技術資料
紫外線処理と生物処理を併用した難分解性排水の浄化
技術研究所 光応用研究室
光応用部 光応用開発課
キーワード
難分解性排水,浄化,紫外線処理,生物処理,併用
1.はじめに
工場などから排出されている産業排水は,通常は活性汚泥法等の生物処理により浄化されている。しかし,生物処理では分解できない有機物が含有された排水はこれらの方法では浄化できないため,産業廃棄物として処分したり,活性炭に吸着させる等の方法により処理されているが,いずれの方法もランニングコストが高く環境に対する負荷も高いなどの問題がある。また,紫外線と酸化剤とを併用した促進酸化処理(以下紫外線処理と称す)によりこれらの難分解性排水の浄化は可能ではあるが,この方法もランニングコストが高く実用化された例は少ない。
今回,このような難分解性の排水に対して,前工程として紫外線処理を行うことで生物分解性を向上させ,その排水に対して後工程として生物処理を行うことで効率的に浄化できることを確認すると共に,従来の紫外線処理(促進酸化処理)のみで浄化した場合と使用するエネルギー及びコストを比較し,紫外線処理と生物処理との併用処理の有効性について報告する。
2.実験方法
2.1 紫外線処理実験
紫外線処理により,難分解性排水の易分解性化について検討する。本実験に用いた対象水の水質は以下の通りである。
- COD
- 300mg/ℓ 600mg/ℓ 1,200mg/ℓ
- BOD
- 0.5以下
また,紫外線処理条件は下記に記載する。
- 紫外線投入エネルギー
- 0.24~10.3kW-uv(254nm)・h/m³
- 酸化剤(H₂O₂)添加量
- 対象水のTOCに対してモル比で0.3~2
上記条件にてバッチ処理を行った。対象水はCOD濃度の違う3条件で処理を行い,紫外線投入エネルギーは処理時間を変えることで条件を変えた。
2.2 紫外線処理+生物処理併用実験
紫外線処理と生物処理との併用効果について検討する。本実験に用いた対象水の水質は以下の通りである。
- COD
- 1300mg/ℓ
- BOD
- 0.5以下
前工程としての紫外線処理の条件および後工程となる生物処理の条件は下記に記載する。
- 紫外線投入エネルギー
- 試験① 2.8kW-uv・h/m³
試験② 2.0kW-uv・h/m³ - 酸化剤(H₂O₂)添加量
- 対象水のTOCに対してモル比で0.3
- 活性汚泥のMLSS
- 3,500~4,000
- 活性汚泥処理時間
- 15時間
上記条件の実験をバッチ処理にて2回行った。活性汚泥処理に用いた汚泥は,下水処理場の濃縮汚泥を入手しそれを洗浄して用いた。また,紫外線処理を行った水はpHが3程度にまで低下したため,pH調整(pH=7)を行った後に生物処理実験を行った。
3.実験結果および考察
3.1 紫外線処理実験
紫外線処理実験の結果を図1~3に示す。
BODとCODの比は,一般的に微生物学的分解性の難易を示し,生物学的に処理しやすい排水はBOD/COD比が通常1より大きい。1)
実験結果より,難分解性有機物を含む排水に紫外線処理を行うことで,CODが低減されると共にBOD/CODの比が大きくなり,生物分解性が上がることが確認できた。また,両者の傾向は紫外線投入エネルギー量に比例し,紫外線投入エネルギー量を増やすと,CODは一次的に減衰し,BOD/COD比は増大した。
本排水(COD=600mg/ℓの時)を紫外線処理と生物処理との併用で浄化を行う上で,生物処理が適正に行われるために,紫外線処理にてBOD/COD比を1.2程度まで上げる必要があり,図3よりこの時に必要な紫外線投入エネルギー(UV)は,
BOD/COD=1.0294×UV+0.0744
UV=1.09kW-uv・h/m³
となる。
また,本排水(COD=600mg/ℓの時)を紫外線処理(促進酸化処理)のみで浄化しようとした時,図1よりCODを80%除去する場合に必要な紫外線投入エネルギー(UV)は,
ln(Ct/C0)=-0.3829×UV+0.0667
UV=4.38kW-uv・h/m³
となる。
上記試算より,今回検討した紫外線処理と生物処理とを併用した浄化方法は,紫外線処理のみの時に比べて,紫外線処理に係るエネルギーは,
1.09/4.38=0.249
となり,約1/4で済むことが分かった。
3.2 紫外線処理+生物処理併用実験
紫外線処理+生物処理併用実験の結果を図4~6に示す。
紫外線処理実験は2回行ったが,2回ともBOD/COD比が1以上となり,生物処理に適した排水になった。この排水に生物処理を行ったところ,CODとBODが同程度低減されたため,BODとCODが同じ数値ぐらいまで紫外線処理を行い,BOD/CODの比が1以上になるように処理されれば,その後は生物処理にて充分浄化できることが確認できた。
前項にて試算した紫外線投入エネルギー量から,ランニングコストを試算すると,紫外線処理(促進酸化処理)のみで浄化したときのランニングコストを100とすると,汚泥処分費まで含めたランニングコストは17程度となった。
4.まとめ
本研究より,生物学的に分解性の悪い排水に対して,前工程に紫外線処理を,後工程で生物処理を行うことで低コストかつ効率的に浄化できることが分かった。
参考文献
- 桜井ほか:活性汚泥法と維持管理,産業用水調査会(1980).
- 注.本報は2009年9月に開催された第12回日本水環境学会シンポジウムの講演集pp.17-18から転載したものです。
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第21号掲載記事に基づいて作成しました。
(2009年10月6日入稿)
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