技術資料
ウェーブレット解析を用いた目立ち画像生成システム
研究開発本部 技術研究所 照明研究室
東京工業大学 大学院総合理工学研究科 人間環境システム専攻 准教授 中村 芳樹
キーワード
目立ち画像,離散ウェーブレット,輝度分布画像,輝度対比,照明設計
1.研究目的
本研究の目的は,目立ちを喚起させる輝度分布の特徴を,主観評価実験により定量化することである。さらに,本研究では,上記定量化結果に基づいて,輝度分布を目立ち画像に変換するシステムを構築することを目的とした。目立ち画像とは,ある領域を注視した時に感じられる目立ちの程度を,擬似カラーを用いて領域ごとに色づけを施した,カラーマッピング画像の一種である。
2.研究背景
2.1 照明設計と知覚量
照明設計を行なう際には,様々な知覚特性に注意を払う必要がある。例えば視認性,減能グレアなどの視機能に影響する知覚量,加えて明るさ,目立ち,輝き,華やかさ,不安感などの雰囲気に影響する知覚量などである。
2.2 中村らの既往研究
近年,中村らは,輝度分布データに画像処理を加えることにより,上記の知覚量を画像化する技術を発表している1)~6)。中村らにより,明るさ画像,視認性画像,明るさ画像を用いた不快グレアの予測,などが既に報告されている。
中村らは,大まかには以下のような手順で,知覚画像を構築する。まずはじめに,Y-L特性が明らかになっているカメラにて,露出の異なる複数枚の写真を撮影する。次に,写真測光法により,これら複数枚の写真から輝度分布画像を合成する。最後に,対数変換を施した輝度分布画像の各画素に対し,周囲との対比があるかどうかで重み付けを行なう。重み付けは,コントラストプロファイル法と呼ばれる,一種の空間周波数フィルタリングによって実現される。中村らが,通常フィルタリングに用いる関数として,メキシカンハットフィルタ(コントラストプロファイリングに用いる場合はNフィルタと呼ばれる),もしくは離散ウェーブレット関数のsymlet6がある。
現在のところ,コントラスト・プロファイリング法は,可視光入力-知覚メカニズムを良く近似する工学的手法の一つであり,様々なヒューマンスケーリングに応用可能と見られている。
本研究は,輝度分布の解析法については,中村らのコントラスト・プロファイリング法を踏襲して行なった。フィルタリング関数として,離散ウェーブレット関数symlet6を採用した。
2.3 その他の既往研究
橋本らは,色温度と目立ち感情の関係を明らかにした7),8)。また、芦澤らは,照度レベルと色の目立ちの関係を明らかにした9),10)。
しかし,輝度分布データを画像処理することにより,目立ち画像を生成するといった類の研究は,未だ行なわれていない。したがって,本研究は新規性を有する研究といえる。
3.実験
3.1 実験変数
目立ちを決定する要因は様々あると考えられる。輝度対比,ターゲットの大きさ,色度対比,運動状態,記憶などである。
本システムの最初のステップとして,実験変数を以下の2変数に限定し,これらの変数と被験者の評価結果との関係を調べた。
- ターゲットの大きさ
- ターゲットと背景の輝度対比
3.2 被験者
視覚正常かつ健康な,20代~40代の男女20名により行なわれた(うち男性12名。被験者の平均視力±標準偏差=1.1±0.34,含む矯正視力)。
参考文献
- 中村芳樹,江川光徳:均一背景を持つ視対象の明るさ知覚 -輝度の対比を考慮した明るさ知覚に関する研究(その1)-,照学誌,Vol.88-2,pp.77-84(2004).
- 中村芳樹,江川光徳:コントラスト・プロファイルを用いた明るさ知覚の予測 -輝度の対比を考慮した明るさ知覚に関する研究(その2)-,照学誌,Vol.89-5,pp.230-235(2005).
- 中村芳樹:ウェーブレットを用いた輝度画像と明るさ画像の双方向変換 -輝度の対比を考慮した明るさ知覚に関する研究(その3)-,照学誌,Vol.90-2,pp.97-101(2006).
- 橋本健史,中村芳樹:明るさ画像を用いたグレア評価,建築学会学術講演梗概集(D-1),Vol.2006,pp.223-224(2006).
- 島崎航,土屋麻衣,岩本朋子,中村芳樹:コントラスト感度に基づく視認性評価法 -その1 広範囲な輝度値の分布をもつ空間への適用方法-,第41回 照明学会全国大会講演論文集,pp.137-138(2008).
- 土屋麻衣,島崎航,岩本朋子,中村芳樹:コントラスト感度に基づく視認性評価法 -その2 閾値倍率と見やすさ評価の関係-,第41回 照明学会全国大会講演論文集,pp.139-140(2008).
- 橋本健次郎:目立ち感に基づく光源の演色性評価方法,照学誌,Vol.79-11,pp.639-647(1995).
- 橋本健次郎:目立ち指数の実用化式の提案,照学誌,Vol.84-11,pp.843-850(2000).
- 芦澤昌子:色の目立ちの照度レベルによる変化,照学誌,Vol.71-10,pp.612-617(1987).
- 芦澤昌子:色の目立ちの照度レベルによる変化 -実験式の導出-,照学誌,Vol.72-2,pp.79-84(1988).
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