技術資料
諸工業などにおける紫外線技術の導入動向
光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課
キーワード
紫外線技術,水処理,微生物,殺菌,不活化,有機物,分解
1.はじめに
紫外線(UVあるいは紫外放射)を用いた水処理技術は,微生物の殺菌・不活化や有機物の分解技術として使用されている。
紫外線によるこれらの技術は,波長253.7nm及び184.9nmによる作用であり,微生物の殺菌・不活化技術は前者の波長を利用し,有機物の分解は後者の波長もしくは前者の波長と酸化剤との併用技術を利用したものである。
現在,紫外線による殺菌・不活化技術は下水二次処理水の消毒のために用いられている。
この紫外線消毒技術については,塩素消毒に対して,安全で環境に優しい技術として位置付けられており,農業集落排水処理などの消毒のためにも使用されている。
これらの紫外線技術は民間では数十年前より実際に使用されているが,どの分野にどのような目的で導入されているかは今まで不明であった。
今回,紫外線装置メーカー各社の協力を仰ぎ,諸工業における紫外線技術の導入動向を調査し,まとめたので報告する。
2.紫外線技術について
2.1 紫外線発生源
紫外線を工業的に用いるうえで一般的に低圧水銀ランプを使用する場合が多い。
低圧水銀ランプとは,ランプ管材に石英管を用いランプ管内に水銀と不活性ガス(アルゴンガスなど)を封入し,水銀に電子を衝突させることで発生する原子発光により紫外線(波長184.9nm及び253.7nm)を発光させるもので(図1),使用するランプ管材により波長184.9nmの紫外線の発光を強くしたUV酸化用ランプ(微量有機物分解用ランプ)や殺菌ランプ(波長184.9nmの紫外線をカットしたランプ)などが製造されている。
またその他の紫外線光源としては,高圧水銀ランプやキセノンランプなどがある。
2.2 微生物に対する殺菌・不活化効果1)
紫外線による微生物の殺菌・不活化効果については,遺伝子の核酸すなわちDNAもしくはRNAに紫外線が作用することで効果が発揮される。
DNAとRNAは5種類の塩基(アデニン-A,シトシン-C,グアニン-G,チミン-T,ウラシル-U)から構成されており,これらの塩基は紫外線に対して高い光吸収スペクトルを持つ(図2)。
紫外線(波長253.7nm)がこれらの塩基に照射されるとチミン-チミン,チミン-シトシン,シトシン-シトシン,ウラシル-ウラシルなどの二量体が形成され,核酸がその複製能を失う。
その結果微生物が増殖できなくなり死滅に至るとされている。
2.3 紫外線による有機物分解
2.3.1 光(紫外線)のエネルギー
ある物質が光を吸収すると電子的に励起された状態(励起状態)が作り出される。
この励起状態は一番低い程度の励起状態でさえも基底状態とは大きな差があり,100℃の温度でもその様な励起状態はほとんど存在しえないと考えられる。
この場合の励起状態の寿命は非常に短いが,化学変化を起こすには十分な時間である。
紫外線による有機物の分解はこの作用による効果を利用している。
また,光は波となって伝わるためこの現象を放射と呼び,光のエネルギーも放射エネルギー(E)としてアインシュタインの式(1)にて表される。
E=hν ・・・・・・(1)
- h
- プランク定数
h=6.624×10⁻²⁷(erg・秒) - ν
- 光の振動数(回/秒)
この放射エネルギーは振動数ν(1/秒)に比例するきわめて微量なエネルギーを単位としてその整数倍で変化する。
光のエネルギーを光量子とし波長λ(Å)の時の光量子1モル当たりのエネルギーを求めると式(2)にて表される。
E=2.90×10⁵×(1/λ) ・・・・・・(2)
この式より波長184.9nm及び253.7nmの紫外線のエネルギーは,
波長184.9nmの場合:
E₁₈₅=2.90×10⁵×(1/2537)
=113kcal・mol⁻¹波長253.7nmの場合:
E₂₅₄=2.90×10⁵×(1/2537)
=113kcal・mol⁻¹
である。
2.3.2 有機物の分解について
紫外線による有機物の分解は,
- 超純水製造システムにて用いられている微量な有機物の分解
- 排水処理にて用いられている有機物の分解
があり,前者は主に波長184.9nmの紫外線を用いた処理で,紫外線を水に直接照射することでヒドロキシラジカル(OH)を発生(式3)3)させ,有機物を分解させる方法である。
UV(184.9nm)
↓
H₂O → ・H+OH(X²Π)・・・・・・(3)
また,後者は波長253.7nmの紫外線と酸化剤(オゾン,過酸化水素など)との反応により発生(式4,5)4)するヒドロキシラジカルにより有機物を分解する方法である。
UV(253.7nm)
↓
O₃+H₂O → H₂O₂⁺+O₂⁻・・・・(4)
UV(253.7nm)
↓
H₂O₂ → 2OH ・・・・・・(5)
発生したヒドロキシラジカルはフッ素に次ぐ酸化還元電位(表1)を有し,非常に反応性が高い。
このヒドロキシラジカルを用いて有機物を酸化分解させる技術(UV 酸化処理と呼ばれている)は近年では促進酸化処理(AOP:Advanced Oxidation Process)と呼ばれ,有機物の酸化分解方法の一つとして注目を集めている。
反応式(25℃) | 電位(V) |
---|---|
F₂(g)+2e⁻=2F⁻ | 2.87 |
OH(aq)+H⁺+e⁻=H₂O | 2.38 |
O₃+2H⁺+2e⁻=O₂+H₂O | 2.08 |
H₂O₂(aq)+2H⁺+2e⁻=2H₂O | 1.76 |
MnO₄⁻+4H⁺+3e⁻= MnO₂+2H₂O | 1.70 |
2HClO(aq)+2H⁺+2e⁻=Cl₂(g)+2H₂O | 1.63 |
Cl₂(aq)+2e⁻=2Cl⁻ | 1.40 |
O₂+4H⁺+4e⁻=2H₂O | 1.23 |
Br₂(aq)+2e⁻=2Br⁻ | 1.09 |
I₂(s)+2e⁻=2I⁻ | 0.54 |
g:気体,aq:水溶液,s:固体
(化学便覧基礎編改訂4版より抜粋)
参考文献
- 大垣眞一郎:紫外線照射による消毒技術の基礎概念,造水技術,Vol.15,No.1,pp.33-39(1989).
- 金子光美:水の消毒,p.230,(財)日本環境整備教育センター(1997).
- Okabe, H.:Photochemistry of small molecules,p.202,John Wiley & Sons,Inc.(1978)
- 宗宮,他:新版オゾン利用の新技術,p.83,三琇書房(1993)
関連情報
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