施設報告

大川 南天満公園護岸,堂島川護岸ライトアップ - 河川を彩る照明演出 -

国内営業本部 営業技術部LCS
国内営業本部 営業技術部
国内営業本部 大阪営業所

キーワード

大阪,大川,堂島川,護岸,LED,フルカラーLED,ライトアップ,ライン照明

1.はじめに

1.1 施設概要

大川(旧淀川)は,大阪の中心を流れる河川である。
夏には大阪の三大祭に数えられる天神祭の会場となり,水辺に多くの屋形船が浮かび賑わいを見せ,水都大阪にとってシンボル的な河川である。

堂島川(旧淀川)は大川が中之島によって北と南の2本に別れ,中之島の北側を流れる河川である。
堂島川沿いには中央図書館,市役所,日本銀行,国際会議場などの文化施設,大型のホテル,マンションなどが立ち並び,古くから水路とし,商業・産業・生活の中心的な役割を担い,大阪の発展に多大な影響を与えている河川である。
また,河川に架かる特徴的な橋梁が数多くあり,水の都大阪を象徴する景観を形成している。

1.2 業務目的及び背景

大阪府では,他都市にない大阪の魅力を高め,ブランド力を向上することを目的として,「水都大阪(ライトアップと水辺のにぎわい創出)事業」を進め,水都大阪の再生に取り組んでいる。
特に,世界的にも稀な都市部を囲む河川は,「水の回廊」として整備し,再び水をいかした新たな都市の魅力を創出し,大阪都市部の再生にも繋げていくため,四季折々・昼と夜の街の表情など,「時・時代」を感じる水の回廊づくりを目標としている。

その中で,既存資産を活用した効果的な光の景観形成を推進し,人を引き付ける空間創出を目指した恒久施設のライトアップが計画された。
その一環とし,大川から堂島川を夜間においても魅力ある水辺の空間を創造することを目的とし,護岸部の光の演出が計画された。
大阪府は各地域に合わせたデザイン方針に基づき,民間企業の創意と工夫に満ちた魅力的な提案を広く求め,最優秀提案者と契約する公募型プロポーザル方式を採用し,演出方法,業者選定を行った。

護岸照明演出の範囲として,以下の4区間の公募があり,2012年1月に整備完了し,「水の回廊」の夜間景観として観光資源となっている(図1)。(※橋梁などについても公募している。)

図1 全体地図

  • ①南天満公園 桜ライトアップ(大川 南天満公園内護岸) 2009年4月公募,2010年6月竣工
  • ②堂島大橋上流右岸ライトアップ(堂島川 大阪国際会議場前護岸) 2009年10月公募,2011年3月竣工
  • ③玉江橋上流左岸ライトアップ(堂島川 ほたるまち前護岸) 2010年10月公募,2011年12月竣工
  • ④大江橋下流左岸ライトアップ(堂島川 日本銀行北側護岸) 2011年3月公募,2012年1月竣工

これらの業務は,公募時に照明デザイン,初期設計,工事積算を提出し,総合評価により業者選定され,契約後,実施設計,照明演出実証実験,照明器具設置工事まで実施する内容で発注されている。
特質している内容として,公募時提案内容を業務期間中に現地にて実証実験を行い,提案内容が施設に即した演出効果となるのかを確認し,さらに,発注者(大阪府),監修者の意見を取り入れることを義務づけている点である。
現地で実証実験を行うことにより,明るさ,グレア(不快な輝き),光色,配置を周囲景観,周囲状況により調整し,対象施設だけではなく全体景観として,より街に合った照明演出となるよう考慮されている。

2.南天満公園 桜ライトアップ(大川 南天満公園内護岸)

2.1 コンセプト

図2 天満橋からの景観

南天満公園は,水都大阪の中心的な大川沿い,古来より舟商により栄えた八軒家浜の対岸に位置することから,「水」のシンボル的な地域となっている。
そのような地域からの景観を創る公園内の「桜」のライトアップにおいても,地域性を損なうことがないよう,「水」をテーマに演出を行う。
水を感じさせる要素を光により表現することで,夜間においても地域性を感じさせる演出となる。
また,古来より栄え,現在へ変化してきた「時間」を表現し,これまでの時間,これからの時間を夜間景観に浮かび上がらせ,地域との一体化を創りだす。
水により発展し,絶えず変化し続ける大阪の街と同調し,絶えず変化する景観を創りだすことで,現在~未来においても飽きのこない景観を創り,地域と共に時間を共有する照明演出とする。

2.2 照明手法及び照明器具

主要視点場を商業施設有する対岸護岸に設定し,公園内川側にある54本の桜の演出を主軸に,水面の演出(440m),公園内の高木の3か所を照明し,奥行きのある景観を創りだす(図3)。
対岸からの景観は桜だけではなく,川から背景の高木まで全体が景観の要素となるため,公園全体での照明計画となった。
明るさのバランスとして,桜を目立たせるよう背景の高木は全体像が解る程度の明るさは確保しつつ,桜より明るさを落とした計画となっている。
また,照らされている景観のみが夜景に映しだされるよう,照明器具からの輝度をできる限り抑制している。
実施はされてはいないが,計画時には既設公園灯の輝度も抑制する実験を行っている。

図3 公園全体断面図

2.2.1 桜の演出

桜54本を全体的に照らすことで桜の四季の表情を夜景に浮かび上がらせ,緩やかな時間の流れを表現。
夜間において川は暗くなり流れが感じられないため,桜を下方から照明することで水面への映り込みを多くし,水の流れを感じさせる。
桜一本に対して,3種類の異なる光色で照らし,立体感,奥行き感のある演出を行い,見る場所や時間により異なった景観,飽きのこない景観を創りだす(図4)。

図4 護岸部断面図

照明器具は全て,いたずら防止,火傷防止,公園内からのグレアがないようルーバー付きの保護ボックスに入れ込み,演出を行っている。

照明器具A(川側):アーバンアクト®β(中角タイプ)(HCF1523BHE)+セラルクス®ナチュラルレッド150W(MT150CE-NR)(図5)
  • 桜のほんのりしたピンク色を表現。
    花の季節,葉の季節に桜を生き生きと照らしだす。
  • 色の再現性が重要なため,光の質の高いセラミックメタルハライドランプを採用した。

図5 桜の演出(川側)

照明器具B(幹):LEDioc FLOOD NEO(広角タイプ,電球色)(ECF0972L/SA1/2.4/DG 2900K)(図6)
  • 暖色系の光で幹の色を強調。
    花,葉のない季節に落ち着いた暖かみのある景観を創出。
  • 幹の色を強調することが目的のため,保守性,省電力を考慮し,LEDを採用した。

図6 桜の演出(幹)

照明器具C(公園側):フルカラーLED投光器(図7~9)
  • 色と動きにより水の流れを表現し,水の存在を強調する。
    合わせて,時刻ごとに変化する景観を創り,「現在」の時間を感じさせ,これまでの時間,これからの時間を夜景に映しだす。
    通常は白色系(春夏),暖色系(秋冬)の光で桜を演出。
    毎正時及び毎30分に上流から下流にかけて青い光が流れる。
  • フレキシブルな光色の変化,明暗の動きが必要なためフルカラーLEDを採用した。

図7 桜の演出(公園側)その1

図8 桜の演出(公園側)その2

図9 桜の演出(公園側)その3

2.2.2 水面の演出

よりよい水辺の景観を創出するため,桜のライトアップだけではなく,水面の演出を行った。
対岸からの景観を考慮し,水面に水彩画のような光の映り込みを魅せるライン照明を護岸に配置。
視点場である対岸から照明器具の直接光を隠し,水面のみ光っている景観を創りだした。
合わせて,内側護岸への光も無くすことで器具の位置が解らないようにし,水面が自発光しているような景観を創りだしている。
水面への映り込みは川の水位や波の立ち方など水面の状況により大きく変化し,「水」を直接に感じられる演出となっている(図10)。

図10 水面照明

水面照明器具(400m)

護岸外部の長い区間をラインで照明するため,電力,メンテナンスを考慮し,LEDを採用した。
1WのLEDをラインに見えるように等間隔で配置。
LEDの前面に青色,水色,桃色,白色のカラーフィルタをランダムに設置し,水のさまざまな色彩を感じさせる演出となっている。
合わせて,水面の煌めき感に抑揚をだすため,3WのLED器具を400mの中にランダム配置している。
照明器具は施工性,メンテナンス性を考慮し,1台あたり1200mmとし,LEDは実証実験により120mm間隔で配置している。
LEDは青色フィルタが基本色のため,色温度の高いものを選定している(図11,12)。

LEDライン照明
  • LED1Wタイプ(紐状)1器具(1200mm)120mmピッチ/10個(400m)
  • LED3Wタイプ(個体)ランダム配置(20台)

図11 LED配置

図12 器具断面

2.2.3 高木の演出

主役である桜のライトアップをいかしつつ,公園の奥行き感や立体感を創出し,豊富な自然環境を夜間においても強調できるよう演出している。
公園内の樹木や施設に影響がなく設置可能で維持管理もしやすい位置を検証した配置計画を基に,八軒家浜からの視点場より,最も効果的なライトアップになる設置箇所を実証実験により選定し,1か所にHID投光器アーバンアクトβ(狭角タイプ)(HCF1522BHE)+セラミックメタルハライドランプ セラルクス150W(NT150CE-W/S, 4300K)4台で6か所点灯している。
1か所は夏期に効果の薄い演出箇所があるため,冬期のみ点灯している(図13,14)。

図13 高木の演出(夏期)

図14 高木の演出(冬期)

投光器は周囲への漏れ光,照明器具の輝度を抑制するため遮光フードを取付けている。
樹木の枝振りに合わせてエイミングしているため,全ての投光器が異なる方向を向いている(図15)。
また,川沿いの公園で近隣の車道,歩道がG.L面より高い位置にあるため,フードを極端に長く設計している。
長さは実証実験により公園外から光を確認し決定した。

図15 遮光フード実験

2.3 演出スケジュール及び点灯パターン

桜の演出用の3か所に配置した照明器具で点灯パターンを創り,年間で切替え「時間」を演出している。
桜の花,葉のある季節には「照明器具A(川側)」を主に点灯し演出をしている。
紅葉,落葉の季節は幹を照らす「照明器具B(幹)」を主に点灯し,暖かい雰囲気を創りだしている。
また,通年で週末には全ての照明器具を点灯し,明るい雰囲気を創りだし,特別感を演出している。
フルカラー投光器は花と幹の光色とは逆にし,前期はアンバー色,後期は白色で点灯し,立体感,奥行き感を演出している。
週末はアンバー色,白色に水をイメージした青色をプラスし,3色をローテーションで変化させて週末の賑わいを演出している。
また,毎正時,毎30分に常時とは異なる演出をすることで「時間」を表示し,時間を共有する地域に属した演出パターンとすることで「親近感」を創りだしている。
そのほか,年間のイベントに合わせて点灯パターンを変え,街全体での景観を創りだしている(図16)。

図16 演出スケジュール

2.4 照明効果

大阪の護岸を演出する光として,桜のほんのりとしたピンク色を美しく夜景に映しだしながら,花のない季節においても公園の新しい景観が創られ,通年で夜間景観を楽しめる「水辺」の空間を創出できた。
水面の演出は今までにない手法により幻想的な雰囲気を創りだし,自然と一体での効果を創りだした。
単独で照らすのではなく,周囲との明るさのバランスや器具の輝きなど,細かな部分において計画することで,演出がよりよいものになっている。
実証実験を繰り返し,お客さまと一緒に創りだしたことで,これからの大阪の夜間景観の向上,観光資源として貢献できる施設となっている。


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