技術資料

交差点における照明要件(その2) - 夜間事故発生交差点の実態 -

技術開発室 技術部 技術開発グループ

キーワード

交差点,交通事故,照明要件,視認性,安全安心

1.はじめに

先の報告1)では,交差点において重大交通事故が多発している傾向を受け,照明による改善を図ることを目的に,交差点に関する交通事故の実態,照明基準,および視認性に着目した既往研究らを紹介し,交通事故の低減を図るための照明要件を(1)~(4)のように推測した。

  1. 車両運転者から,交差点の存在と形状が認知できること
  2. 車両運転者から,横断中の歩行者などの存在や挙動が容易に確認できること
  3. 車両運転者から,横断待機中の横断歩行者の有無が容易に確認できること
  4. 車両運転者および歩行者から,進路変更する車両の挙動が確認できること

第2報では,夜間に事故発生歴のある交差点とその周辺を対象に実施した視環境調査を紹介し,既往研究で得られた知見や上記の推測が適切であったことを報告する。なお,この視環境調査は,警視庁 交通部 交通規制課からの委託業務として実施したものである。

2.交差点施設の実態調査2)3)

2.1 調査方法

夜間に交通事故が発生した交差点を対象に,下記を目的に実態調査を行った。

  1. 道路構造と視環境の実態を把握すること
  2. 事故要因を推測して効果的な照明設備の活用方法を明らかにすること

調査は,平成14年から平成16年の事故データを参考に東京都多摩地区で11箇所の交差点(対向2車線道路の中小規模交差点)を選出し,平成17年10月26日から平成18年2月8日の間に(1)~(3)に示す3項目について実施した。

(1)道路構造

交差点事故対策の手引4)を参考に作成したチェックシート(表1)による調査で,道路構造の把握と,交通事故要因の推測をした。また,視環境を把握するために,照明設備の配置と仕様(光源種類,ランプ電力)を地図上に記録した。主な調査項目を以下に記す。

  • 道路条件:車道幅員・舗装種類・自動車交通量・横断歩道の有無
  • 歩道条件:歩道幅員・舗装種類・歩行者交通量・周辺の光環境・樹木の有無
  • 照明条件:器具の配置パターン・設置高さ・器具種類・光源
(2)車両運転者から見た歩行者の視認性

交差点内で最も暗い横断歩道を対象に,車両運転者からの白い服を着た歩行者と黒い服を着た歩行者の見え方を評価した。

(3)光学測定

横断歩道部と歩道部の明るさを把握するために,水平面照度と鉛直面照度(高さ1.0m)を測定した。また,車両運転者からの視環境を把握するために,直進車両,右折車両,左折車両の各視点から,路面の輝度分布を写真測光法により測定した。

なお,写真測光法とは,カメラを用いて露出条件の異なる画像を数枚撮影し,各画像の階調値を輝度値に変換し,各画像の輝度データを合成して擬似カラー表示する測光法である(図1参照)。

表1 交差点調査チェックシート
チェック項目 チェック欄 備考
道路構造 交差点認知 交差点手前から交差点部が認知できる はい
いいえ
 
交差点流入部の視認性 右折,直進,左折等車線それぞれに適切な視認性が確保されているか。 直進車線からの見通しは十分である(対向右折,歩行者等) はい
いいえ
 
右折車線からの見通しは十分である(対向右折,歩行者等) はい
いいえ
 
左折車線からの見通しは十分である(歩行者等) はい
いいえ
 
その他交差点部の視認性を妨げるものはない はい
いいえ
 
標識等の設置状況 標識等が適切に配置されているか。
混乱を招くような標示はないか。
標示は交差点の交通状況と合致している はい
いいえ
 
標示は運転者から十分認知可能である はい
いいえ
 
標識・標示は消えたり,曲がったりしてはいない はい
いいえ
 
既設の路面標示は過不足なく設置されている はい
いいえ
 
縦断勾配の程度 交差点流入部及び交差点内の縦断勾配。 交差点流入部の縦断勾配は厳しくない はい
いいえ
 
交差点内に極端な縦断勾配はついていない はい
いいえ
 
流入,流出の車線構成 流入部と流出部の車線数に矛盾がないか。 流入車線数と流出車線数はマッチしている はい
いいえ
 
一つの流入車線に対して複数の流出車線はない はい
いいえ
 
横断歩道の位置 横断歩道の設置位置は歩行者導線と合致している はい
いいえ
 
運転者は交差点手前から横断歩道の認知が可能である はい
いいえ
 
歩行者の安全対策 横断防止柵,横断設備は適切に設置されている はい
いいえ
 
自転車の安全対策 自転車横断帯の配置は適切である はい
いいえ
 
交通状況
(夜間)
流入部付近の細街路からの流入 流入部付近に細街路があるか。
また,流入需要はあるか。
流入部付近に細街路はない はい
いいえ
 
細街路からの流入交通量は少ない はい
いいえ
 
細街路は抜け道として利用されているわけではない はい
いいえ
 
右折,左折車による車線閉塞 無理な車線変更の原因。 右折車による車線閉塞はみられない はい
いいえ
 
左折車による車線閉塞はみられない はい
いいえ
 
交通流に影響を与える路上駐車 沿道の駐車需要は少ない はい
いいえ
 
沿道環境 運転者が注意をそらすような看板,施設は存在しない はい
いいえ
 
照明環境 夜間の交差点の視認性 照明は適正に配置されているか。 交差点内の明るさは十分である はい
いいえ
 
交差点内の明るさに問題になるようなムラはない はい
いいえ
 
流入部の横断歩道の明るさは十分である はい
いいえ
 
直進方向の横断歩道の明るさは十分である はい
いいえ
 
右折方向の横断歩道の明るさは十分である はい
いいえ
 
左折方向の横断歩道の明るさは十分である はい
いいえ
 

図1 写真測光法

参考文献

  1. 江湖:交差点における照明要件(その1),IWASAKI技報,No.14,pp.28-32 (2006)
  2. 江湖,石倉,加藤:交差点施設における既設照明の実態と対策,照学全体,pp.99-100 (2006).
  3. 石倉,加藤,江湖:交差点施設における既設照明の実態と対策,土学全体,pp.415-416 (2006).
  4. 交差点事故対策の手引,(社)交通工学研究会 (2002).

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