技術資料

カメラ監視のための見え方事前予測の研究 - その1 モデリングとモニター映像の関係 -

技術開発室 技術部 技術開発グループ

キーワード

CCDカメラ,セキュリティー,監視,事前予測,照度,モデリング

1.はじめに

CCDカメラの普及に伴って,TV放送ばかりでなくセキュリティー監視など様々な分野にTV映像が用いられるようになった。特にセキュリティー分野では,一般の屋内照明のように光の方向性が弱く照度均斉度の高い環境下では,ある程度満足の行くTV映像をCCDカメラから得ることができるが,夜間の屋外のように輝度対比が大きく方向性の強い光によって顔面に強い陰影が生じ易い環境下では,顔の識別が不十分な場合が多い。

一般に,人の識別が可能なTV映像は,カメラの感度・露出,被写体の輝度分布などに関係し,特に光の方向性(照明ベクトル)によって顔面に生じる陰影は,顔の識別に大きく関係すると考えられる。しかし,カメラの仕様書などには,照明に関する条件として最小照度が記述されているに過ぎない。それゆえ,陰影の影響を定量的に評価することが望まれている。

一方,顔の識別性に関する既往研究は,Cuttle1)が照明ベクトルとスカラー照度の比を用いて顔のモデリング評価を検討している。宮前・武内2)は,街路・犯罪照明における顔の見え方と照度レベルの関係を導いている。P.Rombautsら3)は,住宅エリアにおける顔の識別に要する半円筒面照度の最小値を明らかにするとともに,鉛直面照度と半円筒面照度の比によるモデリング評価を検討している。

これらは,顔の識別性を検討するための重要な知見を与えておリ,監視カメラによって得られた映像の評価にも応用することができる。しかし,モデリング評価と監視カメラから得られる映像との関係,特に「顔の識別性」との関係は明らかにされていない。もし,このような関係を適切に記述することができれば,監視カメラでの見え方事前予測が可能となり,セキュリティー照明などの設計に貢献できるものと考える。

そこで,本研究では,監視カメラなどによって「顔の識別」が可能な映像を得るための照明条件を明らかにすることを目的とし,以下の手順で検討することにした。

  1. Cuttleのモデリング評価実験を参考に,モデリングの異なる評価刺激を作成し,モニター上で「顔の識別」の程度を評価する。
  2. この評価結果を基に,モデリングの記述方法を考察する。

2.評価刺激の作成

2.1 撮像環境と照明設備

図1 評価刺激撮像用の照明設備

照明ベクトルの高度と方位,照明ベクトルとスカラー照度の比がそれぞれ異なる評価刺激を作成するために,図1に示す照明設備を相互反射が無視できる暗室内に作成した。これは,約2.0×2.0m,高さ2.0mで,内部に照明ベクトルを得るための写真用投光電球(500W,5,900K)と,スカラー照度を得るための立方体に組んだ3波長域発光形蛍光灯(40W,5,000K)が設置され,暗幕で囲われている。中心には評価刺激である人の顔(人形),前面には撮像および輝度測定用の開口0.7m×1.2mを設けるとともに,背面には1.4m×1.2mの開口を設けた。背面の開口は,照明ベクトルやスカラー照度の変化による背景輝度への影響を無視できるようにするためのもので,その背後3.5mに暗幕を設置した。

2.2 評価刺激の撮像条件

図2 露出設定時の顔の大きさ

評価刺激は,CCD素子を内蔵したデジタルカメラ(130万画素)でカラー画像を撮像した。照明条件は,照明ベクトルの高度(α)を0,30,60,90度,方位(ø)を0,30,60,90,120度に変化させるとともに,照明ベクトル・スカラー照度比が0,1.5,2.5,3.3,4.0になるように,写真用投光電球と蛍光灯を調光した。

カメラの露出は,照明ベクトルやスカラー照度の変化による陰影の相違だけが撮像されるように,照明ベクトルの方位を90度,照明ベクトル・スカラー照度比一定,顔の画角一定(図2)で設定した。撮像は,照明ベクトルの高度・方位だけを変化させて,適正露出,EV+1,EV-1の3種類とした。

2.3 評価刺激の大きさ

顔の識別性は,映像上での顔の画角とその観察距離にも依存する。一般に,監視カメラ等における人の縮尺率は,たとえば「モニター画面の高さとそこでの人の高さが等しい場合を縮尺率100%」と言うように表され,人物の確認など全体を把握する場合には縮尺率50%~67%が,風体を識別するには縮尺率100%が良く用いられるとされている。

我々は,通常の監視カメラが縮尺率50%~67%で稼働していると推定されることから,提示する評価刺激中の顔の大きさを縮尺率67%相当に設定した。

3.識別性の評価実験

3.1 評価カテゴリーとインストラクション

顔の識別の程度は,表1に示す5段階の評価カテゴリーを設定した。また,評価に際して,次のインストラクションを与えるとともに,「顔に生じる陰影の強弱」と「顔の明暗」を混同しないよう,図3を基にその違いを説明した。

インストラクション

いま,あなたは防犯カメラによって映し出された犯罪者の人相などを識別することが要求されています。これからモニター上に色々な映り方をした人の顔を提示しますので,その個体識別の程度を次の5段階で評価してください。

表1 評価カテゴリー

顔の識別の程度
1 陰影が強すぎて,顔の輪郭・目鼻立ちが,ほとんど分からない
2 陰影が強いが,顔の輪郭・目鼻立ちが,やっと分かる
3 陰影が適度で,顔の輪郭・目鼻立ちが,明瞭に分かる
4 陰影が弱いが,顔の輪郭・目鼻立ちが,やっと分かる
5 陰影が弱すぎて,顔の輪郭・目鼻立ちが,ほとんど分からない

図3 陰影の強弱と明暗の相違

3.2 評価環境

評価刺激は,17インチCRTモニター(MITSUBISHI Diamondtron RD17G II)および17インチTFT液晶モニター(PROTON RD170C)の2種類に提示した。周囲の環境は,机上面照度500ℓx,モニター面照度250ℓx,周囲からの着色した反射光の影響が無視できるとともに,光源等の映り込みのない無彩色室内とした。刺激提示状態での各モニター面中央部の輝度は,全白色表示状態と全黒色表示状態を,視角1度・測定距離1mで5回測定したところ,CRTモニターではそれぞれ平均92cd/m²と平均3.3cd/m²であり,液晶モニターではそれぞれ115cd/m²と2.8cd/m²であった。

3.3 刺激の提示

評価は,矯正視力が正常な被験者27名(表2)を6グループに分け,CRTモニターとTFT液晶モニターに評価刺激を提示して実施した。評価刺激の提示は,乱数表によって順序を定め,8カットの練習に続いて124カットを5秒提示5秒休止のインターバルで行なった。なお,回答は5秒の休止時間の間に求めた。

表2 被験者の構成
性\年齢 20才 30才 40才 50才 合計
5 10 3 4 22
2 3 0 0 5
合計 7 13 3 4 27

参考文献

  1. C.Cuttle, et al.:Light. Res. Technol., 3 (3), pp.171-189 (1971).
  2. 宮前ほか:照明学会誌, 73 (6),pp.25-29 (1989).
  3. P.Rombauts et al.:Light. Res. Technol., 21 (2), pp.49-55 (1989).

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