創造人×話
クルマに命を与えるというデザインテーマ「魂動」のもと、様々な想いを込めてクルマの美しさを追求しています。
前田 育男さんマツダ株式会社 常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当
マツダブランドを体現する拠点として販売拠点の店舗改装も進めていらっしゃるとお聞きしました。これもマツダが進めるブランディングの一環なのでしょうか?
クルマのデザインは作品づくりだと考えると、販売店はその作品を入れる器です。たとえば工芸展で作家の作品の見せ方にとても気をつかっているのと同様に、いかにクルマという作品を魅力的に見せるかを大切にしています。ショールームや販売店は「マツダブランドを発信・体験する拠点」という役割を担う場であるとして捉え、そのための器、居心地の良い素敵な空間をつくることはブランディングの一環であると考えています。
クルマをより魅力的に見せる、という意味では照明、光も重視されていらっしゃることと存じます。光についてのお考えをお教えください。
クルマを美しく見せるために照明はとても大事です。特にマツダのクルマは、ターンテーブルで回すとリフレクションがダイナミックに動くことを特長としていますので照明の当て方には細心の注意を払っています。
たとえば展示会場では、円盤型の照明を作って上に吊るし、その光がクルマのボディに映って変化していくようにするなど、様々なトライアルを行っています。
色をどう再現するかということも大切で、太陽光に勝る光はありませんが、屋内空間での展示でも、マツダを象徴するブランドカラーの“ソウルレッド”の色味をできるだけ正確に映し出すことに注力しています。色の粒子をナノ単位にまでこだわった、特別な塗装方法で複数の色を重ねて完成させた深みのある色彩を、忠実に再現するのはなかなか難しく、光を上手にコントロールすることが必要になります。光の使い方、見せ方は重要だと実感しています。
また、クルマのヘッドランプもその機能に加えブランド表現の一つとして捉え、夜間、クルマのカタチが見えなくてもマツダのクルマであると認識していただけるよう、印象的なシグネチャーランプを装着した車種を発売しています。
生き物の瞳をイメージしてデザインしたヘッドランプは新世代マツダの魂動デザインを個性的にアピールしています。クルマと光は密接な関係性を持つと言えそうです。
最後に、デザインをする上で重視されていること、またクルマづくりにかける想いについてお聞かせください。
私はとにかくクルマが大好きで、モータースポーツを長く続けていますが、その気持ちはマツダの社員も皆同じです。
クルマという概念自体はある意味古典的であり、移動手段として考えた時には革新的な方向へ技術は向っていくと思いますが、1900年代に生まれたクルマという愛すべき道具は、その本来の価値を失わず、クルマらしく生き続けていって欲しいと思っています。当然、そのあり方や作られ方は進化していく中、クルマが大好きな我々の想いが継承されていくことを願い、クルマの魅力をこれから先も発信し続けていくことが我々の役割だと思います。
クルマの環境性、安全性を追求し続けるのは、企業として当然。その上で私が一番大事にしていることは「美しさをつくること」です。クルマは環境の中に多く存在するものですから、それが美しいか、美しくないかで日本の風景も変わってしまいます。デザインとして美しいものをつくっていく企業であるために、まだまだやりたいことはたくさんあり、それが私の原動力になっています。
前田 育男(まえだ いくお)
1959年生まれ。1982年3月東洋工業株式会社(現:マツダ株式会社)入社。
横浜デザインスタジオ、カリフォルニアデザインスタジオで先行デザイン開発、フォード社のデトロイトスタジオ駐在を経て、本社デザインスタジオで量産デザイン開発に従事。チーフデザイナーとして、同社が世界で唯一実用化に成功したロータリーエンジンを搭載した「RX-8」や、「2008年ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー」などを受賞した3代目「デミオ」を手がける。
2009年4月、デザイン本部長に就任。デザイン本部長として「CX-5」、「アテンザ」、「アクセラ」などの商品開発、モーターショー、マツダ車販売店デザインの監修など、「魂動デザイン」の具現化、ブランドスタイル構築を牽引する。2015年にマツダブランドの魂とも呼ばれるロータリーエンジンのスポーツコンセプトカー「RX-VISION」を公開。2016年4月より常務執行役員 デザイン・ブランドスタイル担当。
趣味はモータースポーツ。