改札内外コンコース、広場、そしてそこに直結する商業施設「NEWoMan」の全体環境デザインを担当しました。オープンまでの3年間は毎週行われた定例会議に参加し、各チームの担当者と6~7時間打合せをする日々を送りながら他の案件も進行していたので相当忙しかったですが、非常に密度の濃い充実した数年間でもありました。

専用部の天井が共用通路に越境する

世界でも有数の巨大ターミナル駅である新宿駅の新しい顔として誕生した、このスケールの大きな施設の全体環境デザインを手がけるにあたって、最も重視されたことは何ですか。

駅と「NEWoMan」を含む施設全体が、一つの街としての色合いを持つような一体的な環境づくりを目指し、縦割りで別々に進行しがちな各領域の計画を俯瞰的に捉え、横串を指す役割を意識していました。その意味で、具体的な作法として重視したことの一つに「境界線を曖昧化する空間デザイン」が挙げられます。

例えばNEWoMan部分では、共用通路の天井をショップ内に入り込ませたり、逆にショップの天井を共用通路まで連続させたりと、共用部と各ショップとの境界線をあえてずらすことでリースラインを曖昧にし、開放感と連続性のある空間としています。また各ショップの間にある仕切りの一部をガラスにして、共用通路に面して設置する什器も高さ制限をすることで見通しを良くし、奥に位置するショップへの視認性を高めるなど、綿密にデザインレギュレーションを計画しました。これらは、都市における集団規定のようなもので、直接的に形をつくるデザインではありませんが、今回の計画では非常に重要な「デザイン」でした。

あとは、とかく均質で単調になりやすい共用空間の床や壁、天井に様々な素材や色を用いて、視覚的な情報量の多いショップとの落差を小さくしているのも、境界線を曖昧にすることを目的としたもので、NEWoMan全体を一つの売場として認識していただけるように考えました。

NEWoMan(左)と駅(右)の接続部分