技術資料

水処理分野で使用される紫外線照射装置の性能評価

技術研究所 光応用研究室

キーワード

水処理,紫外線照射装置,性能評価,中圧ランプ,化学線量計

1.はじめに

紫外線(UVあるいは紫外放射)を用いた水処理技術は,微生物の殺菌・不活化や有機物の分解技術として使用されており,民間においては数十年前より流水殺菌装置として実際に導入されている。また,公共事業分野においても下水二次処理水の消毒装置としておよそ10年前から下水処理場や農業集落排水処理施設等で使用され,更に,クリプトスポリジウム等の対策として上水向け紫外線照射装置が平成19年3月に厚生労働省より認可され,紫外線照射は水処理分野においては一般的な技術として認知されつつあると言える。

2.技術的背景

ところが,水処理分野で主に使用される流水型の紫外線照射装置の性能評価方法については統一された基準が無いのが現状である。最近,衛生学的に最も厳しい水道分野に初めて紫外線照射装置が導入された。厚生労働省が出した指針の中で,紫外線照射装置の要件を「紫外線照射槽を通過する水量の95%以上に対して紫外線(253.7nm付近)の照射量を常時10mJ/cm²以上確保できるものでなければならない」と定められており,それを受けて(財)水道技術研究センター(以下JWRCと称す)が日本紫外線水処理技術協会の協力のもと,平成20年1月に「紫外線照射装置JWRC技術審査基準(低圧紫外線ランプ編)」をとりまとめ,更に同年8月には「紫外線照射装置JWRC技術審査基準(中圧紫外線ランプ編)」をとりまとめた。

その技術審査基準において紫外線照射装置の性能を評価する方法として生物線量計を用いた実証実験法と,コンピューターによるシミュレーション(熱流体解析(CFD))という方法とが取り入れられた。しかしながら,両者とも設計の基礎となる紫外線照度は化学線量計により求められており,代表的な指標化学物質としてヨウ素酸/ヨウ化カリウムやシュウ酸鉄イオンなどが用いられているが,いずれの方法も低照度での反応であったり紫外線以外の光にも反応する物質であったりと使いにくい面がある。今後大容量に対応した装置を検討していく場合には中圧(高圧)ランプのような高照度な光源を用いる可能性があり,高い照度を精度よく簡単に測定できる物質が求められている。

3.生物線量計

因みに生物線量計とは,紫外線感受性が既知の指標微生物を実際の装置に流し,流入水中の微生物濃度と紫外線が照射された流出水中の微生物濃度との差から紫外線照射量を求める方法であり,求められた紫外線照射量はRED(換算紫外線照射量:Reduction Equivalent UV Dose)値として表記され,紫外線照射装置の平均紫外線量として求められる方法である。流水型の紫外線照射装置の場合,照射槽の中を水が通るわけであるが,照射槽の中には紫外線照度分布が存在し,また通る水にも流れの分布が存在するため,紫外線照射装置を通った水が受ける紫外線照射量は,実際にはその両者の掛け合わせである装置特有の照射量分布というものが存在する。生物線量計を用いた実証実験により得られたRED値とは,それらを全て含んだ平均照射量であるため,紫外線照射量分布を求めることは出来ない。

4.コンピューター・シミュレーション

一方,コンピューターによるシミュレーションは,装置形状の正確なモデリングにより求められる滞留時間分布とランプから出力される紫外線照度を専用ソフトに入力し,コンピューターを用いて紫外線照射量分布を求める方法であるが,あくまで生物線量計や化学線量計などによる実測値との検証が必要であり,正確な基礎データの入手が精度よいシミュレーションを行う上で必要不可欠となる。

さらに上記以外の方法として,微生物大の大きさのマイクロカプセル中にフォトクロミック化合物(※注)を封入し,その物質を水に分散させて装置中に通水させることで,一つ一つの物質が受ける紫外線照射量を測定する方法が提案されているが,測定装置に高価な機器を用いなければならない点と流す物質が確立されていないなど,まだ開発途中の技術である。

  • ※注:光の作用により分子量は変えずに色の異なる化学構造へ可逆的に変化する化合物をいう。

5.まとめ

以上説明したように,紫外線照射装置を適正に評価する上で,照度を精度よく測定することが全ての基礎となるが,高い照度での反応に適した物質を用いた化学線量計というものが現在確立されていない。

そこで,高照度に対応した物質であり,紫外線の吸収が同じ核酸中の塩基の一つであるウリジンに焦点を絞り検討を行った。IWASAKIテクニカルレポート掲載「中圧ランプに対応した化学線量計」はその検討結果についての報告である。

尚,本報文は2008年9月に開催された第11回日本水環境学会シンポジウムにて発表したものである。

この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第20号掲載記事に基づいて作成しました。
(2009年5月29日入稿)


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