技術資料
スマートフォンを利用した照明制御システム
IoT・新規事業推進室
キーワード
IoT,照明制御,クラウド,フルカラー,SNS,LINE
「リンクコア」のご案内
スマートフォンなどのIoTデバイスから操作し、インターネットを経由して照明を制御する照明コントローラ「リンクコア」の詳細は以下よりご覧いただけます。
- IoT照明制御システム Link-Core(リンクコア)
1.はじめに
近年,「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」,各種補助金の実施などさまざまな要因により,ほとんどの照明がLEDに置き換えられてきている。2017年度の照明器具の製造台数では,90%以上がLED灯具と報告されている1)。
照明がLEDに置き換わったことにより,これまでは難しかった色温度調光,フルカラー調色などの細かな照明制御が可能となった。そのため,照明制御システムのニーズが高まりつつある。快適な光環境の構築や,エンターテインメント性の高いカラー制御,個別制御による省エネを実現するためには,照明制御システムは必要不可欠である。
さまざまな施設で,昼光を利用した調光制御,在席検知による点滅制御,作業者へ居心地のよい環境を提供するため,時刻や環境に合わせた色温度調光制御などが行われている2)。
時刻に合わせた色温度調光などは,同室内の照明を一斉に制御すればよいが,昼光を利用した調光制御や,在席検知による点滅の制御などは,個別に照明を制御する必要がある。すなわち,個々の照明器具に制御信号線を接続する必要があるため,新規に制御信号線を配線する場合,作業には手間がかかる。
照明制御に無線通信を用いた照明制御システムでは,新規配線の手間がなく,容易に新たな照明制御システムを導入することができる。そこで今回,無線通信としてWi-Fiを用いた照明制御システムの試作を行った。
本稿では,試作した照明制御システムの機能と運用イメージについて報告する。
2.システム構成・概要
本システムでは,スマートフォンによる照明制御に加え,スマートフォンを利用した「在席検知」「所在管理」機能の検討を行った。2章では,システムの構成と概要を説明し,3章で各機能の詳細を説明する。
図1に照明制御システムの構成を示す。
本システムは,照明操作情報を発信する「入力端末」,入力された照明操作情報の保存や情報に応じて照明制御の処理を決定する「クラウドサーバ」,処理結果を受けて照明制御,情報の表示を行う「出力端末」の3つから構成される。
照明を操作するための入力端末は,「スマートフォン」と「制御用無線ルータ」の2種類である。
「スマートフォン」では,SNSを通じて照明の制御を行う。SNS上のインターフェースを操作することで,照明のON/OFFを行ったり,色を変化させたりすることができる。
「制御用無線ルータ」は,スマートフォンの接続状況に応じて照明を制御する。スマートフォンが制御用無線ルータに接続された場合,照明を点灯し,接続がなくなれば照明を消灯する。
クラウドサーバは,入力されたトリガー情報を受けて照明制御の判断を行う処理サーバと,入力端末や入力端末に関連付けされた照明器具を記録するデータベースからなる。入力情報とデータベースを照合して制御信号を出力端末に送信する。
出力端末は「調光モジュール」と「所在管理ウェブページ」の2種類である。
「調光モジュール」は調光信号を照明器具へ出力する。調光信号は,フルカラー照明器具(RGBW)を制御できるようPWM信号の4系統出力とした。照明器具に応じて,調光,色温度調光,フルカラー調色の制御が行える。
「所在管理ウェブページ」は,登録されたスマートフォンがどこにあるかを確認できる。
3.システム実施イメージ
図2に試作したシステムを示す。(a)は操作用アプリのインターフェースの一例,(b)は制御用無線ルータ,(c)は調光モジュール,(d)は所在管理データを示す。
操作用アプリは,APIを利用しSNSアプリ上に実装した。また,調光モジュールは,既存の照明器具も制御できるよう外付けとした。制御用無線ルータは,有線LANでインターネットに接続し,Wi-Fiアクセスポイントとして動作する。
以降,実施イメージを示しながら試作システムの機能を説明する。3.1節では,スマートフォンを用いた照明制御,3.2節では,制御用アクセスポイントを用いた在席検知による自動制御の機能について述べる。
3.1 スマートフォンによる制御
図3にスマートフォンを用いた照明制御のイメージを示す。図は家庭用の照明を制御する例で,リビングに設置されたダウンライトやスポットライトなどをスマートフォンから操作する。
本システムでは,SNSの特定アカウントへスマートフォンからメッセージを送ることで照明制御を行う。今回,SNSは「LINE」とし,ビジネス向けの「LINE@」を利用した。
照明操作のインターフェースとして,LINEを利用することで,すでにLINEを利用している場合,新たにアプリケーションをインストールする必要がなく,操作用のアカウントを登録するだけで,容易に本システムを利用することができる。
図4にLINE上のアプリ操作の流れを示す。画面下部に表示されるメインメニューから各種操作を行う。
「メインメニュー」には,グループ操作,設定を呼び出すためのボタンが配置されている。「灯具設定」では,調光モジュールの登録(灯具登録)と,グループへの調光モジュールの登録(グループ登録)が行える。
「ON/OFF」ボタンは照明の点灯・消灯を,「明るさ」「色」ボタンは色温度調光,フルカラー調色用のメニューを表示する(図中下に示すカラーグリッド)。表示されたメニューをタッチすることで,照明操作を行う。
灯具登録,グループ設定は,操作する照明器具の登録を行う。灯具登録は,調光モジュールのQRコード(固有のシリアル番号)を読み込むことで行う。
次に,登録された調光モジュールをグループに登録する。グループは,例えば,「会議室」「企画課」などが考えられる。これらの登録情報は,クラウドサーバ上のデータベースで管理される。灯具登録,グループ登録が完了することで照明器具を制御できるようになる。
操作は,ON/OFF,明るさ(色温度調光),色(フルカラー調色)から選択する。色温度調光の操作は,点灯させたい明るさ,色温度の組合せを表示されたグリッドの中から選択して行う。フルカラー調色の操作も同様に,点灯させたい色をカラーグリッドの中から選択することで行う。
3.2 制御用無線ルータによる制御
図5に制御用無線ルータによる照明制御のイメージを示す。図は,オフィスにて本システムを使用した場合のイメージである。
制御用無線ルータは,提供するWi-Fi(以降,単に「Wi-Fi」と記した場合,制御用無線ルータの提供するWi-Fiを示す)へのスマートフォンの接続状況によって照明器具を制御する。スマートフォンがWi-Fiに接続されると,対応する照明器具が点灯し,接続がなくなると消灯する。移動の際にスマートフォンを持ち歩いているとすれば,スマートフォン所持者の在席状況に応じて点消灯を行うことができる。図中左側のWi-Fiには,A,B,2名のスマートフォンが接続されており,対応したデスクの照明が点灯,不在のCのデスクは消灯される。
Wi-Fiへのスマートフォンの接続・切断の情報は,クラウドへ保存される。この情報を参照することで,どこに設置された制御用無線ルータへ誰のスマートフォンが接続されているか,という所在管理を行うことができる。
オフィス内の会議室,休憩所などにWi-Fiを設置すれば,移動先の灯具が自動的に点灯し,不在場所は消灯される。また,専用のウェブページを確認することで所在管理を行うことができる。
図6に所在管理用ウェブページのイメージを示す。
図のように,誰が,どこにいるかを確認することができる。図5中のCであれば,自席の照明が消灯し,移動先の会議室の照明が点灯する。さらに,図6の所在管理用のウェブページを見ることで,9時半より会議室にいることが確認できる。
4.まとめ
本報告では,スマートフォンを利用した照明制御システムについて報告を行った。本システムの特長は,以下の3点である。
- 既存のSNS(LINE)を用いた照明操作
- スマートフォンの制御用無線ルータへの接続状況に応じた在席検知制御
- 制御用無線ルータへの接続履歴による所在管理
3つ目の「所在管理」は照明制御とは直接かかわりがない。しかし,照明器具(調光モジュール)がインターネットに接続されることで実現できる機能といえる。このような付加価値により,他商品との差別化を行うことが今後重要と考える。そのため,今回試作したシステムのさらなる付加価値の検討を行う。また,本システムのサービス化を目指し,インターフェースの作成,システム構築など改良を行っていく。
補遺
「LINE」はLINE株式会社の商標または登録商標。
この記事は弊社発行「IWASAKI技報」第39号掲載記事に基づいて作成しました。
(2018年11月12日入稿)
参考文献
- 一般社団法人 日本照明工業会:統計データ、照明器具年度生産・出荷(販売)統計(PDF) 2018年11月1日アクセス
- 一般社団法人照明学会:ヒューマンファクターを考慮した照明制御に関する特別研究委員会 報告書,6章 ヒューマンファクターを考慮した照明制御の事例・研究,pp.53-68(2017)
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