技術資料
セラルクス®発光管内封入添加物の精密分析
研究開発部 光技術基礎研究室
キーワード
セラミックメタルハライドランプ,金属ハロゲン化物,誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES),原子吸光光度計(AA)
1.はじめに
メタルハライドランプは発光管内に様々な金属ハロゲン化物を封入することで,高効率・高輝度といった特長を実現している。発光管の材料には古くから石英ガラスが用いられてきたが,近年,セラミックを用いたセラミックメタルハライドランプが,演色性やランプ効率の向上及び長寿命化が実現したため急速に普及してきている。これら性能が向上した要因は,セラミック発光管と封入した金属ハロゲン化物との反応が少ないため封入する金属ハロゲン化物の種類を多種多様にできた事である。そのため,封入する金属ハロゲン化物の量をコントロールすることはランプ開発や品質管理の上で非常に重要である。本報では,当社のセラミックメタルハライドランプ「セラルクス®」に封入する多種多様なハロゲン化物の精密分析法を確立したので報告する。
2.金属ハロゲン化物精密分析方法
本化学分析の操作手順は,「試料採取」,「分解・溶解(前処理)」,「測定」からなり,「試料採取」時のコンタミネーション対策,「分解・溶解(前処理)」時では試料の分解条件と測定時に影響を及ぼす生成よう素(I₂)対策,及び「測定」時の各種条件について,詳細に検討した結果に基づき,以下の手法を提示する。
2.1 概要
複数の金属よう化物からなる固体材料(以下,ペレットという)を石英ガラス管内に採取する。この石英ガラス管をテフロン※チューブに封入した後,石英ガラス管を破断し,テフロンチューブをカットしてペレットを分解容器に移す。このとき破断した石英ガラス及びカットしたテフロンチューブも分解容器に移す。次いで硝酸を加え加熱溶解した後,塩素水を添加し生成したよう素(I₂)を除去する。この硝酸溶液中の金属量を誘導結合プラズマ(以下,ICPという)発光分光分析装置と原子吸光光度計にて定量する。
※テフロン®はデュポン社の登録商標
2.2 精密分析方法
複数の金属よう化物からなるペレットの各金属量の分析手法を以下に示す。
2.2.1 適応範囲
この手法は,セラミックメタルハライドランプの発光管内添加物である複数の金属よう化物成分の精密定量方法に関するものである。
2.2.2 一般事項
分析方法に共通な一般事項は,JISK0050(化学分析方法通則)及びJISK0116(発光分光分析通則)による。
2.2.3 試薬
- 硝酸(関東化学(株)製 UGR(精密分析用))
- 塩素水(関東化学(株)製 鹿1級 有効塩素0.3%以上)
- 各種標準原液(関東化学(株)製 原子吸光分析用試薬 濃度1000mg/ℓ)
- 水 比抵抗値18.2MΩ・cm以上
2.2.4 器具及び装置
- テフロンチューブ
- アルコールランプ
- シール機
- セラミックハサミ
- 石英ビーカー
- 超音波洗浄機
- テフロン時計皿
- ホットプレート
- 吸引ろ過器
- メンブレンフィルター
- ホールピペット(JISクラスA)
- メスフラスコ(JISクラスA)
- メスシリンダー
- 分注器
2.2.5 試料溶液の調整
2.2.5.1 混合標準溶液の調整
水500mℓ程度注入した1000mℓ全量フラスコにメスシリンダーで硝酸70mℓを加えた後,各測定元素の各標準原液(1000μg/mℓ)をホールピペットで適当量分取し,水で標線まで薄める。
2.2.5.2 試料採取1)
金属よう化物は潮解性を有するものが多いことと,試料採取時のペレット飛散と塵埃等のコンタミネーションを防止するため,その対策手法としての秤量から試料採取までの操作方法を以下に示す。
- 複数の金属よう化物からなるペレットを不活性ガス雰囲気内で秤量後,石英ガラス管内に封止する。(以下,アンプル管という)
- 清浄なテフロンチューブ内にアンプル管を挿入し,両側端部をアルコールランプ炎で炙りシールする。(図1,図2参照)
- テフロンチューブ内のアンプル管の両端部を破断した後,セラミック製ハサミでテフロンチューブを切断し石英ビーカー(100mℓ)に採取する。(図3参照)
2.2.5.3 分解・溶解(前処理)
主な金属ハロゲン化物(よう化物)の化学的性質を表1に示す2), 3)。その多くは水溶性の性質を有しているが,TlI(よう化タリウム)は非水溶性であり,濃硝酸にのみ可溶である。このため,本手法も濃硝酸による分解方法を用いた。
- 2.2.5.2の操作で試料採取した石英ビーカー(100mℓ)にホールピペットで水10mℓを加えて15分間超音波洗浄抽出する。
- この抽出液に,ホールピペットで硝酸10mℓを加え,テフロン時計皿で覆いホットプレート上(100℃)で30分間加熱溶解する。
- 次に,分注器で塩素水0.3mℓを添加し,更にホットプレート上(100℃)で30分間加熱する4)。
本操作は,加熱溶解時に生成したよう素(I₂)を除去するためである(図4参照)。よう素(I₂)が残留した場合は測定時に干渉を起こし,分析精度を大きく左右する。 - 放冷した後,溶解液をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)で吸引ろ過する。
- ろ液を50mℓの全量フラスコに水を用いて移し入れ,水で標線まで薄める。これを測定原液とする。
水への溶解度(g/100g) | 性質 | |
---|---|---|
CeI₃(よう化セリウム) | - | 可溶(水) |
DyI₃(よう化ジスプロシウム) | - | 可溶(水) |
HoI₃(よう化ホルミウム) | - | 可溶(水) |
TmI₃(よう化ツリウム) | - | 可溶(水) |
CaI₂(よう化カルシウム) | 182 (0℃) | 易溶(水) |
LiI(よう化リチウム) | 168.5 (25℃) | 易溶(水) |
NaI(よう化ナトリウム) | 183.8 (25℃) | 易溶(水) |
CsI(よう化セシウム) | 44 (0℃) | 易溶(水) |
TlI(よう化タリウム) | 0.0064 (20℃) | 難溶(温水) 不溶(冷水) 不溶(希硫酸) 不溶(希塩酸) 可溶(濃硝酸) |
図4 塩素水による残留よう素(I₂)の除去
2.2.5.4 測定溶液の調整(標準添加法)
- 分注器を用い,50mℓの全量フラスコ4本に硝酸を段階的(1.55mℓ,1.20mℓ,0.85mℓ,0.50mℓ)に加える。
- 次に,2.2.5.3の操作で作製した測定原液を10mℓずつ加えた後,2.2.5.1混合標準溶液の調整で作製した混合標準溶液を段階的(0mℓ,5mℓ,10mℓ,15mℓ)に添加し水で標線まで薄め,測定溶液とする。
2.2.6 測定
2.2.6.1 発光強度の測定
2.2.5.4で得た溶液の一部をICP発光分析装置のアルゴンプラズマ中に噴霧し,発光強度を測定する。(アルカリ金属以外の金属)
2.2.6.2 吸光度の測定
2.2.5.4で得た溶液の一部を原子吸光光度計の空気‐アセチレンフレーム中に噴霧し,吸光度を測定する。(アルカリ金属)
2.2.7 検量線の作成
2.2.6の操作で得られた発光強度(または吸光度)と2.2.5.1の操作で作製した混合標準溶液を用いて添加した量との関係線を作成し,標準添加法による検量線とする。(図5参照)
2.2.8 計算
2.2.7の方法で作成した標準添加法による検量線から得られた各元素の検出量を求め,次の式によってmol数を算出する。
- M
- よう化物換算したmol数(mol)
- m
- 試料溶液中の各元素の検出量(g)
- A
- 各元素の原子量(g・mol⁻¹)
- S
- よう化物換算係数
<主なよう化物換算係数;S>
TmI₃/Tm=(168.9+126.9×3)/168.9=3.25
CeI₃/Ce=(140.1+126.9×3)/140.1=3.72
TlI/Tl=(204.4+126.9)/204.4=1.62
CaI₂/Ca=(40.08+126.9×2)/40.08=7.33
NaI/Na=(22.99+126.9)/22.99=6.52
参考文献
- 早坂三生:固体材料を分析する方法,および固体材料の分析に用いるサンプル,特願2011-210376号.
- 化学大辞典編集委員会:化学大辞典9(2006).
- 長倉三郎,井口洋夫,江沢洋,岩村秀,佐藤文隆,久保亮五:理化学辞典(第5版)(2006).
- 早坂三生:固体材料を分析する方法,特願2011-211745号.
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