技術資料

霧環境下における照明シミュレーションソフトの開発(その1)

技術開発室 技術部 技術開発グループ
中央大学 理工学部 牧野 光則,笹田 真也

キーワード

安全,安心,霧,視線誘導灯,照明,シミュレーション

1.はじめに

各種交通機関においては,濃霧や雪等による視界不良の為に大事故を引き起こしたり,事故に絡まない場合でも交通渋滞や通行止めを引き起こし,経済的な損失は計り知れなく,大きな社会問題となっている。

このような背景の下,国土交通省や地方自治体等では,視界不良時の安全性確保のために,霧環境下での対象物の見え方研究,照明灯や視線誘導灯の最適な呈示,照明技術の研究を行い,交通事故削減等の施策に取組んでいる。その設置例を図1及び図2に示す。

しかし,開発された製品の性能評価は,悪天候下の現場での検証となる為,天候に左右され,多くの時間や労力が費やされている。そこで執筆者らは,霧環境下での効果が検証できる照明シミュレーションソフトを開発し,照明手法の検討や器具開発のスピード化を図る事にした。今回は,「その1」と題して開発成果の中間報告を行なう。

図1 視線誘導灯設置例(大分自動車道)

図2 照明灯設置例(大分自動車道)

2.霧関係の実験・研究の現状

当社では,(社)照明学会や(財)高速道路調査会等の社外委員会での霧環境下の実験や研究に参画したり,社内的にも簡易的な施設で霧を発生させ,情報板の霧環境下での見え方の実験を行い,実験的な解析手法・技術を蓄積してきた。

しかし,理論的な手法を使い,霧環境下での障害物や視線誘導灯の見え方についてシミュレーションした実績は無かった。

国の関連機関では,実験的な手法の他に,理論的に解析する手法も試み始めている。その例をいくつか紹介する。

2.1 現場実験による手法(文献1~文献5)

現場実験による手法としては,霧環境下での道路標示板の見え方実験や関越道沼田地区での照明灯による障害物の見え方実験が行われている。いずれの報告においても,文献やデータを集め,理論的に検討し,室内実験で検証し,最終的に現場実験を行なう形が採られている。この方法の問題点は,天候に左右される為,時間と労力が掛かり,しかも実測で得たデータを活用する事が難しい事である。

2.2 理論的解析による手法(文献6~文献10)

理論面からの解析としては,Mie散乱用語1方程式によって求めた散乱特性とモンテカルロ法による散乱光の空間分布を解析するシミュレーションを作成し,飛行場での灯火の見え方の解析や,電光文字表示板の見え方の解析などが試みられている。

2.3 大学・研究所等の研究(文献11~文献16)

現在使われている市販のCGソフトでの霧の表現は,遠方の物体の色彩を褪せたものにして灰色に近づけ,それによって遠近感をつける手法を用いており,実際の霧の濃淡による遠近感とは違っている。そこで大学の研究室では,光源や太陽から出た光が,空気分子,エアロゾル,水分子による光の散乱,吸収,屈折などを考慮した光学モデルを作成,自然現象のメカニズムを研究したり,霧のように透明度のある現象や物体を表現する手法が研究されており,より実際の霧による遠近感に近いものとなっている。また実際の霧の特性や基礎データの測定などが行われている。

[補足資料]用語解説
用語1:Mie(ミー)散乱
入射してくる電磁波の波長とそれを散乱させる粒子の半径が同じ大きさである場合の散乱。この散乱は,あまり波長に依存しない。空気が汚れた日には空が白っぽく見えるし,晴れた日に青空を背景にして,積雲や入道雲は白く見える。これは,太陽光線が大気中のエアロゾルや雲粒によってミー散乱され,散乱光は入射した太陽光と同じように白色光に近いからである。

参考文献

  1. 藤井,他:天然霧中における照明実験,照明学会誌,vol.49-9,pp.4-14(1965).
  2. (社)照明学会:道路情報表示装置の霧の中の見え方に関する調査県境研究報告書,昭和52(1977)年3月.
  3. 高速道路技術センター:関越自動車道 沼田地区霧に対する照明設備等の効果検討報告書,平成2(1990)年3月.
  4. 高速道路技術センター:関越自動車道 沼田地区霧に対する照明設備等の効果検討報告書その2,平成3(1991)年3月.
  5. 北海道開発土木研究所:反射型道路付属物の視認性の主観的評価に及ぼす時間帯及び霧発生条件の影響,2005年4月.
  6. 椎名,他:Mie散乱領域における霧粒子内外でのコヒーレント光散乱の理論的解析とレーザ送信ビームの霧モデルによる散乱光強度分布の解析,照明学会誌,vol.82-2,pp.97-104(1998).
  7. 青木,他:大気中の微粒子を考慮したモンテカルロ法による散乱光の空間分布解析,照明学会誌,vol.77-2,pp.83-89(1993).
  8. 青木,他:大気中の微粒子による散乱光を考慮した灯火システムのコンピュータグラフィックス(その1),照明学会誌,vol.79-2,pp.81-88(1995).
  9. 青木,他:大気中の微粒子による散乱光を考慮した灯火システムのコンピュータグラフィックス(その2),照明学会誌,vol.79-2,pp.89-96(1995).
  10. 運輸省交通安全公害研究所:大気中の微粒子を考慮した灯火システムのCG画像シミュレーション,1994年11月.
  11. 青木,他:霧中における電光文字のCG化と可読性の解析,交通システム研究所,2004年2月.
  12. 牧野,他:霧のシミュレーションとボリュームレンダリングによる可視化,中央大学,1998年2月.
  13. 西田,他:自然物・自然現象の可視化,東京大学,2000年3月.
  14. 吉山,他:大気中に浮遊する微粒子の測定,産業技術総合研究所,1995年2月.
  15. 藤吉,他:北海道太平洋岸に発生する霧の観測研究,北海道大学,2001年3月.
  16. 宮田,他:盆地における局地環境と霧発生との関連,広島女子,2000年3月.

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