技術資料

超高圧水銀ランプの「ちらつき」抑制波形の検討

光源事業部 光源開発部 回路設計グループ
光源事業部 映像光源部 映像光源技術グループ
東洋大学 工学部 電気電子工学科 佐藤 剛之,五十嵐 雅

キーワード

超高圧水銀ランプ,プロジェクタ,ちらつき,パルス電流

1.はじめに

液晶プロジェクタ等に使用される超高圧水銀ランプは,光の利用効率を高めるためにランプのアーク長を短くすることが要求されている。しかしアーク長を短くすると,電極上におけるアーク発生位置のわずかな変化が,投影面(スクリーン)上での大きな明るさ変化につながり,「ちらつき」が発生しやすくなる。この対策として,ランプ点灯電流波形にパルス状の電流を重畳させる方法が提案されている。1)

本研究では,このパルス電流重畳波形の最適化について検討した。

2.プロジェクタにおける「ちらつき」

2.1 「ちらつき」の原因

図1,図2はプロジェクタ用の120W超高圧水銀ランプの外観と構造を示している。このランプは発光管,リフレクタなどから構成され,ランプ全長は80mm,発光管の外径が10mmであり,電極間の距離は約1mmとなっている。また点灯時の発光管内部の圧力は約150気圧にも達する。発光管から出た光が周囲のリフレクタによって反射され,ランプ前面に投射される構造となっている。

図1 120Wランプ外観

図2 120Wランプ構造

図3は未点灯のランプ電極のX線写真である。このランプを数百~数千時間点灯すると,図4のように電極の形が変形してしまうことがある。発光管中のアークは,とがった場所から発生しやすい傾向があるため,通常は図4の実線矢印のところでアークを形成している。しかしランプの状態によっては,点線の矢印の場所でアークが形成されたり,実線と点線矢印の場所を交互にアークが移動したりする現象が発生する。このわずか0.5mmにも満たないアークの発生場所の変化が,プロジェクタにおいては「ちらつき」となって現れる。

図3 未点灯ランプ電極

図4 消耗した電極

図5 プロジェクタの光学系

プロジェクタは,ランプから照射された光をミラーやレンズなどからなる照明光学系を使って表示素子(液晶など)に導き画像を作り,投射レンズによって画像をスクリーンに投影する。

ここで発光管中のアークが,リフレクタ設計時の想定通りの位置にあれば,発光管から出た光が効率よく照明光学系に入射するが,アークの位置がわずかでもずれると,光線が図5の中で点線で示した経路をたどり,照明光学系に入射する光の量が減り,スクリーン上の照度が低下することになる。

アークの移動量が大きい場合や,移動が頻繁に発生すると,スクリーン上の画面がちらついているように感じられることになる。

2.2 「ちらつき」の対策

図6 「ちらつき」の無い電極

これまで説明してきたような「ちらつき」を発生させないためには,図6に示すように,電極先端部に意図的にアーク(起点又はスポット)が形成されやすい突起を1つだけ作り,その突起をランプの寿命中維持させればよい。そのための方法として,超高圧水銀ランプの点灯に通常用いられる矩形波点灯波形に,パルス状の電流を重畳させることが知られている。

今回,重畳させるパルス電流の位置や方向・幅を変化させることにより,「ちらつき」を抑制するのに最適な電流波形について研究を行った。

参考文献

  1. 特表平10-501919号公報

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