技術資料
屋外照明と建築物からの光害
技術開発室 技術部 技術開発グループ
キーワード
光害,漏れ光,地球環境,省エネルギー,写真測光
1.はじめに
光害は,人や植物,天文観測など,周囲環境へ与える影響だけでなく,エネルギー消費(CO₂排出)問題としても解決すべき大変重要な課題である。光害の周囲環境への問題については,既に様々な誌面で紹介されているため,ここではエネルギー消費問題という観点から,屋外照明から漏れる光の実態と,光害対策によるCO₂抑制効果について紹介する。また筆者は,「光害の原因となっているのは屋外照明だけではない」と考え,今回新たにオフィスビルなどの建築物から漏れる光の実態について研究を行ったので,そこで得られた知見についても報告する。
2.屋外照明から漏れる光の実態
照明学会は屋外照明の上方への漏れ光の実態調査1)を国内7地域で行っている。これによれば,漏れ光を発生させる器具(屋外スポーツ施設や建築物を除く)の大半が,ポール灯,HID投光器,内照式看板で占められる。また地域の土地面積当たりの上方光束は,都心部や商業施設で多く,田園地域Kが0.20ℓm/m²であるのに対し,N商業地区では18.9ℓm/m²と推測している。(図1)
2.1 屋外照明エネルギーの推定量
屋外照明で使用される電力量は正確には把握されていない。環境省は前述の照明学会の調査を基に,屋外照明(スポーツ用,内照式看板除く)で使用された電力量を推計している2)。これによれば,電力消費量は8,196GWh/年で,国内全体の1.0%,民生部門の1.9%,CO₂換算では国内全体の0.32%,民生部門の1.4%であるとしている(表1)。
電力 | CO₂ | |||
---|---|---|---|---|
電力消費量 (GWh/年) |
夜間屋外照明の占める比率(電力) | CO₂排出量 (千t/年) |
夜間屋外照明の占める比率(電力) | |
夜間屋外照明施設 | 8,196 | - | 1,025 | - |
民生部門 業務 家庭 |
434,200 206,920 227,280 |
1.9(%) | 71,600 33,600 38,000 |
1.4(%) |
国内全体 | 847,808 | 1.0(%) | 320,000 | 0.32(%) |
(備考)
1.民生部門,全国の電力消費量は,「総合エネルギー統計」による1994年度値
2.民生部門,全国のCO₂排出量は,「平成7年度地球温暖化対策技術評価検討会報告書(環境省)」による1990年度値
2.2 光害対策によるCO₂削減効果
環境省は1998年3月,不適切な照明による天体観測,動植物の生育などへの影響を防止し,良好な照明環境(望ましい光の環境)の実現を図り,地球温暖化防止などを目的に「光害対策ガイドライン」3)を策定した。また同省は,この光害対策ガイドラインの普及を図ることを目的に,「地域照明環境計画」を策定するモデル事業を,鹿嶋市などの6自治体で実施した4)。実施内容は,これらの自治体に以前から設置されていた表2左図の丸グローブタイプの街路灯から,「光害対策ガイドライン」に沿った上方への漏れ光を抑えた照明器具(右図)に改修し,改修による省エネなどの効果を定量的に評価したものである。その結果の一例を表3に示す。
この結果が示すように,街路灯の上方光束を抑制し,照明器具を効率の高いランプと組み合わせるだけでも,大幅な省エネルギー化(CO₂削減)が図れることがわかる。
改修前 上方光束比50(%) |
改修後 上方光束比3.7(%) |
評価項目 | 改修前 | 改修後 | 効果 | |
---|---|---|---|---|
漏れ光 | 上方光束比(%) | 50.0 | 3.7 | 93%削減 |
上方光束(ℓm) | 11,000 | 370 | 97%削減 | |
近隣ビルの壁面輝度(cd/m²) | 1.0 | 0.09 | 91%削減 | |
グレア | 照明器具の輝度(cd/m²) | 9,540 | 790 | 1/12に削減 |
照明効果 | 路面の照度(ℓx) | 1.4 | 7.3 | 5.9ℓx増加 |
省エネ | 入力電力(W) | 435 | 185 | 57%削減 |
総合効率(ℓm/W) | 50.6 | 54.1 | 7%増加 | |
年間電力費(円) | 40,020 | 17,020 | 57%削減 |
参考文献
- (社)照明学会,「屋外照明などの国内実態に関する調査」1997年1月,p.93.
- (財)日本システム開発研究所,「光害対策による二酸化炭素排出量抑制効果に関する調査」,p.10 (1997).
- 環境省,「光害対策ガイドライン」1998年3月.
- 環境省大気保全局,「地域照明環境計画策定マニュアル」,p.39 (2000).
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