技術資料
セラルクス®,FECセラルクスエース™の高効率化・長寿命化技術
High-efficacy and long-life technology for ceramic metal halide lamps
研究開発部 光源研究室
キーワード
セラミックメタルハライドランプ,セラルクス®,FECセラルクスエース発光管,省エネルギー,高効率,長寿命
- 注) 本稿は,月刊誌「電気評論」2011年8月号(電気評論社)掲載記事を若干アレンジして寄稿したものである。
1.はじめに
近年,省エネルギーや環境負荷物質の使用制限・禁止といった地球環境保全に対する取り組みが世界的規模で行われている。また,先に発生した東日本大震災により電力問題が大きく取り上げられ,総消費電力量の約15%を占めると言われている照明分野においても,省エネルギー光源の利用は必須ともいえる。
そのような状況の中,現在,LEDが省エネルギー光源の代名詞として非常に注目を集めているが,HIDランプの一つであるセラミックメタルハライドランプ(当社ではセラルクス®)もLEDに決して引けを取らない省エネルギー光源であり,大光量を比較的低価格で得られるなどメリットも多い。従って,セラミックメタルハライドランプの更なる高効率化および長寿命化が照明用光源において渇望される。
本稿では,更なる高性能化への取り組みが続けられているセラミックメタルハライドランプの動向を中心に概観する。
2.ランプ概要および需要動向
2.1 ランプ概要
HIDランプ(High Intensity Discharge Lamps)は高圧水銀ランプ,高圧ナトリウムランプ,メタルハライドランプ等の総称で,高圧金属蒸気中の放電発光を利用した光源である。
1930年代に高圧水銀ランプが実用化されて以来,1960年代には高圧ナトリウムランプや,水銀ランプに金属ハロゲン化物を封入したメタルハライドランプが実用化されてきた。1994年に透光性アルミナセラミックスを発光管の材料に使用したセラミックメタルハライドランプが150W以下の低ワットランプで実用化され1),主に商業施設用照明として使用された。当社も2001年に「セラルクス」150Wの商品化に成功している。その後,高効率,高演色,長寿命を兼ね備えた白色光源として使用用途やニーズに応じ,相関色温度など様々なバリエーションが展開され,工場・体育館などの高天井用照明や道路用照明と幅広く使用されている。また,近年では700Wクラスのランプが商品化される2)など高ワット化も進んでいる。
セラミックメタルハライドランプを使用される点灯装置で分類すると,電子安定器などの専用安定器で点灯する外部始動器タイプと,安価な水銀灯安定器で点灯する始動器内蔵タイプとに分けられる。主に前者は商業施設用照明として使用され,当社では「セラルクス」や「セラルクスTCP」「セラルクスT」などの商品名で販売している。一方,後者は工場や体育館等の高天井用照明および道路用照明に使用され3),当社では「FECセラルクスエース™」「FECセラルクスエースPRO」「FECセラルクスエースEX」の商品名で販売している。
図1に水銀灯安定器にて点灯する「FECセラルクスエースPRO」「FECセラルクスエースEX」の代表的なランプ構造を示す。硬質ガラスからなる外管内に発光管と,ランプを始動点灯させるための始動器としてFECが内蔵されている。
高天井用照明に使用される垂直点灯形の「FECセラルクスエースPRO」では,万一発光管破損が発生しても外管が欠落しないように,発光管の周りに石英製の保護スリーブが設置された3重管構造を採用している。これにより,下面開放器具での使用が可能となっている。また再始動時間15分以内を達成するため,外球内には窒素ガスが所定の圧力で封入されている。窒素ガスの封入によりランプ消灯後の発光管および始動器の早い冷却が可能となる。一方,水平点灯形の「FECセラルクスエースEX」は主に道路用照明として前面ガラス付きの器具で使用されるため,保護スリーブを使用していない。またPROと違ってEXの外球内は真空状態に設定されている。これによって発光管の保温性を増すことが可能となり,保温性の向上がより高い光束を達成している。
2.2 需要動向と今後の予測
図2は我が国における2000年度と2010年度のHIDランプ種類別の出荷数量構成比を示したものである。2000年度は水銀ランプとメタルハライドランプがほぼ同じ割合であったが,2010年度には水銀ランプが減少し,メタルハライドランプが約60%にまで達している。セラミックメタルハライドランプに関していうと,2000年度における割合はHIDランプ全体のわずか1%程度であったが,2010年度は40%を占め,わずか数年で重要な製品に成長したことが分かる。当社でも,HID製品の中でセラルクスの売上比率は30%にもなり現在の主力製品と言える。
一方,最近では様々なメディアでLEDの省エネルギー性能が取り上げられているが,これは白熱電球や蛍光ランプとの比較がほとんどである。効率や価格についてセラミックメタルハライドランプとLEDを比べると,LEDの方が省エネ光源とは一概には断言できない。
図3はセラミックメタルハライドランプを含めた各種照明用白色光源の効率比較で,図中の実線は2012年におけるLED商品の効率予測を示す4)。価格は別として,白熱電球や蛍光ランプはLEDより低い効率のため,すぐにでもLEDに置き換わるといえる。しかし,セラミックメタルハライドランプはLEDより高い効率を有し,電力が大きくなるほどその差は大きくなる。つまり,大きな電力=高い照度が必要な場所に使用する光源として,セラミックメタルハライドランプは将来に亘っても重要な光源と考えられる。
セラミックメタルハライドランプは比較的低価格で大光量を得られるが,LEDは素子自体の温度が上がると光束が低下してしまう。そのため,大光量を得るために出力を高くするとそれに反比例して省エネルギー性能は低下し,コストが非常にかかってしまう。さらに,照明器具や点灯装置など設備一式の交換が必要なLEDに対し,既存設備が使用可能なセラミックメタルハライドランプは初期投資も大幅に抑えることが出来る。
以上を踏まえると,LEDは一般家庭やオフィス,商業施設といった比較的低ワット分野で主に使用され,セラミックメタルハライドランプは高天井の工場照明など,ある程度光量を必要とする高ワット分野といったように,将来,両者は棲み分けされるものと予想される。
3.技術動向
3.1 発光原理
セラミックメタルハライドランプの発光原理は,フィラメントに電流が流れてそれ自身が発光する白熱電球とは異なり,他のHIDランプと同様に電極間のアーク放電によって発光する。発光管の両電極間に高電圧が印加されて絶縁が破られると電極から熱電子が放出されて放電が起こる。アーク放電が開始すると,発光管中心部は5000Kを超える高温プラズマとなり,このプラズマ中では水銀や発光金属が衝突して熱励起により発光する5)。
発光管の中には水銀やアルゴンなど希ガスのほかに発光金属がハロゲン化物として封入されている。発光金属をハロゲン化物の形にして封入する理由は,ハロゲン化物の方が金属単体よりも蒸気圧が高くなるものが多く,強い発光が容易に得られるためである6)。
3.2 高効率化技術
HIDランプの効率とは,ランプ電力1ワット当たりの光束で,単位はルーメン毎ワット(ℓm/W)で表す。また光束とはいわゆる光の量で,放射束をCIE標準分光視感効率と最大視感度とに基づいて評価した量を示す。波長に対する人の明るさ感覚量である分光視感効率と可視広域の放射束とを可視光波長域にわたって積分し,それと最大視感効果度の積で,最大視感効果度は555nmにおいて683ℓm/Wである7)。
Φ=Km∫V(λ)Φe(λ)dλ
- Φ
- 光束
- Km
- 最大視感効果度
- V(λ)
- CIE標準分光視感効率
- Φe(λ)
- 分光放射束
人の目の明るさの感度は555nmをピークとした正規分布に似た形で表され,緑および黄色が高く,逆に赤や紫は低い。
高い光束を得るためには,①放射束全体を高くする ②上記分光視感効率曲線に近づけることが挙げられる。
セラミックメタルハライドランプは白色光源としては最も高い効率を有するランプであり,発光管形状や発光物質の最適化により高効率化を達成してきた。現在FECセラルクスエースPROやEXでは,白色光で平均演色評価数(Ra)は80を有し,130ℓm/W近い効率を持つランプが商品化されている8)。
1) 発光管形状
放射束全体を高くするためには発光管の動作温度を高くして発光物質をより蒸発させる必要がある。透光性アルミナセラミックスは,従来から発光管材料に使用されている石英ガラスより耐熱性や耐食性に優れているため,発光管動作温度を高くすることが可能な材料である。
このような材料の利点を活かし,発光管を小型にして内部温度を高めたり,アルミナセラミックス製の発光管(以下,セラミック発光管と称す)の形状を工夫して熱ロスを軽減するといった手法をとる事により,高効率化を図っている。図4に一般的なセラミック発光管の形状例を示す。
セラミックメタルハライドランプが他社より製品化された最初の形状がシリンドリカル形であり,2001年に商品化した当社セラルクスもこのシリンドリカル形を採用した。本管部と細管部を別々に成形した後に焼結させるシリンドリカル形は焼結時に発生する接合部のクラック防止に接合部を厚くする必要があり,そのため熱ロスが大きく,ランプ効率も90ℓm/W程度であった。
その後,本管部の両端にテーパー部を持たせて発光物質の蒸発を向上させたバルジー形も使用されたが,最近は本管部と細管部を一体物として成形した一体形や,本管部中央で接合する一体形とほぼ同形状の二体形が開発され,現在の主流となりつつある9)。これら形状はシリンドリカル形およびバルジー形の課題であった本管部と細管部接合部の熱ロスが低減され,更なる高効率化が可能となった。
当社ランプにおいても一体形および二体形がほぼ全ての商品に採用され,性能向上に大きく寄与している。
2) 発光物質
セラミックメタルハライドランプを含めた全てのメタルハライドランプは,水銀の他に発光物質として希土類金属ハロゲン化物が使用されている。
安定器種類によるセラミックメタルハライドランプの区分については上述したが,性能の面から区分すると演色性能を重視して主に商業施設等に使用される「高演色タイプ」と,ランプ光束を重視した「高効率タイプ」に大別することができる。これらの区分は主たる発光物質として封入している希土類金属ハロゲン化物の種類によってほぼ決まる。一般的に高演色タイプにはDyやHoが使用され,高効率タイプにはTmが使用されることが多い。希土類金属以外ではNaやTl,Inハロゲン化物が希土類ハロゲン化物と共に使用される3)。
図5に高演色タイプと高効率タイプの分光分布と光学特性を示す。先に述べたように高い光束を得るべくランプの分光分布を分光視感効率曲線に近づけるためには,人の目の明るさの感度が高い緑および黄色成分を増やすことが有効となるため,高効率タイプは500~600nm付近の発光が多い。
しかし,さらなる高効率化のために緑や黄色成分の発光を増やしすぎると,白色とは言いがたい光色となり,演色性は低下する。一般的に効率と演色性はトレードオフの関係があり,オレンジ色の光色である高圧ナトリウムランプは高い効率を有しているが演色性が低いため,国内では広く普及するまでには至らなかった。そのため,高効率性能が求められているといえども,演色性能や白色光抜きには語れない。最近は530~580nm付近で主に発光するCeハロゲン化物やPrハロゲン化物の使用が実現したことで,高効率性能と高演色性能の両立が可能となった。
3.3 長寿命化技術
HIDランプの寿命とは定められた条件で試験点灯した場合に使用可能なランプが50%や70%など,ある割合となる時間をランプの寿命といい,製造業者や販売業者はこれを定格寿命として公表している。
セラミックメタルハライドランプの寿命において,電極物質の飛散やランプ電圧上昇対策など様々な技術もあるが,最も重要かつ基本的な技術は封止部技術といえる。
セラミックメタルハライドランプの開発の歴史は古く,耐熱性や耐ハロゲン性に優れた透光性アルミナセラミックスを発光管材料に使用するといった検討は1960年代から開始されていた。しかし,透光性アルミナセラミックスの封着剤や電気導入体であるNbが高温でハロゲン化物と反応し,発光管が早期にリークする問題があり長年実用化できなかった。この問題を克服した技術こそが封止部技術であり,開発の歴史といっても過言ではない。
セラミックメタルハライドランプの長寿命化を図る上で,アルミナセラミックスと封着剤と電気導入体の熱膨張率の違いによるクラックの抑制や,ハロゲン化物との反応による腐食の防止といった封止部技術は必須条件といえる。図6にセラミック発光管の代表的な封止部構造簡略図を示す。
現在,電気導入体としてアルミナとMoの混合物から成る導電性サーメットを使用することが封止部技術の主流となっている。このサーメット方式は熱膨張率をアルミナセラミックスに近づけるだけでなく,耐ハロゲン性も高いといった特長を兼ね備えている。
また,アルミナセラミックスが耐食性に優れているといえども,発光管動作温度を過度に高めると発光物質と反応して腐食するなど,短寿命となる。そのため,発光管動作温度はある程度高めつつ,発光物質の量や種類の最適化は長寿命化への重要項目の一つといえる。
以上のような技術を用い,実用化当初,9000時間でしかなかった寿命は現在24000時間と大幅に改善されている。
また,上記のような長寿命セラミックメタルハライドランプの特長を最大限に活かすべく,1本のランプ内にセラミック発光管を2本内蔵し,点灯時にはいずれか片方の発光管を使用することでLED同等となる40000時間の長寿命性能を達成した「ツインセラルクス」150W,190Wが製品化され話題となっている10)。(※編集注:現在は50000時間のツインセラルクスも開発されている)
4.今後の課題
以上のように,今後の動向としては,使用用途における細かなニーズの違いはあるものの,省エネルギーへの要求から更なる高効率化と長寿命化に向けた技術開発が中心となることは間違いない。その際,光束維持率も重要な要素になると考えられる。
光束維持率とは規定の条件でランプを点灯した際,寿命までのある時間における初期光束に対する光束の割合をいい,一般的には光束や光束維持率でランプの種類や設置台数を決める。光束維持率の高いランプでは設置台数を少なくすることが出来るなど電力削減が可能なため,光束維持率が高いほど省エネルギー性能が高いといえる。
図7に各HIDランプの光束維持特性を示す。水銀ランプの初期光束は低いが寿命末期の維持率は80%と優れている。一方,石英製メタルハライドランプの初期光束は高いが寿命末期の維持率は50%と低い。これに対し,セラミックメタルハライドランプは効率と光束維持率が高いため,水銀ランプや石英製メタルハライドランプの約半分の電力で十分であり,省エネルギー性能が高いといえる。以上のように今後の長寿命化には時間のみならず,この光束維持率の確保・向上が必要とされる。
また,省エネルギーと同様に関心が高いのは環境負荷物質に対する取り組みといえる。現在,セラミックメタルハライドランプを含むHIDランプには環境負荷物質である水銀や鉛はんだが使用されている。これら環境負荷物質の低減または不使用化への取り組みが今後必要であり,大きな課題でもある。
更なる普及には価格面も課題であろう。我が国では200Wクラス以上のランプにおいて,水銀ランプを含め,水銀灯安定器で点灯可能なランプが主流である。この理由としては水銀灯安定器が他の安定器よりも格段に安価なためと言える。今後,セラミックメタルハライドランプが更に普及するためには価格低減も重要といえる。
5.まとめ
世界的規模で地球環境保全が叫ばれている今,照明分野における省エネルギー製品としてLEDだけでなくセラミックメタルハライドランプへの期待は大きい。今後も研究開発が積極的に行われ,更に高効率化や長寿命化が実現すると考えられる。
当社においても,LED製品が急速に普及しつつある昨今,LEDiocシリーズ(LED照明器具)の拡充を早急に進めて行く必要がある。しかしその一方で,主力製品であるセラルクスの拡販が当社の成長には必要不可欠である。そのため,今回述べた更なる技術改善などを短期間で実現していかなければならない。
参考文献
- Seinen,P.A: Proc. of the 7th Int. Symp. on the Sci&Tech.of Light Source, pp.101-109(1995).
- 川崎ほか:照明学会全国大会講演論文集,p.69(2006).
- 技術情報協会:最先端 照明・光源 技術全集,pp.80-90(2008).
- 日本電球工業会:LED照明の適正使用ガイド,pp.19-23 (2009).
- 照明学会:照明ハンドブック3編,2.3, pp.116-124(2003).
- 照明学会:新・照明教室 光源(改訂版・第2刷),第4章,4.2.3,p.50(2007).
- 照明学会:照明ハンドブック,第2版,p.56(2003).
- 前原,飯田:IWASAKI技報,No.20,pp.19-23(2009).
- K.Watanabe:Proc. of the 11th Int. Symp. on the Sci&Tech.of Light Source, pp.89-98(2007).
- 日本電球工業会報,No.516, p.9(2009).
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第25号掲載記事に基づいて作成しました。
(2011年11月18日入稿)
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