技術資料

等価光幕輝度によるトンネル入口照明の調光制御システム

国内営業事業部 営業技術部 中央技術設計センター

キーワード

トンネル入口照明,画像処理,等価光幕輝度,目の順応,累積出現率,省エネルギー

1.はじめに

本研究は,道路トンネルの安全な走行を保障しつつ,トンネル入口照明の省エネルギー化を図ることを目的としている。

昼間,明るい屋外に目が順応している車の運転手が,暗いトンネルに侵入しようとすると,その内部が暗黒に見えてしまう。この現象を「ブラックホール現象1)」という。道路トンネルを安全に走行するには,このブラックホール現象を防止し,トンネル内の障害物等を確実に視認できるような輝度レベルがトンネル内に必要になる。道路照明施設設置基準ではこれらを考慮して,明るい屋外から暗いトンネル内部へとスムーズに移行できるような入口照明(目の順応を考慮した区間)の設置を規定している。

ブラックホール現象防止に必要なトンネル入口境界部の輝度レベルは,人間の目の順応状態によって決まるので,トンネル照明においては,運転手の目の順応状態を把握することが非常に重要である。運転手の目の順応状態は,トンネル坑口の地形,その背景となる部分の輝度分布,季節,天候及び時刻などによって変動する。

これまで,運転手の目の順応状態を予測することが困難であったため,野外輝度と言う概念が採用されてきた。野外輝度は,目の順応状態を代表する輝度として,便宜的にトンネル手前の視距に相当する位置からのトンネル坑口を中心とした20°視野の平均輝度を用いる考えである。しかし,近年,成定ら2)の研究をベースに,等価光幕輝度の概念を導入することによって,かなりの高い精度で目の順応状態を予測することが可能になった。この成果を基に,国際照明委員会(CIE)は,等価光幕輝度に基づいた入口境界部の輝度設定方法を確立している。

一方,トンネル入口照明は,昼間時の明るい屋外に対応するよう高い輝度レベルが設定されるため,照明設備での電気エネルギーの消費もそれに応じて増大する。このようなトンネル照明設備において,安全性を確保しつつ省エネルギーを図るには,運転手の目の順応状態に応じて,きめ細かな調光制御を行なうことが重要になる。

図1.1は,あるトンネル坑口(野外輝度の最大値が4000cd/m²と予測)の野外輝度の値と野外輝度の年間の累積出現頻度の関係を表したグラフである。このグラフによると野外輝度の最大値の出現率は僅か5%であり,残り95%は最大値の60~70%程度であることがわかる3)

図1.1 トンネル坑口における野外輝度の年間累積出現頻度の例
(野外輝度の最大値が4000cd/m²の場合)

しかし,これを基にきめ細かな調光制御を行なったのでは,野外輝度は必ずしも目の順応状態を反映していないので,安全な走行に疑問が残る。現在採られているような,大雑把な照明制御(1/2点灯など)にならざるを得ない。

もし,等価光幕輝度を高い精度で容易に計測することができれば,それに応じたきめ細かな照明制御が可能になり,安全な走行を保障しつつ,トンネル入口照明の省エネルギー化を図ることができる。

ここでは,運転者の目に生ずる等価光幕輝度を,写真測光法(画像データ)を基に算出する方法を確立し,それをトンネル入口区間の調光制御システムに応用する方法を開発したので,その概要を報告する。

2.等価光幕輝度の計測

2.1 等価光幕輝度の概念

2.1.1 Holladayの原理

人間の視野内にグレア源が存在する時,眼に入射した光の一部は,水晶体や角膜などの媒体によって散乱し,次の3つの現象が起こる。

  1. 眼球内に光幕が生じ,対象物の輝度対比が低下する。
  2. 光幕が中心窩を刺激し,順応状態が上昇し,目の感度が低下する。
  3. 瞳孔面積が減少する。

この結果,人間の視覚機能は低下し,知覚閾値は増加する。

Holladayは,眼球内の散乱光による,知覚閾値の増加は,観測者と対象物との間に均一な輝度を有する光幕をかけた時の知覚閾値の増大に置き換えることができるとした(Holladayの原理)。この時の均一な輝度を等価光幕輝度という。

Moon-Spencerらは,この考えを基に視線を軸とした極座標系(鉛直角θ,水平角ø)内の輝度分布をL(θ,ø)とした時の等価光幕輝度は,(1)式により,算出することができるとしている4)

2.1.2 グレアレンズの計測

等価光幕輝度は,輝度計の前面にphoto Resear社のグレアレンズを装着することにより,測定できる5)。グレアレンズは,光軸とθの角度をなす方向の微小光源(輝度L,立体角Δω)からの入射光に対して,(2)式で示される光学特性を持っている。

2.2 画像処理による等価光幕輝度の算出

2.2.1 計算方法

画像処理による等価光幕輝度は,各画素の輝度(L),各画素における画像中心からの鉛直角(θ),及び1画素あたりの立体角(Δω)を基に算出することができる6)。等距離射影方式の魚眼レンズを用いた場合の等価光幕輝度の算出方法を(3)~(6)式に示す。各画素の輝度の値は,写真測光法によって求める。

一方,太陽の様な高輝度は,写真測光法では測定することが困難であるので,以下の方法で求める。

  1. 画素上の太陽の位置情報を基に,理科年表から得た太陽輝度値を用い,太陽光により生じる等価光幕輝度を算出する。
  2. 太陽以外の等価光幕輝度を写真測光法により算出する。
  3. 上記aとbの結果を合算し,画像全体の等価光幕輝度を算出する。

図2.1 画像サイズと中心からの鉛直角θの関係

2.2.2 等価光幕輝度測定結果

画像処理による等価光幕輝度の算出に必要な視野の広さ(画角)の検証を行なった。実験手順は以下の通りである。

  1. デジタルカメラで等価光幕輝度を測定したい環境を,対角画角が異なる複数の画像(180°,64°,24°)で撮影する。
  2. 同一視点から等価光幕輝度を測定する。
  3. 画像処理により算出した等価光幕輝度値と等価光幕輝度計による測定値を比較し,相関関係を調べる。

実験結果を図2.2~2.5に示す。

対角画角が180°(図2.2)と64°(図2.3)の場合において決定係数R²が0.64以上と高い相関があったが,対角画角が,24°(図2.4)の場合には,決定係数R²が0.64以下であった。

この結果より,少なくとも対角画角が64°以上のレンズを使用すれば,実用に共する等価光幕輝度が測定できると考えられる。

一方,太陽が画像内に入り込んでいる場合の等価光幕輝度の計算値と測定値の関係を図2.5に示す。これも決定係数R²が0.64以上と高い相関があり,実用レベルにあると判断することができる。

計算値(cd/m2)と測定値(cd/m2)のグラフ

図2.2 等価光幕輝度の測定値と計算値の関係

計算値(cd/m2)と測定値(cd/m2)のグラフ

図2.3 等価光幕輝度の測定値と計算値の関係

計算値(cd/m2)と測定値(cd/m2)のグラフ

図2.4 等価光幕輝度の測定値と計算値の関係

計算値(cd/m2)と測定値(cd/m2)のグラフ

図2.5 等価光幕輝度の測定値と計算値の関係
(太陽を含む場合)

参考文献

  1. 吉村:トンネル入口照明の設計理論の現状,照学誌,Vol.71, No.3, p.24 (1987).
  2. CIE88 : 2004 2nd edition
  3. 成定:トンネル照明,照学誌,Vol.67, No.5, p.24 (1983).
  4. 猪野原:視覚研究の展望-周辺視野輝度分布と知覚閾値の関係について-,照学誌,Vol.60, No.11, p.38 (1976).
  5. 武内,吉村,猪野原:周辺視野の中心視への影響(3),照明学会全国大会講演予稿集,p.46 (1976).
  6. 岩崎電気株式会社 技術開発室 開発企画G:写真測光を用いた等価光幕輝度の測定,83上期研究テーマ報告書, No.94 (1997).

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