技術資料

紫外線を利用した水環境中に含まれる医薬品の除去効果について(その3)

製造本部 光応用開発部 光プロセス開発課
京都大学大学院 工学研究科 金 一昊

キーワード

PPCPs(=Pharmaceuticals and Personal Care Products:日常で使用している医薬品や化粧品),物理化学的処理,促進酸化処理,下水二次処理水,紫外線,酸化剤,pH,水温,過酸化水素(H₂O₂)

1.研究背景・目的

人や動物の健康のために使用されている日常で使用している医薬品や化粧品(PPCPs=Pharmaceuticals and Personal Care Products)の種類は数千種に至っている。その中でClarithromycinなどの抗生物質やDiclofenacなどの解熱鎮痛剤を含め,数十種の医薬品が数ng/ℓ,数十μg/ℓの濃度で下水処理水や河川水に存在していることが明らかになってきており,それらの除去方法の開発が求められている。

既に紫外線(UV),オゾン(O₃)などを用いる物理化学処理がPPCPsの除去に有効であることは報告されているが1),物質の分解特性についての検討は十分ではない。

そこで本研究では,純水にPPCPsを混合させた試験水を用いて紫外線処理実験を行ない,その除去特性と物質の特性について検討を行なった。本稿は,前報2)3)に続く第3弾の報告である。

2.実験方法

2.1 実験装置及び条件

2.1.1 実験装置

実験に用いた回分式紫外線(UV)処理装置を図1に示す。攪拌装置(トルネードスタンダード(SM‐103))を付け,300rpmで試験水を攪拌させた。試験水は恒温水循環装置で20℃一定にして実験を行なった。

図1 回分式紫外線処理装置

ランプは波長185nm,254nmを出力する低圧水銀ランプ(以下185lampと称す;UV出力10W)と波長254nmの輝線を出力する低圧水銀ランプ(以下254lampと称す;UV出力8W)を用いた。

2.1.2 実験原水及び対象物質

試験水は1ℓのPPCPs原液と21ℓの純水を混合する方法で,最終濃度が約10~100μg/ℓになる様に調整した。今回用いたPPCPsはヨーロッパや日本などでその検出が報告されている医薬品のうち30種類を選択した。その対象医薬品とその用途を表1に示す。

表1 選定医薬品とその用途
No. 物質名 用途
1 Acetaminophen 解熱鎮痛剤
2 Antipyrine 解熱鎮痛剤
3 Carbamazepine 抗てんかん剤
4 Clarithromycin 抗生物質
5 Clenbuterol 気管支拡張剤
6 Crotamiton 鎮痛,消炎剤
7 Cyclophosphamide アルキル化剤
8 Diclofenac 解熱鎮痛剤
9 N,N-diethyl-m-toluamide 防虫剤
10 Disopyramide 不整脈用剤
11 Ethenzamide 解熱鎮痛剤
12 Fenoprofen 解熱鎮痛消炎剤
13 Ifenprodil 鎮暈剤
14 Indomethacin 解熱鎮痛剤
15 Mefenamic acid 解熱鎮痛剤
16 Metoprolol 不整脈用剤
17 Naproxen 解熱鎮痛剤
18 Theophylline 気管支拡張剤
19 Propranolol 不整脈用剤
20 Ceftiofur 抗生物質
21 Chlorotetracycline 抗生物質
22 Oxytetracycline 抗生物質
23 2-Quinoxaline carboxylic acid カルバドックスの代謝物
24 Sulfadimidine 合成抗菌剤
25 Sulfadimethoxine 合成抗菌剤
26 Sulfamethoxazole 合成抗菌剤
27 Sulfamonomethoxine 合成抗菌剤
28 Tetracycline 抗生物質
29 Isopropylantipyrine 解熱鎮痛消炎剤
30 Ketoprofen 鎮痛,消炎剤
2.1.3 過酸化水素(H₂O₂)

紫外線単独処理と比較のために過酸化水素(H₂O₂)を5mg/ℓになるように添加して,促進酸化処理を行なった。

2.2 分析方法

試料は反応槽下部のサンプリング口から採水し,その後直ちに固相抽出-LC/MS/MS法で分析した。1)

参考文献

  1. 金一昊,岩崎達行,田中宏明ほか:紫外線処理による30種類医薬品の除去特性に関する回分実験,第43回環境工学研究論文集,pp.47-56 (2006).
  2. 田久保剛,吉野潔,岩崎達行ほか:IWASAKI技報,No.15,pp.15-18 (2006).
  3. 田久保剛,吉野潔,岩崎達行ほか:IWASAKI技報,No.16,pp.12-16 (2007).

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