技術資料

昼間用LED視線誘導灯の所要光度と設置方法に関する研究

技術開発室 技術部 技術開発グループ
情報機器事業部 事業推進部
国内営業本部 営業技術部 LCS

キーワード

視線誘導,LED,視認性,安全,安心

1.はじめに

自動車交通において,安全・円滑な走行を目的に視線誘導標が設置されている。視線誘導標はこれまで夜間の走行支援のために設置されていたが,近年の交通事故の増加にともない,昼間においても走行支援ができる視線誘導標が求められるようになった。特に求められているのは,危険とされる山間部のコーナー,アンダーパス,高架部などにおいて,運転者に注意喚起を促すことができる機能である。

視線誘導標にはその種類として,表面に塗布された反射材が自動車の前照灯に反応して発光しているように見せる「反射式」と,光源が埋め込まれている「自発光式」の2種がある。反射式は電力が不要なことなどから,コスト面で有利となり古くから普及しているが,夜間の発光量が不足したり,昼間で機能しないという問題がある。一方,自発光式はコストがかかるものの,反射式に比べて見え方が良いというメリットがある。

昼間に注意喚起を行うには,反射式ではなく光源による自発光式であることが条件だが,それだけではなく光源として非常に強い光度が必要であること,メンテナンス面で長寿命であること,設置場所の関係でコンパクトであることも同時に求められる。

これに適した光源としてLEDが挙げられる。LEDは強い指向性,コンパクト,長寿命が特徴であり,指摘されていた効率面も,最近ではかなり向上している。

このことを背景として,LEDを利用した昼間用の視線誘導灯が普及しつつある。しかし,LED視線誘導灯については,採用が始まったばかりで,反射式を対象とした視線誘導標設置基準・同解説1)のような規定が示されていない。特に所要光度や設置方法に関する基準がないばかりでなく,既往研究においても,そのような知見を明らかにしたものも少ないようである。

所要光度の研究では,満田ら2)が昼間時に霧が発生した場合の見え方について印象評価実験を実施した結果を報告している。これは設定照度が低い場合における視認性を評価したもので,印象評価方法のカテゴリも見えるか否かを聞いており,注意喚起とは異なっている

そこで,本研究では主に山間部を例に,周囲の明るさを昼間に十分な照度に設定し,注意喚起の印象評価のカテゴリを用いた上で,LED視線誘導灯の所要光度や設置方法(取付間隔と取付高さ)を求めるための実験を実施した。所要光度は試作機を用いた昼間の実フィールドで,設置方法はバーチャルリアリティシステムを用いた印象評価実験を実施したので,その結果を報告する。

2.所要光度についての実験

LED視線誘導灯を視認するための所要光度は,満田らが昼間時に霧が発生した場合の実験結果を報告している。しかし,霧中を想定しているため,その設定照度は水平面照度で2500ℓxであり,晴天時の水平面照度である10万ℓxに比べると1/40程度でしかない。また,実験で用いた被験者の評価尺度も表1に示すように「かろうじて見える~適切~まぶしい」となっている。昼間の注意喚起のための所要光度は,周囲が最も明るい晴天時に「目立つ」ものでなければならない。

そこで本実験では,評価尺度を表2のように設定し,晴天時の昼間の明るさ約10万ℓxで,LED視線誘導灯の印象を評価し,「目立つ」ための所要光度を推定することにした。

表1 満田らの評価尺度
距離尺度 評価カテゴリ
Th 辛うじて見える明るさ
Min 実用上最低の明るさ
Op 適切な明るさ
Max 実用上最高の明るさ
G まぶしさを感じはじめる明るさ
表2 本実験での評価尺度
距離尺度 評価カテゴリ
7 非常に目立つがまぶしい
6 非常に目立つ
5 目立つ
4 やや目立つ
3 見えるが目立つほどではない
2 かろうじて見える
1 見えない

2.1 目的

晴天時約10万ℓxの実フィールドにおいて,LED視線誘導灯の試作器を用いて主観評価を実施し,以下のことを明らかにする。

  1. 注意喚起に必要な「目立つ」ためのLEDの所要光度
  2. LEDの視覚サイズ(見かけの面積)と目立つ程度の関係

2.2 実験期間と場所

日時
2004年6月3日(木)10:00~12:00
実験場所
岩崎電気 茨城製作所・実験道路

2.3 実験条件

フィールドの実験条件(表3)は,晴天時として水平面照度約10万ℓxを中心に,8~12万ℓxとし,発光面の方向は最も見難くなる南向きとした。発光面の大きさは視覚サイズと目立ちの関係を求めるために,実用レベルの範囲で4種類用いた。所要光度は予備実験を基に,7段階の調光を行えるようにした。またLEDの光色は,最も効率が高く,かつ普及している橙色を用いた。被験者が発光面を観測する距離は,道路構造令3)で示されている設計速度60km/hでの視距75mと70km/h相当の100mとした。実験に用いたLEDの発光面の点灯パターンを表4に,その時の点灯状況を図1~図4に,また,被験者から見た発光面の視覚サイズを表5に示す。

表3 実験条件
項目 方法・条件
周囲の明るさ 昼間晴天時,水平面照度8~12万ℓx
方位 南向き(LEDを南側に向けた)
点灯パターン(4パターン) 1×2,2×2,3×3,4×4ユニット
観測距離(2パターン) 75m/100m
LEDの種類 反射形LED(広角配光,橙色)
LEDの調光 4~7段階
LED取付高さ 1.2m
被験者 18名(イスに着席6名ずつ)
背景 グレー紙を貼り付け,一様な輝度分布
背景輝度2000~3000cd/m²
鉛直面照度3~4万ℓx
視標提示方法 ランダム
表4 点灯パターンと調光光度(単位:光度cd)
ユニット 調光段階

1 2 3 4 5 6 7
1×2 100 150 300 500 - - -
2×2 100 150 300 500 700 1000 -
3×3 100 150 300 500 700 1000 1500
4×4 100 150 300 500 700 1000 1500
表5 距離と視覚サイズ

75m 100m
1×2ユニット 3分 2分
2×2ユニット 5分 3分
3×3ユニット 7分 5分
4×4ユニット 9分 7分

図1 1×2ユニット(5×10cm)

図2 2×2ユニット(10×10cm)

図3 3×3ユニット(15×15cm)

図4 4×4ユニット(20×20cm)


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