技術資料

紫外線殺菌における指標微生物の紫外線感受性(その3)

技術本部 研究開発部 光応用研究課

キーワード

紫外線,殺菌,指標微生物,指標菌,紫外線感受性

1.はじめに

紫外線による殺菌は,医薬品製造業,食品加工業,上下水道,環境衛生など様々な場面で使用されている。紫外線殺菌法は,遺伝子に直接作用するため全ての微生物種(ウイルス,細菌,黴など)に有効であり,短時間(数秒)で処理が可能,物質の表面,空気,液体など全ての状態に対して処理が可能である。製造工程の一部に組み込みインラインで使用できるため生産現場での使用が可能で,薬品を使用しない殺菌であるため環境への負荷が少ないといった特長がある。

その反面,光(紫外線)の暴露を前提としているので,光の当たらないところには効果が無く,また微生物が有する毒素などを除染することは難しい。紫外線を生産工程などに適用する場合,事前に微生物を使用して効果の確認(バリデート)をすることが行われる。その際に使用される指標微生物(指標菌)は,通常その技術で一番耐性の強い菌種が選択される。医療機器として販売される滅菌器については,指標菌の定めがあり,その技術で一番抵抗性のある菌種,通常,芽胞形成菌の芽胞(spore)が用いられる。紫外線殺菌法については滅菌器として使用が認められていないため,特に定められた指標菌は無く,使用目的に応じて選択して使用されるのが現状である。滅菌器の指標菌として使用される芽胞形成菌は紫外線にも耐性があることが知られ,紫外線殺菌のテスト菌としてもよく使用されている。また,黴やウイルスを対象とした場合には,取扱いの安全性や耐性などを考慮して指標とする微生物が選択される。

本稿では,紫外線殺菌の評価に用いられる指標微生物を紹介するとともに,その紫外線感受性について計測結果を報告する。

2.紫外線の計測方法および試験方法

2.1 紫外線の計測方法

紫外線照度を計測する方法として市販の紫外線照度計がよく用いられるが,水処理分野などでは「化学線量計」を用いることが多い。化学線量計は,化学物質が紫外線により変化する際の変化量を分光器等を用いて計測する方法で,市販の紫外線照度計や紫外線モニターを使用する場合に比べ手間がかかるが,化学線量計は,同じ方法で実施すれば同じ値が得られるので絶対値として使用でき,また異なった実験系で使用した場合でも値を比較することが可能である。本報で微生物の紫外線感受性を評価する際の紫外線照度(照射量)の計測には,可視光域に吸収を持たないヨウ化カリウム法(KI/KIO₃)による化学線量計を採用した1)-3)。ヨウ化カリウム法による紫外線の計測の反応式を下記(①式)に示す。紫外線(hv)がKI/KIO₃溶液に暴露されると分解産物であるヨウ素イオン(3I₃⁻)を生じる。このヨウ素イオンは色調を呈し波長352nmの吸光度を計測すると暴露量が算出できる。

化学線量計は,吸収された光エネルギーを吸収係数(物質固有の波長ごとの吸収率)と,量子収率(濃度によって反応率が異なる)を基に計算により紫外線照射量を求める方法である。菌液に照射される紫外線照射量:Dose(mJ/cm²)は,化学線量計で求めた液面の紫外線照度Io(mW/cm²),菌液の紫外線吸光度:Abs(λ=254nm,10mmセル:cm⁻¹)と深さ:d(cm)から平均紫外線照度Iavg(mW/cm²)を求め,照射時間:Time(s)を掛けて算出される(②③式参照)。

2.2 紫外線感受性評価装置および試験方法

図1 紫外線感受性装置

試験に使用した紫外線感受性評価装置(岩崎電気(株)製)を図1に示す。紫外線光源として低圧水銀ランプ2灯を配置,0.1秒単位でシャッターを開閉して照射時間を制御できる装置となっている。使用した低圧水銀ランプは,波長253.7nmの紫外線が主波長のランプで,波長200nm以下の真空紫外域の波長をカットする殺菌用の紫外線ランプ(QGL8W-2-2:岩崎電気(株)製)である。試験は,所定の濃度に調製した菌液10mℓを滅菌済みシャーレ(ø45mm)に入れ,シャッター下方のスターラ上に配置し,一定速度でスターラを回して試験サンプルを撹拌しながら所定の時間照射した。

試験に使用した菌株は,微生物保存機関であるBiological Resource Center(NBRC;日本),およびAmerican Type Culture Collection(ATCC;米国)から入手した。所定の培養方法で純粋培養した菌液を,約10⁵cfu/mℓ(10mℓ中に10⁶cfu)の濃度になるように燐酸緩衝液(PBS)で希釈して調製して使用した。紫外線照射を終えた菌液10mℓをスピッツ管に移し,10倍希釈法により数段階の希釈液をつくり,その段階希釈した0.1mℓを所定の寒天培地に複数枚塗抹して所定温度で培養後,発生した集落数(CFU)を計測して生菌数を求めた。生残曲線は,X軸を化学線量計でもとめた紫外線照射量(mJ/cm²),Y軸を初発菌数(Co)から所定の紫外線照射量時の菌数(Ct)の対数減少率(Log(Ct/Co))をプロットして作成した。例えば,Co=10000(cfu/mℓ),Ct=100(cfu/mℓ)であれば,Log(Ct/Co)=-2と計算できる。作成した生残曲線の指数減少部で最小二乗法によりラインを引き,初期の菌数の下がらない誘導期の紫外線照射量を「Ds値」,指数減少部のラインから算出した90%低下に要する紫外線照射量を「D値(D-Value)」,初発から3桁低下に要する紫外線照射量を「3 log値」として表示した。

参考文献

  1. R.O.Rahn,et al.:Quantum Yield of the Iodide-Iodate Chemical Actinometer:Dependence on Wavelength and Concentrations, Photochemistry and Photobiology, 78(2),pp.146-152 (2003).
  2. 廣戸裕子,大瀧雅寛:中圧ランプに対応した化学線量,第11回日本水環境シンポジウム講演集,pp.64-65(2008).
  3. James R. Bolton et al.:Determination of the Quantum Yield of the Ferrioxalate and KI/KIO3 Actinometers and a Method for the Calibration of Radiometer Ditectors, 5th Ultraviolet World Congress (2009).

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