技術資料

パルスランプを用いたクリプトスポリジウムの不活化について

光応用事業部 光応用開発部 ソフトエンジニアリング課
光応用事業部 光応用営業部 技術グループ

キーワード

紫外線,パルスランプ,クリプトスポリジウム,不活化,上水

1.はじめに

表1 各国の水道における消毒手法1)

紫外線による殺菌・消毒は,現在,下水二次処理水の塩素消毒の代替技術として使用されているが,欧米においては水道の消毒手法として用いている国(表1参照)もあり,紫外線による消毒技術はあらゆる分野で用いられている。また,水道水源中に存在する原虫クリプトスポリジウム(Cryptosporidium parvum:以下C.parvumと表記する)に代表される病原性微生物の対策は,上水道事業における安全な水の供給という観点から大きな課題となっている。特にクリプトスポリジウムは塩素に対して強い耐性を有しているため,通常の塩素消毒では容易に不活化されない。このような情勢から紫外線技術は,国内における上水の消毒手法として厚生労働省が導入の検討を行っているほか,今後更に応用が広がる可能性が大きい技術である。今回,紫外線光源として従来の低圧,中圧および高圧水銀ランプと新たに高照度エネルギーを短時間に放射するパルスランプを加え,クリプトスポリジウムの不活化効果について比較試験を行ったので報告する。また,その評価方法についても生育活性評価と感染性評価との比較を行ったので,併せて報告する。

2.実験方法

(1) 紫外線照射実験

図1 実験装置概略図

紫外線の照射実験はシャーレテストにより行った。

紫外線光源としては,20W低圧水銀ランプ,330W中圧水銀ランプ,1kW高圧水銀ランプおよびパルスランプ(500J×2パルス/秒)を用いた。実験装置の概略図を図1に示す。

但し,高圧水銀ランプを用いた装置のみ,図1とは異なり,シャッターを用いずランプ照射部を一定速度のベルトコンベアにて通過させる動作を繰り返した。

実験は,RUN1及び2(表2)ではガラス製シャーレ(ø5.7mm)にC.parvum溶液 (10⁶オーシスト/ml)を10~20ml注入し,RUN3(表3)においては,実際の上水汚泥を用い,濁質を約250NTUに調製して照射実験を行った。また,RUN4(表4)ではC.parvum溶液(108オーシスト/ml)を20ml注入し実験に供した。

各ランプの紫外線照射量は大腸菌ファージQβを用いて測定2)した。
また各試験におけるランプ照射条件を表2~4に示す。

尚,RUN3において細胞培養法は濁質を含んだまま行った。

表2 実験条件1(RUN1及び2)
RUN ランプ 点灯条件 照射距離(L)
1 低圧水銀ランプ 20W 52mm
パルスランプ 500J×2パルス/秒 52mm
2 中圧水銀ランプ 330W 97mm
高圧水銀ランプ 1kW 17.5mm
パルスランプ 500J×2パルス/秒 21.5mm
表3 実験条件2(RUN3)
RUN ランプ 点灯条件 照射距離(L) 紫外線量測定結果
濁質なし 濁質あり
3 低圧水銀ランプ 20W 17.5mm 0.55mJ/sec/cm² 0.4mJ/sec/cm²
高圧水銀ランプ 1kW 17.5mm 2.0mJ/回/cm² 1.2mJ/回/cm²
パルスランプ 500J×2パルス/秒 17.5mm 2.2mJ/回/cm² 1.43mJ/回/cm²
表4 実験条件3(RUN4)
RUN ランプ 点灯条件 照射距離(L)
4 パルスランプ 500J×2パルス/秒 21.5mm

※高圧水銀ランプは金網を9枚通過させ波長スペクトルを変えずにランプ出力を落とした。

(2) 不活化評価

クリプトスポリジウムの不活化評価はいずれのRUNにおいても脱嚢法(生育活性評価)にて行ったが,RUN3では脱嚢法および細胞培養法(別名セルカルチャー法),RUN4ではマウス感染法及び細胞培養法(感染性評価)も併せて用いた。尚,各試験方法の内容は以下の通りである。

脱嚢法
脱嚢培養後顕微鏡にて観察
細胞培養法
HCR-8細胞を使用。
蛍光顕微鏡にて観察。
マウス感染法
SCIDマウス(4週齢♀)を使用。ショ糖遠心浮遊法により検査。

参考文献

  1. Hiisvirta,L.O.:Disinfection and disinfection by products,International Report,19th International Water Supply Congress and Exhibition,IWSA (1993).
  2. Kamiko,N.,et al.:Wat.Sci.Tech.,Vol.21(3),pp.227-231(1989).

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