技術資料
写真測光による等価光幕輝度測定 - スポーツ照明施設におけるグレア評価 -
国内営業本部 営業技術部 照明研究課
キーワード
等価光幕輝度,グレア,スポーツ照明,GR
1.はじめに
近年,LED技術の著しい発展により,LED照明の需要が急速に高まっている。しかし一方で,LED照明はグレア(まぶしさ)について言及されることがある。
グレア評価には,TI値(視機能低下グレア)やGR(不快グレア)が使用され,これらはいずれも等価光幕輝度1), 2)を測定することで評価できる。
先に筆者らは,写真測光による等価光幕輝度の算出方法について検討を行った3)。その結果,特殊な測定器を用いることなく等価光幕輝度の算出が可能であることを示した。そこで次に,スポーツ施設のグレア評価を行う場合について検討する。
野球などの競技中,競技者の視線方向は一定ではない。そのため,想定される競技者の視線方向すべてに対してグレア評価を行うことが望ましいが,あらゆる方向の評価を行うことは困難である。そこで,少なくとも各照明塔の方向に対しグレア評価を行うことが定められている4), 5)。しかし,多数の照明が設置されている施設において実測を行う場合,それぞれの方向に対してグレア評価を行う必要があり,測定に時間を要する。
そこで筆者らは複数の評価方向に対するグレア評価を簡便に行う方法について検討を行ったので報告する。
2.スポーツ照明のグレア基準
2.1節では,スポーツ照明のグレア評価値GRについて説明する。2.2節でGRの評価点と評価方向について説明する。
2.1 グレア評価値GR
スポーツ照明では,グレア評価にGRが用いられる4), 5)。GRは,国際照明委員会(CIE)が屋外運動競技場および,広場照明施設のため規定した不快グレアの評価値である。また,その後の研究で,屋内運動競技施設にも適用できることが明らかにされている6)。
表1に,GRの値と程度を示す。
GR | グレアの程度 |
---|---|
90 | 耐えられない |
70 | 邪魔になる |
50 | 許容できる限界 |
30 | あまり気にならない |
10 | 気にならない |
表1のようにGRは20間隔で程度分けされており,施設や用途によって,45~55が上限値として定められている。
次に,GRの算出方法について述べる。GRは,式(1)を用いて等価光幕輝度により算出される1)。
ここで,Lvlは光源からの直接光による等価光幕輝度,Lveは反射光による等価光幕輝度を表わす。それぞれの等価光幕輝度は,観測者の視線方向と照明器具との位置関係が図1に示す場合とする。
等価光幕輝度Lvは次式により算出される。
ここで,θiは観測者の視線と照明器具とのなす角,Eeyeiは,観測者の視線に対して垂直な面の個々の照明器具による照度,nは照明数を表す。光源からの直接光による等価光幕輝度Lvlは,設置されているn個の照明に対して計算を行うことで算出される。また,反射光による等価光幕輝度Lveは,「無数の微小な照明」から構成されると定義され,Lvl同様に式(2)を用いて算出される。さらに,Lveは次のように近似することができる1)。
ここで,ρは領域(地面など)の平均反射率,Ehovは全運動競技面の平均照度を表す。また,輝度計により等価光幕輝度を実測する場合は,図1の観測者の位置に輝度計を設置し,グレアレンズを装着して測定を行う。これまで,計算や輝度計により等価光幕輝度を求めるとき,反射光による等価光幕輝度Lveは式(3)に示す近似式により求める必要があったため,正確な値を求めることが困難であった。そこで本研究では,写真測光法による等価光幕輝度測定方法を提案している。
図2に写真測光により等価光幕輝度を実測する場合の画像上の視線方向の位置関係を示す。写真測光により等価光幕輝度を算出する場合,視線方向を画像中心とし,画像中心と照明器具間の画素数に応じて,視線方向と照明器具のなす角θが決まる。
このことにより,画像から照明器具の位置を正確に特定することが可能になり,光源からの直接光による等価光幕輝度Lvl,反射光による等価光幕輝度Lveの正確な分離が可能になる。
2.2 GRの評価点と評価方向
次に本節では,運動競技施設でのGRの評価点と評価方向について説明する。
GRの算出に必要な等価光幕輝度は,式(2)より視線方向と光源の位置関係によって値が異なる7)。そのため,GRによるグレア評価は評価点と評価方向を決定する必要がある。
表2に日本工業規格および国際照明委員会が定めるGRの評価点と評価方向を示す。
日本工業規格 (JIS Z 9127) |
国際照明委員会 (CIE 112-1994) |
|
---|---|---|
評価点 | 照度測定点 | 照度測定点 |
所定の直線上 | ||
個々に必要と思われる点 | ||
評価方向 | 照明塔の方向 | 照明塔,照明器具の方向 |
(列状に照明が配置されている場合) 水平距離の最短方向および最遠方向 |
水平方向に一定間隔 (5・10・45度)で360度 |
|
個々に必要と思われる方向 |
図3に,評価点と評価方向を示した例を示す。図中の黄丸は照明器具,赤丸は評価点,青矢印は評価方向を示す。
図に示すように,施設によっては評価点,評価方向が多くなる。そのため,各方向の等価光幕輝度の測定に時間を要する。
3.視線軸変換による等価光幕輝度の算出
本章では,写真測光によりさまざまな視線方向に対する等価光幕輝度の算出方法について検討を行う。先に筆者らは,視線軸変換と称する処理を用いることで,魚眼レンズによる一方向の撮影画像から異なる視線方向のグレア評価が可能であることを確認した7)。
図4に体育館の視線軸変換の例を示す。(a)は撮影画像,(b)は新画像中心への視線軸変換後の画像を示す。なお,(a)中の赤の十字を新画像中心とした。
(a)中,緑円は撮影範囲(本報告では,撮影範囲は画像中心からの半径で示す),赤円は等価光幕輝度の計算範囲,(b)中,青線は欠損部分を示す。
(b)より撮影画像が新画像中心の画像へ変換されているが,欠損が生じていることも確認できる。
図5に撮影方向と変換画像の関係を示す。
図中緑矢印を撮影方向としており,赤と青の部分が撮影範囲となる。 入射光(紫矢印)は,青矢印の光路を進み,全周の撮影画像(図4-(a))を形成する。この撮影画像中にあらたに画像中心とする点を定め,新たに画像中心へと変換する。 まず,新画像中心に対応する視線軸方向(新視線軸)を定める。 新視線軸を中心とし,入射光を赤の光路となるよう変換することで,変換画像 (図4-(b))が得られる。 この変換画像には,赤と灰で示す範囲の光が必要となるが,撮影画像では灰色部分へは入射光がない。 そのため,図4に示したように変換画像には欠損が生じることとなる。
ここで,図4に示す等価光幕輝度の計算範囲は次のようになる4)。
そのため,(b)に示すように等価光幕輝度の計算範囲内に欠損が生じた場合,正確な等価光幕輝度を算出することができない。
しかし,(a)より魚眼レンズを用いた場合,撮影範囲は等価光幕輝度の計算範囲よりも広いことが分かる。 そこで,複数方向の撮影画像に対して視線軸変換を行い,欠損部分を別の変換画像と合成して補うことにより,任意の方向の等価光幕輝度を算出できると考えられる。
参考文献
- CIE : CIE COLLECTION on GLARE, CIE 146:2002, (2002).
- 猪野原:視覚研究の展望 - 周辺視野輝度分布と知覚閾値の関係について -, 照明学会雑誌,第60巻 第11号,pp.38-41(1976).
- 大嶋航介・山田哲司:写真測光による等価光幕輝度測定 - 魚眼レンズを用いた等価光幕輝度の算出方法 -, IWASAKI技報,No25,pp.13-19(2011).
- CIE : Glare Evaluation System for Use within Outdoor Sports and Area Lighting, CIE TECHNICAL REPORT, 112-1994 (1994).
- 日本工業標準調査会:日本工業規格, JIS Z 9127 スポーツ照明基準:2011(2011).
- 川上幸二・江湖俊介・魚住拓司:CIE屋外施設のグレア評価法の屋内スポーツ施設への適応性,平成10年度(第31回)照明学会全国大会 講演論文集,pp.291-292(1998).
- 大嶋航介・山田哲司:写真測光による等価光幕輝度測定 - 魚眼レンズを用いた等価光幕輝度の算出方法 その2 -,IWASAKI技報,No.26,pp.2-7(2012).
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