技術資料

薄明視環境下で光源のS/P比が不快グレアに及ぼす影響

国内営業本部 営業技術部 照明研究課

キーワード

薄明視,S/P比,不快グレア,相関色温度

1.はじめに

薄明視環境下では,同じ効率(ℓm/W)をもつ光源でも,S/P比の高い光源の方が実効的な効率が高く,路面や空間の明るさを高め,視作業性を向上させるといわれている。しかし一方で,短波長の放射エネルギーが多い光源は不快グレアを感じやすいことが多数報告されている。

本報告でも,S/P比(相関色温度)の異なる2種類のLED防犯灯を用いて,不快グレアの評価実験を実施した。その結果,光学測定結果(鉛直面照度や器具発光面の輝度分布)が概ね同じだったにも関わらず,S/P比の高い防犯灯の方がグレア評価値が大きい(まぶしい)ことを確認した。光学測定結果と不快グレア評価が対応しないままでは,グレアを抑制した照明器具の開発が困難となる。

そこで,評価対象光源のS/P比に応じて各種測光量を重み付けし,不快グレア評価と対応する値に補正する方法を提案した。また,補正測光量と不快グレア評価との相関関係について確認を行い,その妥当性を検証した。

2.S/P比の高い光源のメリット・デメリット

2.1 薄明視とは

人の眼の網膜には,明るい環境で働く錐体(分光感度の異なるL・M・S錐体の3種類)と,暗い環境で働く桿体と呼ばれる光受容細胞が存在する。錐体のみが働く視覚の状態を明所視(Photopic Vision)といい,桿体のみが働く視覚の状態を暗所視(Scotopic Vision)という。そして,明所視と暗所視の中間の明るさでは,錐体と桿体の両方が働いており,これを薄明視(Mesopic Vision)という。照明関連団体では,薄明視の明るさを順応輝度の範囲で示しており,国際照明委員会(CIE)1)では0.005~5cd/m²,北米照明学会(IES)2)では0.001~3cd/m²としている。

現在,CIE 191 : 2010 薄明視測光システム1)では,明所視測光量(例えば,明所視輝度LP)と暗所視測光量(例えば,暗所視輝度LS)の比であるS/P比(=LS/LP)と順応輝度を用いて,薄明視輝度を容易に計算できる。

表1にS/P比と順応輝度に対する薄明視輝度の計算結果を示す。表1が示すように,薄明視環境(順応輝度0.005~5cd/m²の範囲)では,S/P比の高い光源ほど薄明視輝度を大きくすることから,S/P比の高い光源は薄明視環境下で実効的な効率の高い光源となる。

表1 S/P比と順応輝度に対する薄明視輝度の計算結果(単位:cd/m²)

順応輝度
0.010 0.030 0.10 0.30 1.0 3.0
S/P比 0.5 0.005 0.021 0.08 0.27 0.9 3.0
1.0 0.010 0.030 0.10 0.30 1.0 3.0
1.5 0.014 0.037 0.12 0.33 1.1 3.0
2.0 0.017 0.044 0.13 0.36 1.1 3.1
2.5 0.019 0.050 0.14 0.39 1.1 3.1

実際に,白倉ら3)は,配光特性や光束を近似させた3種類の防犯灯(4200Kの蛍光灯防犯灯,5000Kと8000KのLED防犯灯)を用いたフィールド実験を実施し,最もS/P比の高い8000KのLED防犯灯が他に比べて空間が明るく見える結果となったことを報告している。

2.2 S/P比と不快グレア

S/P比の高い光源を採用した屋外照明器具が増えることで,路面や空間の明るさ,および視作業性が高まり,夜間屋外の安全性の向上につながることは非常に有意義である。しかし一方で,S/P比の高い光源に対するグレアの悪化が懸念される。

多くの既往研究から,短波長の放射エネルギーが多い光源は不快グレアを感じやすいことが報告されている。白倉ら3)のフィールド実験でも,S/P比の高いLED防犯灯は空間の明るさ感が向上する反面,グレアを感じやすくなるとして,防犯灯の配光にグレア制御を施す必要があると言及している。また,矢野ら4)は,若年齢者と高齢者を対象として光色と直視不快グレア評価との関係を調査し,年齢に関わらず相関色温度の高い光源ほど不快グレアを感じやすいことを明らかにしている。謝ら5)は,白色光に加えて青・赤・黄・緑の色光を直視したときの不快グレア評価を実施し,呈示光の中で短波長の放射エネルギーが多い青が最もグレアを感じやすい光色であったとしている。

これらの原因の一つとして,Bullough6)らは,不快グレアにS錐体の応答が寄与していることを示唆しており,Kimura7)らも,色チャンネルの応答が寄与していることを示唆している。一方,不快グレアにS錐体だけではなく,桿体の応答も影響を及ぼすとする研究結果8) 9)も存在する。

2.3 不快グレア評価実験

白倉ら3)の実験を踏まえて,筆者もLED防犯灯を用いた不快グレア評価実験を実施し,S/P比の高い光源は不快グレアを感じやすいのか,周辺視評価にて検証を行った。実験に使用した防犯灯ⅠとⅡは配光特性や光束が同じLED防犯灯で,光源のS/P比(相関色温度)のみ防犯灯Ⅰが1.94(6300K),防犯灯Ⅱが1.70(4700K)と異なっている。

実験は,図1に示す工場敷地内にある幅員5mの実験道路に,防犯灯Ⅰ・Ⅱを35m間隔で設置した照明柱の高さ4.5mに取り付けて行った。図1に,評価地点A~Fにおける評価対象の防犯灯までの距離と,視線から防犯灯への仰角を示す。また,防犯灯Ⅰ・Ⅱを同時に点灯したとき,路面の水平面平均照度は7ℓx程度で,アスファルト路面の反射率がおよそ10%だったことから,実験環境の路面輝度は薄明視の順応輝度範囲であったといえる。

図1 実験環境

図2 不快グレア評価スケール

実験は主観評価実験とし,被験者は視線を視対象(マネキン)の顔部分に固定し,11地点(A→B→C→D→E→F→E→D→C→B→Aの順)から評価対象の防犯灯のまぶしさを図2に示す評価スケールを用いて評価した。回答は1~9の整数のみ許可した。防犯灯Ⅰの不快グレア評価の実施後,防犯灯Ⅱの不快グレア評価を実施した。被験者は20代の学生8名と,20代から40代の社員8名の計16名とした。

2.4 実験結果

図3に防犯灯Ⅰ・Ⅱの不快グレア評価の結果を示す。グレア評価値は各評価地点における学生および社員を合わせた全被験者の相加平均値を示している。図3から,F地点を除く全ての評価地点で,S/P比の高い防犯灯Ⅰの方が防犯灯Ⅱよりもグレア評価値が大きい(まぶしい)ことが分かった。F地点では,被験者の視野から防犯灯が完全に外れるため,防犯灯Ⅰ・Ⅱのグレア評価値に大きな差はなかったと考えられる。また,t検定を行った結果より,A,B,D,E地点で防犯灯Ⅰ・Ⅱのグレア評価値に1%水準で有意差があり,C地点で5%水準で有意差があることが分かった。以上の結果から,短波長の放射エネルギーが多いS/P比の高い光源を採用した照明器具は,周辺視の評価において不快グレアを感じやすいことが確認された。

また,図4,図5に,防犯灯Ⅰ・Ⅱに対する各評価地点からの光学測定結果(高さ1.5mの鉛直面照度,器具発光面最大輝度の1/10以上の平均値)と不快グレア評価との関係を示す。防犯灯Ⅰ・Ⅱは配光特性や光束が同じLED防犯灯であるため,各光学測定結果は概ね同じ値となる。図中の2本の実線は防犯灯Ⅰ・Ⅱそれぞれの近似曲線を示し,点線は防犯灯Ⅰ・Ⅱを合わせたデータの近似曲線を示している。図4,図5の近似曲線とその決定係数R²から,防犯灯ⅠとⅡを個別(S/P比別)で解析した方が全体で解析するよりも,各光学測定結果と不快グレア評価との相関関係は強いことが分かった。

図3 LED 防犯灯の不快グレア評価結果

図4 鉛直面照度と不快グレア評価との関係

図5 器具発光面最大輝度の1/10 以上の平均値と不快グレア評価との関係

3.S/P比に応じた測光量の補正方法

現在,屋外照明のグレアを抑制するために,屋外グレア制限値GR10)や,器具発光面の輝度・光度制限値11) 12) 13)が推奨されている。これらの制限値は照度や輝度,等価光幕輝度などの各種測光量に基づいている。しかし,前章の不快グレア評価実験で明らかとなったように,同じ測光量でも同じ不快グレア評価となるとは限らない。したがって,上記制限値だけでは,S/P比の非常に高い照明器具に対して十分なグレア抑制効果が得られない可能性もある。そこで,異なるS/P比の光源間で等しい不快グレア評価となる輝度条件を求めることとした。

3.1 等グレア感輝度の導出実験

周辺視による不快グレア評価に桿体の影響もあると仮定すると,順応輝度の大小によって光源のS/P比と不快グレア評価との関係も変化する可能性がある。そこで,被験者の眼の順応輝度を1.0,0.1,0.03cd/m²の3段階にコントロールし,7種の異なるS/P比の白色LEDを用いて,等グレア感輝度を求める主観評価実験を実施した。

図6に実験装置の模式図を示す。実験装置は,半球面形状の観察視野部と測定部から構成されている。観察視野部は基準光とテスト光および固視点から構成される。観察視野部の背景輝度は調整できるように,半球面外縁部に沿って等間隔に6台の調光対応型ダウンライトを設置した。6台のダウンライトを調光制御することによって,観察視野部の背景輝度を1.0,0.1,0.03cd/m²の3段階にコントロールできるようにした。

図6 実験装置

図7 白色LEDの分光分布特性

ここで,背景輝度1.0cd/m²は交通関係広場や道路・トンネルなどの比較的明るい照明環境を想定しており,0.1 cd/m²は防犯灯や歩行者空間の照明環境を想定しており,0.03cd/m²は照明が設置される環境で最も暗い照明環境を想定している。

基準光とテスト光の呈示サイズは視角0.6°で,呈示位置は視線から離角30°とした。基準光はS/P比2.07(5000K)の白色LEDを用い,輝度3.0×10⁵cd/m²一定で被験者方向に照射できるようにした。テスト光はS/P比1.27(2700K),1.35(3000K),1.52(3500K),1.70(4000K),2.15(6500K),2.75(10000K)の6種類の白色LEDを用い,被験者方向に照射できるようにした。テスト光の輝度は被験者の手元にある調光器で調整できる仕組みとした。実験に用いた白色LEDの分光分布特性を図7に示す。測定部では,被験者が調光したテスト光の輝度を測定できるように,輝度計(トプコン製BM-5 AS)を設置した。被験者は20代から40代の色覚正常な男女11名(平均36歳)とした。

参考文献

  1. CIE 191:Recommend System for Mesopic Photometry based on Visual Performance (2010).
  2. IES:Lighting Handbook 10th Edition (2011).
  3. 白倉公隆,明石行生,斎藤孝:街路照明の分光特性が空間の明るさに及ぼす影響;照明学会誌,Vol.96,No.5,pp.259-271 (2012).
  4. 矢野正,金谷末子,市川一夫:高齢者の不快グレア-光色との関係-;照明学会誌,Vol.77,No.6,pp.296-303 (1993).
  5. 謝明燁,宗方淳,平手小太郎:光色の違いがグレア感の評価と許容度に与える影響に関する研究;照明学会誌,Vol.89,No.11,pp.788-793 (2005).
  6. Bullough J.:Spectral sensitivity for extrafoveal discomfort glare,Journal of modern optics,Vol.56,Issue13,pp.1518-1522 (2009).
  7. Kimura T.,Ayama M.:Evaluation of discomfort glare from color LEDs and its correlation with individual variations in brightness sensitivity,Color research and application,Vol.36,Issue 4,pp.286-294 (2011).
  8. 浅野翔平,明石行生:LEDからの不快グレアの視覚的機構モデルの提案;平成24年度照明学会第45回全国大会講演論文集8-10 (2012).
  9. 酒寄純平,入倉隆:明滅光の光色と呈示角度が不快グレアに及ぼす影響;平成26年度照明学会第47回全国大会講演論文集8-31 (2014).
  10. CIE 112:Glare Evaluation System for Use within Outdoor Sports and Area Lighting (1994).
  11. JIEC-006:歩行者のための屋外公共照明基準;照明学会 (1994).
  12. JIS C 8131:道路照明器具 (2013).
  13. CIE 136:Guide to the Lighting of Urban Areas (2000).

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